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優しきロックンロール【くるり】

いろんな人が口々に語る、日本のロックバンドを牽引してきたレジェンドのような、伝承のような存在のバンド。
「NUMBER GIRL」「SUPER CAR」、そして、「くるり」


これまで何度か書きましたが、私は、中学に入るまでロックバンドを聞かずに育ってきました。
地元に1つだけある、映画鑑賞会みたいな、地域の催し物を行う会場と化している小さなライブハウス。
ショーウィンドウには管楽器が並ぶ、地元唯一の楽器屋。
至る所で見かける、ピアノ教室の文字。

私はそんな環境で18年間過ごしてきました。
そして大学で軽音サークルに入って、楽器屋に連れて行ってもらった時、奥までびっしりと並んでいる色とりどりのギターやベース達を間近で見てどれだけ心躍らせたことか。

と、そんな背景もあり、当然、最初に挙げた3バンドのことは、大学に入るまで知りもしませんでした。
(厳密にいうと、くるりはCMで聞いたことあるくらいでした。)
サークルに入って、第一声で「サカナクションが好きです!」と自己紹介をすれば、きっと私と同じ感性を持つ人が見つかるだろう、という安直な思いで、
ことあるごとに、"サカナクション好き"をアピールしていたところ、
ある先輩に、「くるりとか聴かんの?」と言われました。
"くるり"
その名前を聞いたことはあるけど、曲をじっくりと聴いたことはないし、なんならどんなバンドかすら全く分からず、「聴かないですね〜」とその時はさらっと答えました。
その先輩は、「サカナクション好きなら、多分くるりもハマると思うけどなぁ」と私に向けてではなく、本当に独り言のようにボソッと呟きました。
その時は特に気にもせず、そんな会話もすっかり忘れていました。

それからいくらか経った後、サカナクションの山口一郎さんが、パーソナリティを務める、Night Fishing Radioが始まりました。
私は当時、欠かさず聞いていたのですが、その中で、”くるり"の特集の回がありました。
その時、ふと、私はあの時の先輩の言葉を思い出したのです。

「サカナクション好きなら、多分くるりもハマると思うけどなぁ」

思えば、その言葉がことのはじまりだったのかもしれません。
ラジオを聴いた後、私はくるりを聴き漁りました。
好きか嫌いか、でいうと、紛れもなく好き、でした。

気になるバンドのライブは行くに限る。

社会人になり、一人暮らしをしていることもあり、気軽にライブに行ける状況となった今、私を引き止める要素なんて微塵もありませんでした。
大御所バンドのライブ。
こんな新参者が行っていいのかな、と少しだけドキドキしながらチケットをとりました。



そして、2020年4月1日。

私にとって、人生初のくるりのライブ。


になる予定でしたが、なりませんでした。

ちょうど1年前。
私たちの生活が大きく変わった頃ですね。
コロナの影響で、ライブの中止がアナウンスされました。
どこにもぶつけようのない思いを抱えて、発券することのなかったチケット当選の画面を見つめながら、仕方ない、とだけ思うようにしました。

それから1年と少し。


2021年6月2日。「くるりライブツアー2021」

私にとっての初めてのくるりのライブ。
くるりのライブに行く、という夢が、1年越しに叶いました。

(ここから先、少しセトリ内容を含みますので、ライブ参加予定の方はご注意を。)



初めに言っておくと、私は、くるりの楽曲を流して、曲と曲名が一致しない、というレベルのくるり初心者です。
好きな曲は、『WORLD’S END SUPERNOVA』、『ばらの花』、『琥珀色の街、上海蟹の朝』、『東京』、と、メジャーどころばかり。
そして、あえて、くるりのライブをほとんど予習せずにその日を迎えました。
照明が落ちて、メンバーがステージに現れる、その瞬間からまっさらな気持ちでくるりのライブを楽しもう…!と思って。

開演時間が少し過ぎたところで、照明が落とされ、会場内の空気も少し緊張感のあるものへと変わります。
周りを見回すと、私よりもひと回りほど上の年齢の方が多く、そして、みんながまっすぐにステージへと向ける眼差しから、長く愛されているバンドなんだな、ということが会場の空気からも伝わってきました。

さぁ、どんなSEで登場するのか、どんな音で始まるのか。
そわそわざわざわした面持ちでその時を待っていました。

瞬間。
落とされた照明が、パッとステージを明るく灯します。
そして、たくさんの拍手に迎えられながら、ぞろぞろと、まるで今からリハをするかのような足並みで皆がステージへと現れます。
私は拍手をしながら呆気にとられてしまいました。
SEもなし。メンバーごとに登場、なんてこともなし。
そして、岸田さんが放った、「こんばんは。くるりです」という始まりの言葉。

