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ノンフィクション作家小松成美さんに聞くインタビューの極意【イベントレポート 前編】

目の覚めるのような、オンラインイベントに参加した。

インタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」の、オンラインイベントだ。

ゲストは、ノンフィクション作家の小松成美さん。イチローさん、中田英寿さん、浜崎あゆみさん、YOSHIKIさんなど、数々の著名人にインタビューしてきたお方である。

小松さんは「聴く力」だけでなく、その道のプロの方々と長期の信頼関係を築いている。このコミュニケーションの極意について深掘りしていくのが、今回の講義内容だ。

そしてこの講義のもう一つの楽しみは、講義のインタビュアーである宮本恵理子さんだ。リアルタイムで宮本さんのインタビューを拝聴できるまたとない機会だと思い、視聴チケットを購入した。

こちらの講義は録画チケットで観ることができる。ぜひ視聴してみてほしい。チャリティーイベントということで、チケット代金はすべて寄付されるそうだ。

インタビュアーの第一印象、本気のリスペクト

わたしが驚いたのは、小松さんの第一声だった。

「こんばんは~!宮本さん、やっとお目にかかれました~!」

明るく爽やかなお声で、とてもフランクな人柄がうかがえた。これを受けて、宮本さんはパァッと表情を輝かせ、「ありがとうございますっ。まさか来ていただけるとは思っていなくて……!本当にうれしいです!」と声を震わせた。

インタビューアーにとって、第一印象は大事だ。取材相手から最初にマイナスイメージを持たれてしまったら、質の良いインタビューどころではないからだ。

小松さんと宮本さんの挨拶で学んだことは「相手をリスペクトする気持ち」である。おふたりのやりとりでは、お互いの著書を何度も読むなどして、会う以前から心の中で向き合っていることがうかがえた。正真正銘の本気のリスペクト。講義が始まる前に、すでに勉強になってしまった。


「質の良いインタビューの時間」を、いかに創り出すのか?

小松さんの取材相手は、いわゆる大物の方や取材慣れしている方、気難しいと言われている方もいる。そんな方々から非常に信頼を得てインタビューを行っているのだ。いったいどのような過程で「質の良いインタビューの時間」を創り出しているのだろうか。

小松さんは駆け出しの頃を振り返って、このように語った。

「ドキュメンタリーの本を書きたいと思い、27歳のときに一念発起してインタビュアーの世界に飛び込みました。ある時、ふと思い立ったんです。インタビューという行為が、どれほど傍若無人かということに。なんと、野蛮な行為なんだろうと……。

もちろん、 喜びだったり楽しい場面を共有いただくこともありますが、ときには『生涯で最も悲しい別れを再現して、私に伝えてください』ということだってあります。 それでも皆さん、どんなことにも誠実に答えてくださる。その様子に立ち会いながら、『私のしていることはある意味、人をナイフで切りつけるような行為にもなりえるのだな』と思いました。この仕事の喜びのすぐ裏側には、とてつもない畏怖のようなものを感じたんです」

だからこそ、インタビューアーは自己を高めようとする気持ちや、相手を思いやる心に磨きをかけなければならないと、小松さんは語る。

これを受けて宮本さんは「そのお気持ちは、文章に表れていますね」と考え深げに話す。

「おそらく、小松さんの誠実さからのリフレクションなんだろうなって感じます」

少しひと呼吸おいて、宮本さんは質問した。

「……小松さんの誠実さのベースは、どんなところなのでしょうか?」

少しだけ逡巡した小松さんは、こう答えた。

「私は、インタビューする相手のことを、世界一知れる人になろうと思っているんです。今はGoogle検索がありますので、取材相手のことを調べるのはすごく便利になりましたよね。私がライターになったばかりの頃は、国会図書館に行って探していました。でも、図書館って一度に全部の資料を見せてもらえないんですよね。申請書を書いて、受付に渡して、コピーを取っての繰り返し。一人の取材相手に半年、いや一年以上費やしていました。まるで、相手の人生をダウンロートするような気持ちでした。

そんなふうに調べていたものですから、取材相手からは『この人には嘘つけないな』って思われるんです。ちゃんと調べていることを知ってもらう。それは大切なことだと思います」


消去ボタンのスイッチを押す

時間をかけて取材の準備を行ってきた小松さん。ただ、インタビューの本番では、資料が役に立たないことが多いという。

「いくらその方のバイオグラフィーを暗記したとしても、心の扉を開く鍵にはならない。それは往々にしてあります。だからというのもなんですが、これは推薦できる方法なのかどうか、わからないんですけども……」

「消去ボタンのスイッチを押すんです」

「とにかく脳内に入れた情報を初期設定にしますね。名前と今の活躍ぐらいしか知らないような状態に戻します。

そうすることで取材相手が私の質問に対して、どういう表情をしてるのかを敏感に感じることができます。私は明るい性格の人間ですが、インタビューでは質問以外一言も発することなく、笑みさえ浮かべないこともあります。瞬きをしないくらいに相手を見つめ、一言一句聞き漏らさないようにするんです」

小松さんの思いを聞いたとき、視聴者一同は神妙な顔つきで聞いていたはずだ。小松さんは取材相手の助詞の使い方から、語尾の微妙なニュアンスにも気を配って聞くという。全集中、だ。



相手を、誠実に受け止める

取材相手の人となりは千差万別だろう。不安定で揺れ動いている人もいれば、 喜怒哀楽を表に出さない人もいる。そんな取材相手に対して、どのように向き合っているのだろうか。

「普段はものすごくフラットな方でも、その中に感情を隠してる場合があります。そういったことも精査しながら、言葉を受け取らなければなりません。相手の表情や話し方、息遣い、そして視線を逸らして空を見る表情……。 すべてメッセージだと思います。

何百回とインタビューをさせていただいてわかったことは、自らの心を真っ白にして、取材相手が今、言葉にされたことが真実なんだと受け止める。それが大切だと思います」


「あなたのことを世界で一番知りたいのは、私です。 今思ってる言葉を、思いを、話してくださいませんか」

そんな思いで取材相手に向き合っている。小松さんのプロフェッショナルな姿勢に心を打たれた。

「中途半端な気持ちで人の話を聞くなど、到底許されるはずがない」と語った小松さんの思い。それを戒めとして、繰り返し歩んできた小松さんの道のりを想像した。

「相手を誠実に受け止める」

言葉にするのは簡単だ。それがどれほど難しいことか。改めて、インタビュアーという仕事の深さを噛みしめた。

後編では、小松さんのエピソードトークを紹介していこう。

(記:池田アユリ)

後編はこちらです。


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