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夜に溶け込む優しいかいじゅう【のあのわ】

皆さんは、【スクォンク】という生物を知っているだろうか?

スクォンク(Squonk)はアメリカ・ペンシルベニア州北部の森に棲息するといわれる伝説上の動物である。
明け方や夕暮れに活動するとされる。体表はイボと痣に覆われ、病的というほど引っ込みがちな性格で、常に涙を流して泣いている。
もし追いつめられて逃げられなくなったり、驚いたり恐怖にかられたりすると、あふれる涙で全身が溶けてしまうこともあるという。

スクォンクとは、上記の通りドラゴンや吸血鬼のような、伝承として語り継がれる伝説の生物のことである。



幼少期、私はいわゆる本の虫だった。

なかでもファンタジー世界に想いを馳せていた時期があり、学校の図書室でガーゴイルやセイレーンなどについて学んだのも懐かしい記憶である。
しかしながら、【スクォンク】という生物については、私の知識範囲外だった。

急になぜそんなことを思い立ったのかというと、
『スクォンクの涙』というのあのわの楽曲を久々に耳にしたとき、

「スクォンクって一体なんだろう」とふと疑問に思ったのだ。
当時、この曲を聴いていた時は、深く考えず、なんかスフィンクスみたいなものかな、なんて思っていた。(スフィンクスみたいなものってそもそもなんだ……笑)だから、スクォンクの正体が実存したかどうかわからない伝説の生物だなんて思いもよらなかったのだ。


のあのわについては、昨年の音楽まとめに挙げているが、
ギター、ベース、ドラム、そしてチェロ、というバンドではなく、自分たちを楽団と名乗る一風変わったミュージシャンたちである。


のあのわは、当時、リアルタイムで新譜を聞いていた。
彼女たち(といっても女性はvo・チェロのYUKKOのみである。)の魅力は、何と言ってもポップという枠に収まりきらない、まるで観劇をしているかのような感覚に陥るエンターテイメント性のある楽曲だろう。
通常のバンドの編成とは異なって、ギター・ベース・ドラムに加えチェロが含まれている、ということが大きな要因でもあるが、
曲の世界観が、まるでファンタジーなのだ。


夜、子供に読み聞かせる幻想世界の物語。
もしくは、幼い頃に本で読んだファンタジー世界。

あの頃、目をキラキラさせて夢見た世界を、のあのわは創り上げているのだ。

心地良いバンドメロディとYUKKOの歌声。
そして、夢の世界へと手を引いて誘ってくれるかのようなチェロの音色。
真っ暗な世界だけど、星明かりが眩くて。
静かだけど、キラキラと小さな音が煌めく。

そんな世界を創り出すのが、のあのわの魅力だ。


『ゆめの在りか』『夜明け』のような、
眩いほどの星の灯りの世界みたいな、静かで明るい幻想空間を創り出してくれる曲が多かった。

そんな中で、『スクォンクの涙』は、異質だった。



オーケストラの始まりのような、低音の太鼓の音。
まるで舞台の幕前。前座。
チューニングをしているかのような各楽器たちの音。声。
思い思いに自分の音を出してどこか混沌とした音色にも聞こえるが、
その音たちを掻き分けてまっすぐ響いてくるYUKKOの澄んだ声が、どこか神聖な雰囲気を醸し出す。
いろんな音色が鳴り響いて厳かな印象を受けるが、たくさんの音の共鳴は不安を煽ってくるようにも聞こえる。忍び足でこちらに向かってくる静かな恐怖を感じる。
そんなたくさんの音たちが鳴り響く中、急に、その音たちを抑え込むように迫ってくるリズムを刻み出すドラムの音。

