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●2021年2月の日記 【中旬】

2月11日(祝)

子どもを連れて仕事に行ってきた。

わたしの仕事は基本的にわたしひとりでアトリエに出向くのだが(美術モデルの仕事をしている)、親子を描きたいという要望のある依頼主のところには子どもと一緒に行ったりする。子どもがほんの赤ちゃんだったころはとくに、赤ちゃんと離れるのがなかなかむずかしく、赤子連れでもいいよ、むしろ描きたいよという依頼はありがたかった。そうでもないと仕事できなかったし。そのころは授乳をしていれば赤ちゃんはほとんど動かないし、そのまま寝入ってしまうので、みなさんずいぶん描きやすそうだった。

いまは3さいだからかんたんには眠らないし、かといってポーズをとること、つまり止まっていることは3さい児には拷問のようなものである。だから子どもには単にアトリエで遊んでもらっておいて、描き手さんはスケッチブックを持って子どもを追いかけて速描きする、という形にしてもらった。わたしはポーズをとった(ときどき子どもが乗りに来て『ヴッ』となった)。

描き手さんにたくさん遊んでもらって子どもは楽しそうだった。それでほっとしていたのだが、仕事の時間ももうすぐ終わりというころ、子どもがふいにまじめな顔になって「ぼくたちいつまでここにいるの?」というからドキッとした。知らない場所で知らない人に観察されているのだから不安になったり不快になって当然だった。わたしはそれをなりわいとしているためにそこの感覚がにぶくなりすぎている。

赤子のときから数々のアトリエ・教室に付き合ってもらってきた。いつも、見られようが描かれようが気にしている様子はなくて、むしろ人に囲まれていると親戚の集まりのように思うのか機嫌が良かった。でもそういう時代は終わっていたようだ。子ども同伴の仕事はきょうを最後に休止にしようとおもう。再開するとしたら子どもが『やってみたい』と言うときかな。なさそうだが。

子どもの成長はグラデーションというか、気づかないうちに変わっていることも多く、こうしてしばしば読み間違える。

グリーン車に乗って帰った。つかれた子どもは寝てしまった。

2月12日(金)

はじめて入るパスタ屋で子どもと昼食をとった。パスタの量はエーッていうくらい少なかったけど、お子様ランチの子どもがずいぶん残したやつを貰ってちょうど良かった。

食後に自転車に乗せると子どもは高確率で寝る。駐輪所から部屋までくにゃんとした子を抱えて昇る。すきな負荷。

2月13日(土)

歯医者にいってそのまま街に出てデパートでチョコレートを買った。家のひとたちに。夫には以前も買ってひょうばんのよかったウイスキーの生チョコレート。子どもにはミッフィーさんの缶に入ったチョコレートがあったから「うわっ。かわいー」とマスクの中でもごもご言いながら買った。

チョコレートの入ったちんまりとした紙袋をさげて「これではなんだか心もとないなあ」とおもい(※われわれ夫婦にはバレンタインデー/ホワイトデーをわりと派手にやりたがる習性がある。ギフトには見た目のボリューム感がだいじである)、本屋へ行った。子どもには絵本もセットであげることにした。

ミッフィーさんセット!いいんじゃない?

夫にもなんぞ本を…と書棚のあいだをさまよってみたが、わたしには気の利いた本をさっと選べるような選書センスはなかった。残念だ。本のプレゼントってただでさえ難しい。メッセージ性がつよすぎるし。むかし付き合ってたひとから村上春樹の『1Q84』(単行本)をうやうやしく(?)贈られてなんだか怖くてずっと読めなかったことがある。「このひとわたしにこれを読んでもらいたいと思ってるんだ…へー…そう…」って構えてしまうというか。その『1Q84』は10年越しくらいでさいきんやっと読めた。楽しかったから読めるようになってほんとよかったなあ。母からプレゼントされた本はいまだに1冊も読めていない。母から贈られたことを忘れないかぎり読まないような気がしている。

字だけの本を贈るのはあきらめて漫画の棚へ。考えてみれば夫といちばん領域の重なるところの多い趣味は漫画かもしれない。漫画がいいじゃん。

『違国日記』にした。ためし読みの冊子を読んで夫もたぶん好きそうだとおもったし、なによりわたしが読みたかった。この漫画についてはツイッターのみんなが「よかった…」「よすぎじゃん…」「なにこれぇ…」などと放心ぎみにつぶやくのを何年も見かけてきたから、遅かれ早かれ読まなくてはいけないとおもっていた。遅すぎたくらい。とりあえず3巻までを買ってうきうき帰った。

日付がかわるころ夫にチョコレートと『違国日記』を渡した。『違国日記』は腰を落ち着けて読めるときにゆっくり読むということだったから「オッケー!」てわたしがさっそく読みはじめた。

『違国日記』よすぎる。よすぎる漫画を遅れて読むと「なんで誰も教えてくれなかったんだよォ…」と手前勝手なことをつい思ってしまうのだけど、『違国日記』のことは5年も前からみんな教えてくれていたからわたしの怠慢でしかない。いや、どんな場合でもわたしの責任でしかないんだけど。

2月14日(日)

子どもへのバレンタインギフト、チョコレートのおまけのつもりだった『うさこちゃんとどうぶつえん』が大ヒットでくりかえしくりかえし読むようにせがまれる。くりかえしくりかえし声にだして読んでもいやにならないのでこの本すごいなとおもった。絵の色彩が目にやさしいのと(パステルカラーとかじゃないんだけど一見目にやさしそうなパステルカラーなんかよりもやさしいんだよな。わたしは色オンチで、なんでかはわからんけど心地よいなーっておもう)、ことばもリズミカルでよい。

