【小説】第八話 おっさんえんでんべぇで再生か?

8.古民家と美味しいごはんの癒し

 家に帰ってきた七海達は冷蔵庫にまともな食材がないことに気づき、素麺で簡単に夕飯を済ませ、各自で風呂を済ませると何故かこの家には沢山の布団があり、昔ながらの平家なので部屋数も多く、皆で手分けして布団を敷くと、七海と匠以外はそうそうに寝床に着いた。
 七香と一緒に寝ると巧真はぐずって一緒に寝ることになり、布団の中へ入った途端二人は仲良く小さな寝息を立てて眠ったのだ。まるで姉弟のように、息ぴったりに。
 琉偉は少し業務をこなしてからと言って、三十分経たないくらいに眠くなったらしく今は大人しく眠っている。

 最年長組は冷蔵庫にやたら貯蔵されている冷えたビールを飲みながら、ベランダでダラダラと二人並んで話をしている。まだ二十二時で、普段0時過ぎに寝ている二人にとってはまだ眠れる時間ではないのだ。

 「明日は九時に指定された場所に来てくれって、連絡が来た。お前は心配ないと思うが、遅れないようにな」

 「匠、そういうのは早く教えろよ」

 「仕方ないだろ、映画観てる時に来てたんだ。その後は気が気じゃなくて、やっとさっき落ち着いて携帯チェックしたんだ」

 「あー...まぁ、そうか...んー...まぁ、あんまり行ったことない場所だけど、大体は地元だからな、大丈夫だとは思う。にしても、事前に地図で行き先チェックしたら随分山の中だな...荒川日野...か」

 「あー...まぁ、なぁ。山って言っても、民家は離れてるけどまあまああるからな、そんなポツンと一軒家ってほどでじゃねーよ。まーそこに住んでる人達は、自分の家の近くの土地で農家してるから、殆ど自給自足で事足りるらしくて、スーパーとかあんまり行かなくていいらしい」

 「へー...そうなんか」

 「まぁ、行けば分かるさ」

 「あぁ...そうだな」

 二人は一旦会話を止めて、ビールをぐいっと喉に流す。外が生温い空気でビールも冷えていたはずが、同じく生温い。

 「...なぁ、七海」

 「あ?」

 「お前さ、今、どう感じてる、人事について」

 「今更...別にもう...吹っ切れたさ。明日からはちゃんとするよ」

 「そうか...でもな、俺は上司として忠告しておく」

 ぐいっと缶に残ったビールを飲み干してから、匠はいつになく真剣な顔で七海を見つめる。

 「な、なんだよ」

 そんな匠に少したじろいだ七海は、チビっとビールを飲んでやり過ごす。

 「お前の営業担当してた、ラーメン屋の九郎屋(くろうや)は契約違反により、契約解除になった」

 「はぁ?!?!」

 少し大きな声を出しすぎて慌てて七海は、口を手で押さえて何を言っているんだと非難するような目で匠を見ている。

 「亡くなった先代からの贔屓のところで、長年契約を結んでいたからと言って、本来うちの仕事はコンサルの仕事。元々多めに見てたところはあったが、部下の報告から実態を調査したら、お前、材料発注から客引きの手伝い、経営者が、自分でやらなきゃいけないことを殆どやってただろう。あいつはただ言われた通りに、先代から引き継いだラーメン作って出してただけだ。会計すらもまともにできず、お前がやってたんだよなぁ!」

 匠が少し苛ついたように最後の言葉の語気が上がり、目は鋭く非難している。七海はその視線に耐えられなく、視線を反対方向へ向けた。

 「あくまでも俺たちは、契約者が経営を上手く運営できるためにアドバイスする立場であり、マーケティング結果を元に戦略を考えるのが主な仕事だ。先代も俺は知ってて、俺らより年上なのに理解あって、うちと古くから契約してくれた人だとは、分かってる。だけどな、先代の時はきちんと、コンサルと契約者との関係が保たれてたろう。いくらコロナ渦の時に先代が亡くなって、息子が後を引き継いで勝手が分からないと言ってもな、そもそもきちんと生前に引き継がせるのが、お前のサポートとしての仕事だろうが!息子に話を聞けば、仕方なく仕事もないし始めただとか、正直お前、なんであんなのと契約したまんまだったんだ。先代の店を守りたかったになら、他を当たれば良かったろ!」