それに呼応するようにギターとベースも同様に音を刻む。
そして他の音たちは、嵐が来る前のように急ぎ足で姿を眩ませる。


何かが始まる、という予感。
でも、この先で待っているのは、あのきらきら眩しい世界じゃない、という確信。


見つけて暗いよ
醜いスクォンクのような
消えてしまいたいほどに酔う
自己憐憫

鳴り止まないサイレン
生き残る防御のように
壊れる前に壊そう


他の煌めくファンタジーのような楽曲とは一線を画するような曲である。
悲哀に満ちているかのような歌詞にも受け取れるが、これを歌い上げる力強いYUKKOの歌声から、まるで自暴自棄になって自分自身をも壊してしまいそうな勢いと恐怖すら感じ取れる。


be bubble, be dead.
ハイになるまで
踊って踊ってよ
正解こわして
狂って狂っていく

存在自体スクォンクと似て
そっとつないだ毎晩 藍色
ぞっとするような願いはやめて
やった!自由だ!
ハイだ!ハイになる


軽快なメロディとともに歌われる歌詞からは、まるで子供みたいにはしゃぐ様子が描かれる。
でもなぜかこの曲からは、子供らしさを微塵も感じないのだ。
大人が目を背けて生きて、目の前のことを見たくなくて、子供の頃の自由を強く願った末路、のような印象を受ける。

存在自体スクォンクと似て
そっとつないだ毎晩 藍色


もしかしたら、この子は、自分の存在が醜い、と言い聞かせていたのかもしれない。
そして、そんな自分が嫌で嫌で、夜になるとスクォンクのようにずっと涙を流していたのかもしれない。
場面が切り替わらず、そのまま
やった!自由だ!
ハイだ!ハイになる

と繋がる言葉の羅列にゾッとする。

この子は一体自分の解放・自由を求めて何をしたのだろうか。
拒絶の言葉から繋がれる子供のような純粋無垢な楽観の言葉から簡単にいくつかの正解が見つかってしまうのも怖いと思ってしまう。
この曲を当時聴いていた時は、こんな風に微塵も感じなかったのに。
私ももう子供ではなくなった、ということなのかもしれない。


のあのわの幻想を描く音楽の力はすごい。
キラキラ眩しい世界を夢見て、でもそこに辿り着けなかった人すらも描いてしまうのだから。

ぞくっとするようなおぞましさじゃなくて、
『かいじゅうたちのいるところ』や『三匹のヤギのがらがらどん』みたいな、
毛むくじゃらで目がギョロっとして大きな口に鋭い牙を持つキャラクターがいる読み聞かせ絵本のような怖さ。
そしてそんな絵本の記憶然り子供の頃の恐怖は、大人になっても案外しっかりと覚えているものだ。
読み聞かせ絵本のような、ファンタジーの中の怖さ。
それはつまり、怖さの根源を植え付けれるような、明るいけど根深い恐ろしさだ。


キラキラの夢で溢れる幻想世界を私たちに見せてくれていたのあのわが創り上げた、
どこか不気味で異質なファンタジー。
真っ暗な夜道に、そっと後ろをついてきてくれる、やさしいけどこわい顔をしたかいじゅうみたいな曲。

そして思い起こすのは、自分の感情を押し殺して生きてきたあの日。誰にも見られないように暗闇の中1人で声を殺して泣いていたあの日。
私の中にももしかしたら「スクォンク」は居るのかもしれない。

私の心の中のかいじゅうが優しく眠りますように。

そんな願いを込めて、私はまた彼女たちの幻想音楽を再生する。
また、彼女たちの幻想世界の続きが聴ける、いつか来る日に想いを馳せて。




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私が幼い頃、両親が絵本の定期便を頼んでいて、実家にはたくさんの絵本が並んでいます。
『かいじゅうたちのいるところ』や「三匹のヤギのがらがらどん」は、特に幼い頃読んでもらって、こわい絵本としてしっかりと記憶に根付いた作品でした。
海外特有の化け物のギョロッとした目、全てを飲み込んでしまうような口、闇に溶け込む色使いがどうしても苦手でした。
夜、トイレに行くまでの暗い廊下にかいじゅうが潜んでいる妄想をしてしまい勝手に怖くなり、トイレまでの廊下を実家の猫を抱えてダッシュしていた記憶があります。笑
『スクォンクの涙』はのあのわの曲の中でも特に好きな曲で、改めてじっくり聴いた時、可愛いらしい絵本なんだけど怖さが潜む、みたいな曲だなぁ、と思ったので、私の記憶を遡って例えとして2冊の絵本を挙げました。(どちらも有名な作品なので、読んだことがある人も多いかな、と思い。)


ちなみに、私はもうおとなになったので、
実家のトイレまでの暗い廊下は、猫を抱えずに歩いて行けます。
成長しました。笑



きいろ。

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