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物忘れを忘れない
部活に間に合うようにするには、家を集合時間の20分前に出れば良い。
そう思って準備して、いざ出かけるとなった時に家の鍵、定期券、財布の在り処がわからなくて、乗りたい電車を逃しそうになる。
いつも「ダメかも」と諦めかけた時に奇跡的に見つかるのだが、いつか失敗するのではないかとヒヤヒヤしている。綱渡り状態だ。
伝統ある体育会の部活なので規則には厳しい。集合時間を守ることもその規則の一つであり、それを犯すと全員の前で謝罪し、何かしらの『奉仕活動』を行わなくてはならない。奉仕活動とは、例えば部室の掃除をしたり——それくらいしか思いつかない。規則を犯した者が他に何をやっているかわからないし、それ以外に奉仕活動たり得るものも思い当たらない。とにかく、正直かなり面倒だ。「他の部員に迷惑をかけない為に」というより、「これらの面倒なことをしないように」規則を守るようにしているのは、皆同じだろう。
物忘れは激しい私は、最近、マスクを忘れることが多い。
玄関で靴を履き、鍵を閉め、エレベーターに向かう途中で口がスースーしていることに気づく。戻って鍵を開け、靴を脱ぎ、マスクを取り出して、また靴を履き、鍵を閉める。
とっても面倒くさい。コロナのせいだ。
結局、乗りたい電車の時間にギリギリ走って間に合わせる。本当、これを逃したら謝罪し、奉仕活動だ。それだけはしたくない。
今日は買い出しの為に外出しようとしたところで、鍵が見当たらないことに気づいた。鍵の置き場所にしているところや、脱ぎ捨てた服のポケットの中、枕の下、プリント紙で散乱した机上など20分探して、ようやく見つけたところは——
床に転がる文庫本の中だった。
外出の準備をするまで本を読んでいて、栞の代わりに近くにあった鍵を無意識に使っていたのだ。大して時間も経っていないのに、その鍵の在り処を忘れてしまう、痛恨の物忘れを発揮。
自分の行動が自分の予期せぬところで行われてしまうので怖いなぁ。
物忘れをしたことを忘れないように、こうして綴っておく。
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