 非難し続ける匠に少し腹が立った七海は、眉をムッと寄せてきつめの視線を匠に向けた。

 「そうは言っても、先代には恩がある!俺も迷ったさ!でも先代が息を引き取る時に、息子を頼むって言われて...どうにかしなきゃって...」

 「どうにかしなきゃの結果が、ただレシピ通りにラーメン作るしか脳がなくて、やる気もないやつを経営者にしたのかよ。スープの仕込みでさえ、あいつ、まともにできなかったぞ。仕込みも、お前がやってたんだな!確かに先代とお前とで改良して作ったスープだ、お前は作れるかもしれないが、何か?お前がラーメン屋でもなる気だったのか?」

 イライラしてるのが、ダイレクトに声で伝わってくる。言っていることは正しく、七海は聞いているうちに目尻が下がり返す言葉も無くなった。

 「まだやる気があるなら、契約違反分の罰金を支払ってもらって立て直しもできたが、あいつ、パチンコやギャンブルで殆ど手持ちねーじゃねーか。今までやりくりできたのも、先代の生命保険をお前が管理してたからだろうが。しかもあいつ、感謝するならまだしも、勝手に手伝ってきたとか言い出しやがって。うちと契約切られて、全然余裕だからとかキレやがった」

 それを聞いた途端、自分がやってきたことが如何に浅はかで自己中心的だったと、七海はやっと今になって気づいた。自分が人助けできてると酔っていただけだったと、恥ずかしいのと自分の馬鹿さ加減に腹が立った。

 「まぁ、お前が担当外れてすぐ会いに行って、その日のうちに話がまともにできないから契約打ち切りにした。一応気になって、その後も確認させたら案の定、仕入れも、まともにスープもできない、態度も横柄で、すぐにSNSで叩かれまくって客が全然来なくて、すぐにでも潰れそうな勢いだそうだ」

 七海は自分の失態が胸に刺さり、心苦しくて耳を覆いたいくらいだったが、それはできなかった。自分が蒔いた、種だったから。

 「だから、次は、ないからな。お前が満足しても、意味ねーんだよ。俺達は、コンサルのプロだ。どう儲けさせるか、きちんと経営できるか、相談役なんだからな。そこのところ、履き違えるなよ!」

 匠は空になったビールを持った手で七海を指を指して言うと、気が抜けたのか欠伸が漏れたと当時に七海に背を向けた。

 「...俺らの信頼、今度は裏切るなよ」

 もう苛立った様子もなく、逆に少し悲しそうな顔してベランダから匠は姿を消した。
 一人残された七海はグッと残った生温いビールを喉に流し込んで、喉につっかえてゴホゴホ言いながら、苦しくて胸当たりの服をグシャっと掴んでドン、ドンっと二度叩いた。
 涙が滲んできたが、この涙は場違いだと無理やり腕で拭いさると目が真っ赤だ。
 見上げた夜空は星が綺麗に輝いて見えて、まだ大丈夫だと七海は思えた。

 昨日の夜の一件があって、七海と匠は微妙な空気であるが、他の者達は全く気にした様子もなく、また素麺を啜って、ピンクの素麺があって七香と巧真は嬉しそうキャッキャと騒いでいる。
 あの後すぐに眠りにつけず、七海はウイスキーを割りもせずに何杯か一気に煽ったせいで珍しく二日酔い。二人の明るい声が頭に響いて辛そうだ。けれど、娘が作ってくれたものだと無理やり素麺を口に押し込んでいる。それを匠は呆れたように見ていて、そんなこんなであっという間に朝の食事は終わった。

 七海は四十代になってから朝が早い方だが、流石に今日は二日酔いで起きるのは遅かった。と言うか、またもや七香に嫌な顔をされながら起こされて、ついでに巧真に布団へ思い切りダイブされて苦痛を伴う朝だったこともあり、ダラダラしすぎて酒臭さと酷い寝癖でシャワーを浴びて着替えた頃にはもう出発の時間となっていた。

 玄関を閉め鍵をして、玄関先で匠と巧真と別れ、七海達は大夢のところへ向かった。

 着いた先は結構な山の中で、ただよく手入れされた古民家も田畑もあって、近くには綺麗な水が流れた川が流れ水車もあって、長閑な田園風景といった感じだ。鶏も牛も飼っているらしく、小さな村と言ってもいいかもしれない。