うさこちゃんシリーズとおなじディック・ブルーナの絵本で『ふしぎなたまご』というのも子どもが1さい前後のときにすごくはまっていた。あれもみんなのせりふがおかしくて、そのうちぜんぶ覚えてしまった。声にだしているうちにくせになる文なのだ。なんか、それってたぶんすごいことなのかも。

すき

2月15日(月)

ちょっと遠くに仕事に行くから新幹線を予約していたのだけれど、その新幹線は運休していた。数日前の夜にあった強い地震の影響らしい。新幹線に乗る駅に着くまで気がつかなかった。うかつだった。

うかつだったが、新幹線のICチケットを予約したJR東日本のサービスからは今朝ふつうに「ご乗車をお待ちしております」と、運休になっている新幹線の乗車をうながすメールが届いていたのでエエーッ!だった。そんなネット予約サービスある?

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振替の新幹線は子どもが好きなE5系新幹線(たぶん)で、スピードは速いしシートは快適だし、うきうきして乗りたいところだったが「そんなネット予約サービスある?」ってずっと考えていてすこしも楽しめなかった。かなしい。

仕事先には事情を話して15分遅れて到着した。規定の時間勤められたからよかった。

帰りは普通電車のグリーン席で帰った。列車が走るうち降っていた雨がやみ虹が出てすてきだった。虹が出ている側の席に移動して夢中で虹をながめた。

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虹はいいなあ。わたしがいたグリーン車の車両の乗客はわたしだけだった。グリーン車にしてよかったなあ。虹ひとりじめの気分だ。虹はやがて両端とも根もとだけになり、それもうすい夕闇に吸い込まれた。その一部始終をみて心が今日はじめて落ちついた。

家に着くと子どもと夫が帰っていた。夫はやさしいものが食べたそうな様子であったから鶏雑炊を炊いた。鶏肉はスペアリブしかなかったから骨から肉を削ぎ落として使った。骨を鍋に放り込んでだしをとったらやたらおいしかった。わたしがやさしいものを食べたかったのだなあとわかった。投影かあ。

2月16日(火)

おにぎり屋さんでおにぎり5つ買った。昼食に。大きめだから3人家族で5つあればよいだろうという判断だ。ひとりは幼児だし。

その幼児がおにぎり2つ問答無用でたいらげたから、大人たちのおにぎりは1つ半ずつになった。1つ半でもけっこうおなかいっぱいになったから、わが家の幼児の胃はどうなってんだ?とおもった。たのもしい。

おにぎりの似あう子どもになってきた。

2月17日(水)

子どもの幼稚園グッズなどを買いあつめるためデカいスーパーに行った。子ども用品はひとつの階にまとまってある。特設の入園準備コーナーでプラカップやお弁当箱がズラーッと並んでいるところを見て「圧巻のうるささだな!」と咄嗟に悪口が出た。
ひたすら目にうるさい。ごちゃごちゃしている。キャラ渋滞。ださい色づかい。こういうの子どもがすきだって、いったい誰がきめたんだ?大人だなあ。

男児向けとされるアニメのキャラがプリントされたグッズは青色がベースで、女児向けとされるのはピンクだ。キャラものでないグッズにはのりもの(やっぱり青)、リボン(ピンク)。いまってほんとに2021年だっけ?

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このスーパー、玩具などはコーナー自体が男女で分けられている。「幼児玩具(女の子)」には着せかえ人形におままごとキッチン。「(男の子)」にはプラレールとトミカとパズル。2021年とは。

けっきょく買うのは大人だからこういうのはわたしたち親世代の感覚が更新されないと変わらないんだろう。苦労してユニセックスなデザインのものを見つけて買った。ここでもミッフィーさんの世話になった。ブルーナ氏は偉大。

2月18日(木)

前夜にからあげをたらふく食べたら朝の寝覚めが格段によい。いつもの重だるさからいきなり脱している。こんなに爽快な気分になるのいつぶりだろう。何。もしかしてわたしに足りないのからあげだった?

ドラッグストアで化粧品や日用品を調達した。お会計が8,000円だったから「イエーイ!爆買いじゃあー」とおもった。爆買いなめんなよ。

2月19日(金)

ちょっと前にすきな台湾のお店から取り寄せた子どもの服、子どもにはウケがあんまりよくなくて着てくれない日が多いのだけど、今日はめずらしく自分から選んで着てくれた。

ひつじ。いいね〜。

古びたパンのスウェットも持ってる。よい。大人用があればわたしが着たい。

2月20日(土)

家計のことが頭を悩ませている。そもそも家計って何?ってあたりで思考がつまずいている。わたしも夫もお金のはなしが極度にきらいでとことん避けてやってきたけど子どもと暮らすようになってからは夫婦それぞれの利益や出費が複雑に絡みあうようになり、逃げてばかりもいられなくなった。それで3年も深く深く悩んでいる。お金の話を出すたびに夫の機嫌は目に見えて悪くなる。機嫌が悪くなるというレベルを超えて、心のシャッターが目の前で下ろされるというかんじ。いつでもここが行き止まりだ。対話したい。シャッター。どうしたらいいんだろか。

2月上旬 |


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