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5年前日記②

もうすぐ子どもが5歳になる。
それで5年前の記憶がわたしのまわりをうろうろしている。
せっかくなので書きとめておこうと思う。


2018年1月30日(火)

午前9時、タクシーに乗って、いつもは歩いて向かう産院への道の景色があっという間に流れていくのを見つめていた。「へえ、クルマって速いんだなあ」とばかみたいなことを思った。今朝はずっとふわふわしている。

今朝は破水して起きた。
午前6時だった。

破水。羊水が出てくること。
とはいえ破水するのってはじめてだから、破水なのかどうかもよくわからなくて、ねぼけまなこで産院に電話をかけた。「破水したら必ず電話」が妊婦のおやくそく。
助産師は、とりあえず来てくださいと言った。それで、半分夢の中にいるような気持ちで荷造りをはじめた。そのまま入院、出産となることも考えられるから、あらかじめある程度まとめてあった入院グッズのかばんにポイポイとすぐ必要なものを放り込んでいく。タクシーも手配する。破水にも対応の妊婦向けタクシー手配ダイヤルというのが存在するのだ。
そうこうしているうちに夫が起きてきたので「破水っぽいのしたから産院にいってくるね」と告げると驚いていた。そのまま入院になるかも、と言うともっと驚いていた。驚くか? おめーの妻、臨月だぞ。というのは、ふわふわした気分が解けてから思ったこと。

うん、これ羊水だ。破水だ破水だ。
医師が請け合い、入院となった。どう確認されたのかわからないけどめちゃくちゃ痛かった。痛みのバリエーション①。
個室に通され、点滴を入れてもらった。なにか、赤ちゃんを守るための。

モニタリングしてみると赤ちゃんが出てくる兆しはまだなくて、お産は明日以降になるだろうとの見込みだった。そうきいて、正午に運ばれてきたミートソーススパゲティをいくらか肩の力を抜いて食べた。夫に「いまのところ快適なホテル暮らしという感じです」とLINEを送った。彼は忙しそうだ。予定日より半月以上早くわたしが入院となったから、産休・育休の調整に追われているのだ。
明日、スニッカーズとポカリを差し入れに来てくれるそうだ。文庫本もいっしょにお願いした。スティーヴン・キングの『IT』。あとザキール・フセインのアルバムCDも。

一日中ベッドの上で安静にしていたから夜になっても眠くならない。洗面台の鏡に大きなお腹を映して記念撮影をした。わたしと赤ちゃんの前夜祭といったところ。
部屋の壁には授乳をする女の絵が飾られていて、わたしもきっと数日後にすることなのに、とても隔たりを感じる。そこまでいくのに何を乗り越えなければならないんだろう? 明日何が起こるか、怖い。経験したことのないような痛みが確実にわたしを待ち受けている。心底怖いが、そのわりに血が騒いでいる。


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