ZeppNambaという大きな会場で、こんなにさらりと登場するのか、と。
そして、今から他愛もない話をするよ、とでもいうような、簡単な挨拶。

一切の飾りっ気のない始まり方に、くるりというバンドの姿そのものが表れているかのように感じました。



そして、始まった1曲目。
『琥珀色の街、上海蟹の朝』

初期くるりを追ってきた人たちからすると、異色なこの曲。
私がくるりを聴くようになった時には既にこの曲はリリースされていました。
そんなこともあってか、私にとって、くるりはすでにいろんな面を持つバンド、という認識でした。
韻を踏んでいる歌詞、スローテンポのノリやすいメロディ、心地いい歌声。
正直、この曲が、ライブで聴けるなんて思いもしませんでした。


そして、続く曲は、『ばらの花』
始まりのギターのメロディを聞いて、ゾクゾクっとしました。
あぁ、この曲を目の前で聴くことができるなんて…!!!
ギターや鍵盤は同じフレーズの繰り返し、というとってもシンプルな音構成で出来てる楽曲で、すっと身体に入り込んでくる曲。
曲を牽引するベースも、ギターや鍵盤にそっと寄り添うような、優しいメロディ。

曲が終わって、近くにいた人が、ドリンクコインで交換したであろうジンジャーエールをぐいっと喉に流し込んでいるのが目にとまりました。
今回のライブは、酒類の提供をしていなかったのですが、
くるりのライブに、ジンジャーエール!!!なんて乙なんだ!!と、
お酒と交換できないことを残念に思いながら何も考えずにソフトドリンクを交換してしまった自分を悔やみました。
(後から冷静に考えると、そういえば、ジンジャーエール、苦手でした…。そもそも飲めないや……笑)


3曲目は『さよならリグレット』
今回のライブで一番、くるりというバンドの大きさを感じたのが、この曲でした。
もともとこの曲は、とっても綺麗なメロディだなぁ、という印象を持ってはいたのですが、
サビにかけてのメロディの静かな盛り上がり。そして、心地いいハモリ。
イヤホンで聞いた時には感じなかった、
曲が進むにつれて会場全体が一段階明るくなるような、心にパッと照明が当たるような、なんだかそんな空気を感じました。

1曲目、少し暗い夜・もしくは明朝からゆっくりと歩いていき、しとしとと雨が降る静けさのある季節が過ぎ、そのまま明るい太陽が出るところまでつれてきてくれたような、ゆっくりと観客と一緒に歩いているような楽曲たち。
この大きな箱の中で、確かにそんな景色・空気を感じたのです。

特別な演出がなくたって、目の前の演奏だけでこんなにも会場を彩ることができるなんて……。
やはり、くるりはとんでもないバンドなのだな、と、ひしひしと感じました。


そして、そんなレジェンドのようなバンドのボーカル、岸田さんはMCで、
「このタオル、汗をものすごく吸う!!角質まで取れちゃうよ!!」
なんて言い出すので、笑ってしまいました。笑
はじめの一言に納得してしまうような、他愛もないMC。
あれ、この人たち、もしかして、ただの音楽好きのすごいおじさんなのでは?と思ってしまいました。(失礼)


「ロックバンドのようなバンドじゃないけど」
と、”くるり”というバンドを岸田さんが言い表す、そんなMCもありました。
確かに、バラード調の聴きやすい楽曲が多くて、これがロックバンドなのか、と聞かれれば、すぐに首を縦に振れない気もします。
そして演奏された『花の水鉄砲』『さっきの女の子』

さっきのMCは、岸田さんなりのギャグか何かなのだろうか、
と思うほどに、目の前の音楽はまさにロックバンドのそれでした。
軽快なメロディ。楽しそうにガシャガシャと弾き鳴らすギター。
そして何より、こんなにもギターとベースとドラムとキーボードと、それらのメロディが合わさって、私たち観客がみんな心躍らせている。
それこそがロックバンドなんじゃないかな、と思えました。

耳が劈くような煩い音楽だけがロックじゃないよね。
長年やっているバンドだからこそなのか、
くるりは自由な音楽の在り方を証明してくれているような気すらします。
当たり前だけど、その全ての楽曲が嘘偽りのない”くるり"というバンドが生み出したものだから。
やっぱり軽く一聴しただけじゃ、このバンドの凄さはわからないや、と改めて思いました。


