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 家を出たら、天気雨だった。

 夕刻も近い午後の日差しがビルの隙間から差し込み、そこに照らされた雨粒が落ちてゆく。滅多に見ることのない光景なので、私の目が引き寄せられた。9月に入っても暑さは残り、驟雨も襲う時期になって非常に蒸し暑い。私に落ちてきた水滴は、その蒸し暑さのせいで私を冷やしはせずただ不快にさせるだけであったが、視界だけは私を惹くものだった。

 だが、その天気雨の風景は特別それといって格段に美しいと感じるものではなかった。惹かれはしたが、これよりも美しい天気雨を遠くない過去に見た。いつのだろうと記憶を辿って思い出した風景がある。

 それは現実にはなく、アニメの世界にあった。

 多くの人が知っている新海誠氏のアニメ作品群の雨の描写が、リアルの風景を凌ぐインパクトの強さであった。

「言の葉の庭」の最後のシーンで雨が降りつつも日差しが差し込むダイナミックな明暗の変化。
「天気の子」で都会の風景に馴染む雨の風景。劇場で感じた雨の轟音。言の葉の庭と同じ、明暗の変化。

 全てのシーンをしっかり覚えているわけではないが、断片的に浮かぶ風景が私の中で浮かんでは消えて、繰り返す。 
 今日の天気雨を見て、きれいだと思う反面、それらの作品の風景に照らし合わせてしまい、あまりにアニメが鮮やかだったので現実の世界が燻んでしまった。

 だが、きっとこの燻んだくらいがちょうど良いのかもしれない。理想の鮮やかさなんて、きっと一時的に抱いた幻想。いざそれが現実になってしまえば、きっと疲れてしまうだろう。

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