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毎雨

6月10日 Piazzollaを聞きながら
 
累乗的に増える雨粒の数
 
ぽつ
ぽつぽつ
ぽつぽつぽつぽつ
ぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつ
ぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつ
ぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつ
ぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつ   続く続く・・・
 
5月にオホーツク海を中心に発生し発達した高気圧は、先週には朝鮮半島の根っこの辺りまで張りだしていて、太平洋にある大きな高気圧の西端の勢力と 北緯30~35度 つまり九州から関東の間、長さ3000から5000㎞で力の均衡が保たれている。天気予報のおじさんが言う梅雨前線とはこれことで、そこでは太平洋の水分をたっぷり含んだあったかい風と、オホーツク海・日本海を越えてきたじめっと湿った冷たい風が衝突して一気に水滴化する。天気図で半円のフリルと三角のフリルのような記号が交互に書かれているのはこういう意味。このあと2週間はこのバランスが大きく変わることはない。
 
買ったばかりの もちろん新車。雨の中をとくに当てもなく走っている。今日で梅雨入りして一週間。雨の降らなかったのは昨日だけだった。
 
こんな季節に車なんか買うんじゃなかった
と最初は後悔してた
今はこれもまたイイじゃないって思える
車内に取り残される感じとか
それに新しい機械の匂いは好き
 
エアコンを強めに設定して長袖のシャツにジャケット、60GBのiPodをトランスミッターからFMラジオ経由で聞いている。
 
ピアノとバイオリンとコントラバスとバンドネオンと
このお天気と
このまま何日でも飽きないでドライブができそう
 
6月14日 プレイリスト「こっそり」を聞きながら
 
空港に近い国道沿いのコンビニエンスストアに入った時にはまだ どんよりした曇りの空だった。あったかいコーヒーとツナのサンドイッチを2つ買って店を出た。フッとまわりが暗くなったかと思うと 最初の雨粒。直径が5㎝を超えていそうな特大の一粒が音を立ててアスファルトに堕ちた。そのまま連打。一瞬足がすくんでしまって走り出せないでいる間に、大型のトレーラーが何十台も停められそうな広いひろい駐車場が黒くなった。そして雨の臭いがした。
 
なにこれ 降りだすタイミングが
悪い
もうちょっと待ってくれればいいのに
どうしよう
どうしようもない
 
キーレスエントリーのリモコンのスイッチを押すとターンシグナルがかすんで見える。着ているジャケットを頭にかぶって大きく息を吸い込んだ。
 
それっ
 
車内には冷気が残っていて寒かった。フロントガラスはもう何が何だかわからない状態で、ワイパーをどれだけ動かしても効果がない。後部座席のバッグからタオルを出そうとしたとき、目の前がカーッと光った。同時にバリバリバリって本当にそんな音がした。
 
うわぁ
すぐ近くの避雷針に落ちたんだ
驚いた
でも雷は同じところに2度落ちないって言うからもう大丈夫
 
雨はザーではなくてドーって音を立てている。
 
ボンネットが雨粒でボコボコにとか
それはないでしょう
車内の空気足りるかなとか変な妄想したりして
何時間もこのままだったらどうする
さっきお手洗い行っといてよかった
それは重要
だから夜までこのままでもいい
急ぐことはないのだし
ゆっくりしていよう
― 間 ―
一昨日見た映画
ちゃんと踊れる人をキャスティングするべきだったと思う
CG合成とかかなり頑張ってたらしいけど
日本の地方のスタジオのレッスンでも もっと迫力あるのに
演出の問題というか
スクリーンはライブにはかなわないから
― 間 ―
お風呂に入っていると庭の方から変な音が聞こえる
風かな
とは思うけど足音みたいなのも聞こえてて
風プラス野良猫
でも窓の外を見るとなんにもないし音も聞こえなくなる
風で庭の梅の木が揺れる音が天井や壁に反射や共鳴してる
そういうことなんだろうけど
もっと面白いことになっててもいい
メルヘンは大歓迎
狭い庭で梅の精が窮屈に遊んでるってことで・・・
 
空が少し明るくなって、雨音も小さくなってきていた。
 
雨はもう止むのかな
もう少し このままでいよう
 
6月16日 雨の音 を聞きながら
 
フライパンにオリーブオイルをひいてみじん切りのにんにくを炒める。そこへスライスした玉ねぎ半個を入れて弱火でじっくりと炒める。小さなボールに卵3個と塩コショウ マヨネーズを入れ かき混ぜる。コーヒー豆を粗めに挽いてフィルターへ。やかんを火にかける。携帯でお天気サイトをチェックする。
 
今日の最高気温は22度だって
6月とは思えない
 
玉ねぎがあめ色になったら鍋に移してカップ一杯分の水を加え、固形コンソメをひとつ入れて弱火に。やかんの湯が湧いたらコーヒーを淹れる。皿にバターを必要な分だけ取って火に近いところに置いておく。フライパンにオリーブオイルを足して温まったところへかき混ぜた卵を入れる。5枚切りの食パン2枚をポップアップトースターにセット。焼き加減は目盛2つ。オムレツは卵が固まりきらないうちに皿に移してケチャップをかける。スープをカップに注いだところでトースターが跳ね上がった。
 
よし
 
6月19日John Lennon を聞きながら
 
窓を少し開けたらエアコンがいらない
雨が入ってくるけど
涼しい
北の高気圧が優勢なんだ
天気図じゃ前線がずっと南になってた
梅雨のなかやすみ
明日から
2~3日晴れるんじゃないかな
そっか
 
 
例えば、自分には恋人がいるとしよう。その恋人とは訳あって雨の日にしかあうことが出来ないんだ。野外で仕事をしている人で、例えば、お花を栽培しているとか、果物を作っているとか、樹医とか、庭師とか、案外大工さんとか、鳶さんとか。仕事のある日の夕方からは仲間と一緒に過ごすことになっていて、もしかしたら職場には別に恋人がいたりする。だからこっちに来るのは仕事のない日だけなんだ。自分はそんなことは解っていて、それでもいいなんて思っているバカ者なのだ。それで雨の降りそうな日の前日は、明日はどこに行こうかとか、どこで待ち合わせをしようかとか、たまには朝から手料理を披露しようかとか考えてるんだ。翌日の降水確率50%以上で凄くワクワクドキドキするんだ。恋人とはすごく解りあえていて、もうあんまり言葉なんていらない関係で、あっちの相性もバッチリで、いつも不満がないんだ。だから雨の日にしか逢えなくても大丈夫なんだ。そして本当は、ほんの少しだけ寂しいんだ。
いや実はもっと面白いことになっていて。雨と共にス~って現れるようなそんなカンジで、「雨の匂いだ」とか思ったらそこにいる。その存在だけでいいし安心出来る。儚い感じがイイ。もう妖怪というか、妖精というか、天使というか。ある日、二人はもう離ればなれになることはないって決心して。天気図読んで、ピンポイントお天気情報をチェックして、気象に思いきり詳しくなって、レーダーじゃなくてレインダーって、アメダスのセンスにはかなわないけど、衛星からの電波を受信できるようにもなるから。そしたらずっといっしょに居られる。もう仕事なんかやめちゃって、買ったばかりの車に乗って。そんなメルヘンもあっていいかとも思う。
 
 
あした晴れたら庭の梅の実を摘もう
 
おわり

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