そして、本編最後の曲は、『ロックンロール』
この曲もギターが同じメロディを繰り返す、というシンプルで変わった構造。
それでいて、軽くスキップするような軽やかなメロディで、曲が始まるその瞬間から、私たちをワクワクさせてくれます。
このコロナ禍の中でのライブなので、もちろんたくさんの規制はありましたが、それでも、みんな立ったり座ったり、手をあげたり、体を揺らしたり、規制の範囲内で自由に思いのままに音楽を楽しんでいる、この光景そのものがなんだかとっても嬉しくなりました。
今日を迎えるまで、たくさん辛いこともあったけど、今この瞬間だけは、そんなこと忘れて、会場にいるみんなが目の前の音楽で心を躍らせる、そんなあったかい空気を感じて、やっぱり音楽って素晴らしいな、って、そんな風に感じました。
(動画は最高峰のグルーヴを感じられる公式のライブ映像です。)


演奏が終わって、深々とお辞儀をしたその姿に絶え間ない拍手が続きました。
そして、袖に戻って、アンコール。
かと思いきや、スタッフが何やら伝達。
そして、袖に戻ることなく、すかさず再び楽器を手にする皆さん。
「時間が押しているので、アンコールをいただいた、という程で」
と少し苦笑いしながら話す佐藤さんに向けて、
大きな大きな拍手が送られ、そのままアンコールへ。



これは、ライブの日の私のルーティーンですが、移動中はイヤホンをつけ、そのアーティストの楽曲を聴きながらライブ会場へと向かいます。
ライブでどんな曲が聴けるかなぁ、とか、この曲聞きたいなぁ、とか、あ、この曲のここ好きなんだよなぁ、とか。
曲との出会いだったり光景を思い返し、ワクワクを募らせながら会場へと向かうのです。

そして、この日ももちろんくるりを聞きながらライブ会場へと向かいました。
ちょうど会場が見えてきたくらいで流れてきたのが『奇跡』でした。

くるりを意識して聞き始めたのは大学生からですが、思い返せば、くるりの曲との出会いは、それよりもずっと前でした。確かCMで聞いたことのある曲。でもその曲がなんなのか、はっきりと思い出せませんでした。あれもこれも昔聞いたことがあるような気がして。
でもなぜか、この日、『奇跡』が流れた瞬間に、
あ、この曲でくるりを知ったんだ、
と確信的に思ったのです。
CMまでは思い出せないけど、私の記憶の奥深くに眠っていたあの時の曲は、確かに、この優しいメロディだった。
あぁ、あの時は、ただのBGM感覚で音楽を聴いていたんだっけなぁ、と懐かしみ、それと同時に、そのBGMがちゃんと記憶に残っている私の脳みそに少し感心しながら、会場へと歩みを進めました。



アンコール2曲目。
ライブの終わりを告げる曲が、その『奇跡』でした。
私が今日フラッシュバックした記憶を綺麗に色付けてくれるような目の前の演奏に、紛れもない運命のような、奇跡を感じました。


1年前、ライブが中止になり、今回のライブも、正直、開催されるかどうか不安でした。
開催されるとアナウンスがあっても、やはり心のどこかで不安に思う気持ちはありました。
ライブに行く選択をした人も、行かないという選択をした人も、どちらも間違っていないし、その選択を咎めるようなことがあってはいけない。音楽が生き続けるために、そうあるべきだと私は思います。
だから、私は私の選択に自信と責任を持って、今回のライブに赴きました。
初めてのくるりを、1年待ちました。
チケットを取った時から考えると1年以上前。
念願のくるりは、素晴らしいの一言で語れないほどに完成されたバンドで、いろんな景色を音楽に乗せて私たちへと届けてくれるロックバンドでした。

くるりの多彩な良さを語るには、私はまだまだくるりを知らないし、聞き足りないな、とも思いました。
何せ年代がバレる岸田さんのギャグがわからなかったので、私はまだまだひよっこです。うーん……笑

新譜「天才の愛」の曲は、ほとんど演奏していないという今回のツアー。
どうやらファンの皆さんを唸らせるセトリだったようで。
これが初くるりなので、私はとてつもなく幸せ者なのかもしれないなぁ、なんて思ったり。


そして、今回のツアー。大阪、名古屋は既に公演を終えていますが、
先日、東京公演の模様が、後日配信されることが発表されました!
(配信日は6/19だそうです。)

気になってる方は是非チェックしてみてください。
会場では呑めなくても、お家だと何杯も呑めちゃうので、この期間の配信ライブもいいですよね〜
次くるりのライブに行くまでに、ドリンクチケットでジンジャーエールを交換できるようになるのが私の当面の目標です。笑(どうにも苦くて苦手なのです…笑)



きいろ。


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