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東海道中膝栗林

まえがき

9月16日(木)、午前8時過ぎの東岡崎駅は、通勤のサラリーマンや制服姿の高校生など、電車やバスの利用客であふれていた。

そんな中、バス停とタクシー乗り場の付近に多くのワイシャツ姿の人だかり。通勤で毎日駅を利用しているならば、駅の勝手やバスの運行状況はわかっているはずだけに、一様にキョロキョロしている様子は、違和感を感じる光景だった。

それもそのはず、ワイシャツ姿の方々はプロ野球のスカウトの方々だからだ。岡崎市民球場で開催中の都市対抗野球の東海地区2次予選が目当てで、各球団のスカウトが岡崎に集結している。本日16日は、ドラフト1位候補の栗林良吏(トヨタ自動車・投手・右投)が第一試合の東邦ガス戦で登板するであろう日だ。

球場に到着する以前の段階だが、ただならぬことが起こるのではという期待感を、駅前の大名行列から感じることができた。

恍惚

朝から異質な雰囲気を味わった後についた球場で、栗林の圧巻の投球を目撃することになった。

「7回 被安打2 奪三振10 四死球1」

結果から言うと、文句のつけようのない内容だった。重箱の隅をつつくような単語も頭に浮かばなかった。都市対抗野球2次予選の初戦という、失敗が命取りになる試合で会心の投球を見せつけた。

150キロ近い速球に加えて、130キロ台のフォーク、120キロ程度のカーブを織り交ぜた投球に、東邦ガス打線は手も足も出ないまま回を重ねた。

177センチという身長以上に角度を感じるフォームから、無理なくスピードボールを四隅に投げ、カウントをとるためのカーブや決め球のフォークも悉く決まった。5回終了時点では、東邦ガスが放った唯一の安打(右前)以外は外野に打球が飛ぶことが無かった。

力勝負もできれば、変化球で打ち取ることも問題ない。同じコースに同じ球種を続けるだけのコントロールも併せ持っており、観ていて惚れ惚れしてしまった。更に恐ろしいのが、球数の少なさだ。投げミスが少ないが故、必要最小限の球数で打者を料理してしまう。7回を投げて90球程度に球数を抑え、お役御免となった。

完投できたかもしれないが、東京ドームを目指す戦いは今後も続くため、体力の温存等のためには当然の交代だった。「弥次さん喜多さん」みたく、失敗を笑い飛ばすことが一切許されない状況の中で、体力を温存しつつ、相手を圧倒する投球を見せつけられたら、もう笑うしかない。この日の栗林の投球は、誉め言葉がいくつあっても足りないくらいだ。

あとがき

大目標としている江戸の水道橋に向け、最初の関所を通過したものの、東海地区の2次予選という江戸への旅程は一筋縄ではいかないだろう。ただ、多くの方が気になるクライマックスは、栗林の江戸への旅の挑戦が終わった後の行き先だろう。

そのまま江戸に残ることになるのか、大坂方面に歩を進めるのか。それとも全く異なる方向に進むのか。もっとも、尾張に凱旋する結末があっても何ら問題ない。

終わり


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