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最近見た映画メモその6〜『ワンダーヤリマン/ドバットマンVSスーパーマン棒の性戦』『冬の旅』


『ワンダーヤリマン/ドバットマンVSスーパーマン棒の性戦』(2015)アクセル・ブラウン

前々から気になっていたヒーローもののエロパロ映画がU-NEXTとH-NEXTの狭間みたいなエリア(日活ロマンポルノやなんかもここにある)にたくさん置いてあったので見てみた。戦後最悪なのではないかと思われるレベルでドイヒーな本作のタイトル『ワンダーヤリマン/ドバットマンVSスーパーマン棒の性戦』(2015)はもちろん日本の配給会社が勝手につけたもので、原題は『Wonder Woman XXX: An Axel Braun Parody』という、非常にそっけないものだったりする。みなさんご存じの『ア・デター』(2010)も『コスッテ・バスターズ/スマターライフ』(2011)も『ハメンジャーズ』(2012)も『アーンイヤーンマン2』(2013)も『マエヴァリン』(2013)も『マイチン・ソー』(2013)も『パイ・オツ・スティール』(2013)も『オッパイダーマン/モンデカミング』(2014)も『HナMEN』(2014)も『ジャック・デルワー 24』(2014)も『キャプテン・ハメリカ2』(2016)も『スーパーシリガール』(2016)も『ヤリチン・リーグ』(2017)も『デッドピュール』(2018)も『キャプテン・モーデル』(2019)もこのパターン。これらはすべて「(元ネタの映画タイトル) XXX (冠詞) (監督名) Parody」という業界のフォーマットに沿っているらしい。
驚くのが、いま列挙した映画をすべて「アクセル・ブラウン」というひとりの巨匠が手がけていることで、この人はエロパロ映画界のレジェンドと呼ばれているんだとか。これだけたくさんの場数を踏んできたからにはさぞかし職人的なすばらしい演出を見せてくれるのかと思いきや、ぜんぜんそんなこともなかったりする(笑)。しょせんは早撮りの低予算映画なので仕方がないのだが、ライティングは日本のドラマかというぐらいに安っぽいし、会話の場面も俳優のボソボソ喋りを顔の切り返しショットで処理するだけなので、見ていていまいち味気がない。
そしてもっとも致命的なのが肝心の性行シーン。これがとにかく面白くない。本作『ワンダーヤリマン/ドバットマンVSスーパーマン棒の性戦』はあくまでソフトコアポルノぐらいの立ち位置の作品なので、キスシーンがあったりパイオツのビーチクが映ったりはするのだけれど、性器とその周辺部分はいっさい映らない。セックスのくだりは基本的にお互いのペニスとヴァジャイナを衣装越しに擦り合わせるだけ。「AV女優の出ている過激イメージビデオ」を思い浮かべてもらうとわかりやすいのではないだろうか。しかし、結合部を映すことができない、という制約のせいなのか作り手たちはだいぶ苦心しているように見える。カメラはほとんど動かんわ、体位もほとんど変えんわ、しまいには同じカットを何度も何度も使い回して尺を稼ごうとするわで、ひたすらに淡白。実用性がまったくないのである。日本のアダルトビデオおよびイメージビデオがどれだけ工夫して作られているか、ということをあらためて思い知らされる作品でもあった。ただし、ジョーカーならぬ「シヨーカー」やハーレイクインならぬ「ハーレムクイン」をはじめとする登場人物の衣装やメイクはなかなか本格的で、よくできていたのではないかと思う。
さて、映画のお話はというと、なんと微塵も存在しないのだ。スーパーマンならぬ「スーパーマン棒」がスーパーヒロインたちをこましまくってむかつくのでみんなでもってお灸を据えてやろう、ひいてはやつの恋人を殺してやろう、みたいなところまでは読み取れるのだけれども、基本的に本作『ワンダーヤリマン/ドバットマンVSスーパーマン棒の性戦』は3分喋って15分セックス、3分喋って15分セックスの構成で、しかもセックスの最中はドラマが完全に停滞してしまっているがゆえに、ストーリー性ははっきり言ってなきが如し。信じがたいのが、タイトルに冠されたワンダーウーマンならぬ「ワンダーヤリマン」が映画の残り10分ぐらいまでまったく姿を見せないところだった。ようやっと出てきたなと思ったら、喧嘩中のスーパーマン棒とバットマンならぬ「ドバットマン」の間に割って入ってみんなで3Pして仲直りして終わり、というあまりにも酷すぎる有様だ。
俺はふだん一本のAVをはじめから終わりまで一気に見ることがないので(というか人生で一度もない)、エロくもなんともない淡白なセックスシーンが尺のほとんどを占める本作『ワンダーヤリマン/ドバットマンVSスーパーマン棒の性戦』を見通すのはたいへんにつらい作業だった(現に休憩を入れながら3回ぐらいに分けて見た)。しかしよくよく考えてみると、いわゆる「普通の商業映画」っちゅうのは、無修正のチンポや無修正のヘアーをふだんからガンガンに見せているではないか。それらは「おれたちがやっているのはあくまでアートだから」みたいな理由でなんとなく正当化されているわけだけど、極端な例を出すなら、ラース・フォン・トリアーの『イディオッツ』(1998)は、無修正の性器どころか本番中の結合部のクロースアップなんかも平気で映していた。にもかかわらず、ひとたび「ポルノ映画」を標榜したとたんに表現が貧しくなってしまうのはなぜなのか。なぜポルノを見ているのに俺のペニスはピクリとも来ないんだろう。むろん事態を単純化して、「結合部が見えておればエロくて、見えておらなければエロくないのだ」なんてなことを言いたいわけではないのだが(むしろ個人的にはAVよりも過激イメージのほうが好きだったりする)、なんだか見る前よりも悲しい気持ちになってしまったのであった。


