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シネマセラピー6 手放そうとして手放せないあなたへ

シネマセラピー
映画をひとつ、心の小さな処方箋に

(ストーリー ネタバレ注意)
 
 

2011年映画 『愛してる、愛してない』
 

邦題が同名のフランス映画もありますが、これは韓国映画。
日本の作家、井上荒野の「帰れない猫」が原作です。

公開当時、出演者たちが情熱を持ってノーギャラで演じたことでも話題になりました。とても良い素材の良い映画だと思います。

  

結婚5年の夫婦。出張に行く途中の車の中で、妻が夫に唐突に別れを告げる。他に恋人がいるらしい彼女に、夫は怒りをぶつけるでもなく、ただ淡々と受け入れている様子。

妻が家を出ていく日は記録的な大雨になり、荷物の整理をしている2人は家に閉じ込められる。
ひょんなことから子猫が家に迷い込み、隣人の仲の良い夫婦が子猫を探しにやってくるが・・・

  

  

静かな会話と、静かで息詰まるような夫婦の思いと、雨の音だけで進んでいく映画です。
夫が優しすぎるのが歯がゆい感じがしますが、それがとても良い効果を出しています。

韓国映画というと、感情を激しく表すようなドラマの演出などを思い出す人が多いかもしれませんが、こうした、静かで奥深い映画が実はたくさん存在します。

  

別れを切り出した妻の「あなたは捨てることが苦手だけど、私は捨てるのは得意」と、夫に向かって言うセリフがあります。

自分は今のこの生活を捨てることなんてなんでもないのだ、という決心のようなものから発せられたセリフに見えますが、様子からして少しの迷いがあるのがわかります。

  

何かを手放すとき。
それは、自分の決断を受け入れることで初めて手放せるものなのかもしれません。 

成功と失敗、正しさと間違い、良い悪い、人生にはその両方があってこそ成り立つもの。だから自分にとっての正解など選ぶのは難しい。
手放すのか、手放さないのかを選ぶことは、選ばなかった人生があったということも、受け入れるということになるのかもしれないですね。

彼女の、過去へのふり返りと、先の未来への一瞬の迷いが見えるところには、「捨てる」つもりでいても捨てることにならないかもしれないことを知って、いら立っているのが伝わってきます。
夫の優しさ、抑えた感情、2人の間にある馴染んだ空気は、確かに存在しているものだからです。なかったことにはできないものだからです。

置いていくものは捨てるものではなく、彼女の中に積もっているだけ。その存在をすべて引き受ける覚悟が必要なのでした。
物も、思い出も、彼の気持ちさえも。

人が何かを手放すとき、手放すものは関係なくなるものではなく、それは自分の中に残り、自分の一部になるのだと認めることが必要かもしれません。

  

一方、夫の側から見てみると、手放さなければいけなくなったものを、手放せずにいるのは彼の方では?ということになるのかもしれません。

不倫をした妻に怒りをぶつけることもせず、荷造りを丁寧に手伝い、最後の思い出にと素敵なレストランを予約するという行為。
最後をきれいに飾ろうとすることで、過去を台無しにしないように頑張っているのは自分のためなのでしょう。 

夫が妻へ感情をぶつけることで、2人のための未来を変えようとは思っていないことから、その優しさは見せかけの思いやりだと妻に伝わり、「身勝手」だと言われてしまいます。
夫にとっては、これがすべてを受け入れるための過程なのかもしれないのに、そうとは妻には伝わりません。

この映画の原題は「Come Rain, Come Shine」。降っても、晴れても。
降っても晴れても、雨も陽の光も、どちらも必要としながら人生は進んでいきます。

捨てても選んでも、すべてはなくなるものではない。消せるものではないのです。

手放すということは、取捨選択することではなく、すべてを受け入れることから始まるのではないか、と、この映画の夫婦は苦しみながら理解していくのかもしれません。

妻の最後のセリフは、何の意味を含んでいる言葉なのでしょうか。
あなたはどう思いますか?
 
 
 

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