『冬の旅』(1985)アニエス・ヴァルダ

トー横なき時代のトー横キッズ映画。
冬の南仏。片田舎の農村の畑の側溝でひとりのホームレス女性の凍死体が発見されるが、警察のテキトーな現場検証の結果、その死は単なる事故だとして処理されてしまう。映画は彼女がそうなるに至った経緯を関係者の事後的なインタビュー証言を随所に交えながらドキュメンタリータッチで描いていく。本作『冬の旅』(1985)は、ロベール・ブレッソンの『少女ムシェット』(1967)やショーン・ペンの『イントゥ・ザ・ワイルド』(2007)などの系譜に連なる、いわゆる「野垂れ死に系ロードムービー」。世界で評価される女性監督の草分け的存在でもあったアニエス・ヴァルダの遺作であり傑作だ。
「なぜ彼女はこのクソ寒い中、ひとりで旅をしているのか?」「どこへ行こうとしているのか?」「家族はいないのか?」映画がそれらの質問に答えることはない。われわれ観客に唯一わかるのは彼女の名前が「モナ」であること。いやさ、ことによったらそれすらも嘘なのかもしれない。自身の過去を絶えず消し去りながら生きる彼女は、ヒッチハイクでもってフランスのあちらこちらを旅する。夜になるとその辺の空き地にテントを張って野宿をし、たまに善意の人たちの家に泊めてもらったりやなんかもする。けれども、どこへ行ってもその関係が長続きすることはなく、毎回喧嘩別れのようなかたちで追い出されるはめになる。
思うに、モナは今の言葉でいうところの発達障害や軽度のアスペルガー症候群を患っていたのではないだろうか。早い話、人付き合いが絶望的に下手なのである。自分を泊めてくれた家の人たちに対してありがとうも言わず、さもそうしてもらって当然だとでも言わんばかりに踏ん反り返り、彼らからそのことを指摘されると逆ギレして毒づく始末。俺がまさにそういうタイプなのだが、この手の人間はとにかく、他者と長期的な関係を築くということができない。初対面だったり二度と会わない相手ならまだごまかしが効くのだれけども、同じ相手と何度も何度も顔を突き合わせるうちに対人性の無さを否応なしに露呈してしまい、そこに発達やアスペ特有のトンチキな行動が組み合わさった結果、周りから知り合いが少しずつ消えていき、孤独の沼にズブズブとはまり込んでいく。
そして、この手の人間はまともに働くこともままならない。劇中の例でいうと、ブースに突っ立ってヤギのチーズを売ったり、植物に生えた枝の剪定をしたり、といった単純作業にモナはすぐに飽きてしまう。生きていくための糧を得るために毎日毎日同じ動作を繰り返したり、いけすかない連中の命令に従ったりすることにどうしても我慢がならない。そんなことをしなきゃならんぐらいなら、人脈リセットをかまして路上をほっつき歩いている方がまだマシだ、というわけである。俺は本作の鑑賞中、モナの姿と現代のトー横キッズとがダブって見えて仕方なかったのだけれど、ことによるとトー横キッズたちも、「正常な人間」が敷いたレールに乗っかって生きることができない人種なのかもしれない。周りはそれに対して「自堕落だ」とか「怠けてる」かなんか言うのだろうが、世の中にはどう頑張っても普通に生きられない人間が掃いて捨てるほどいる。こればっかりは理屈ではどうにもならない。
ただし、モナに限っていえば彼女が全面的に悪いわけではないようにも思うのだ。彼女が狂っているのと同じぐらい、世界のほうも狂っている。自分のことを手軽に突っ込めるオナホール程度にしか認識しておらない市井のクズ男どもや、低賃金で移民を搾取する強欲な地主や、くたばり損ないの老婆におべっかを使う遺産目当ての男。世の中には救いようのない悪徳(だいたい男)があふれている。それらとまともに向き合いたくないがゆえにモナは当て所のない逃走を続けるのだ。むろん、トー横なき時代のフランスにトー横キッズの居場所は存在しない。ついに安住の地を見つけることがかなわなかったモナが最期にとった行動とは? そこで見せる表情とは? ぜひみなさんの目で確かめてほしい。

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