 地図にあった家の真横に大きな駐車スペースがあって、古びた丸っこい軽自動車をそこへ停める。何台か車が停まっていて、大夢以外にも手伝いの人がいるのかと七海は何気なく思う。

 「おはよう御座います。昨日伺った、ホープ社の者です」

 玄関先で七海を前に後の二人は後ろに並んで待っていると、ガラガラと勢いよく大きなガラス戸が開いて、大夢がにぱっと元気そうに笑って顔を出し前歯を見せたものだから、ずっと落ち込んでた気持ちが一気に笑いへと転換して、吹き出して笑うのを必死に堪えたなんとも情けない顔を七海はしている。

 「いんやぁー、よく来ただんベェ!まぁ、兎に角入って、入って!」

 大夢は世話焼きのおばちゃんみたいに手をブンブン上下に振って手招きして、お邪魔しますと次々に小さめの声で七海達は言うと中へ入って行った。

 中は大きな石畳の玄関に、一段上がってガラス戸が全開に開いて畳の大きな居間に中央には灰だけがある囲炉裏らしき場所があって、その奥は見えないが結構大きな作りの家みたいだった。まさに古民家と言った感じで柱も煤で黒くなって、年季が入った古びても良い味わいの手入れがよく届いた、ホッと落ち着く空間である。

 「遠慮しないで、入って、入って。あ、座布団か、えーと...はい、はい、はい。座って、座って。今は手伝ってくれてる青年団の仲間は、外の畑行ってるから、もう少ししたら戻ってくると思うから、戻ったら紹介するだんベェ」

 大夢に促されて居間へトントン拍子に靴を脱いで入り、そそくさと近くに積んであった座布団を大夢に出されて、七海達はストンと同時に座った。

 「あー、お茶かぁ!でも、麦茶か?ジュースがいいだんベェか?あ、でもよ、秩父で取れた百パーセントのみかんジュース、飲んでもらう方がいいだんベェかぁ!ちょっと待っててな!」

 落ち着くなくそそくさと奥の方へ消えていき、数分後にはお盆に綺麗なインクブルー色の涼しげな江戸切子のグラスに氷とオレンジジュースが入っている。いかにも高そうなグラスをはいよとて渡され、少し慌てながら七海は受け取る。

 「このグラス、とても綺麗!」

 七香はグラスを両手で持ってくるくるゆっくり回して見ながら、つい本音が口からポロッと出てしまった感じだ。

 「あー!それ、江戸切子って、言うんだんベェ!東京さ、青年団のみんなで旅行行った時に一目惚れして買ったんだんベェ。綺麗だよなぁ〜」

 大夢は嬉しそうな顔をして七香の前にドカっと座ると、丸いお盆を胸に当て両手で抱えてグラスを指差す。

 それを隣の隣で見た七海はちょっと近いと少し不機嫌になるも、いかんいかんと心に中で呟いてそれでも内心快く思えなくてじっと少し睨んだように見る。するとさっきまでは自分でも気づかないうちに緊張してたのか、大夢の姿が昨日と違うことに気づく。勿論、白いTシャツにジーンズとラフな感じなのだが、何より昨日のアフロのような頭が短髪で剃り込みがあり長いもみあげ姿だったのだ。驚いてじっと見つめ過ぎると、大夢が視線に気づいたのか顔を七海に向ける。

 「どっしたんだべェか?」

 「あ、いや...頭...」

 聞いていいものか迷いながらも気になって仕方なく、自分の頭を指しながら七海はあっさりと口に出していた。

 「あ...あぁ!!アフロ!あれ、カツラだんべェ!俺の嫁さんの喜陽(きよ)ちゃんが、飲食店は色んな人がくるからこの頭じゃ、どっかの漫画のスナイパーっぽくて怖がられるから被っとけって言われたんだべェ。あ!そうそう、このTシャツ見てよぉ!かっこいいだんベェ!喜陽ちゃんが前の胸の所のイラスト描いてくれて、バックプリントも今、文字入り流行ってるからって書いてくれたんだべェよ!」

 自慢そうに胸を張ってTシャツの前を見せてから、パッと反対方向を向いて背中を見せつける。
 そこには、“推し道金(みつぎ)道”とクセのある時で習字か筆ペンかで書かれたかのような文字が、プリントアウトされている。
 流行りものとしては前のロゴ動物で可愛いとは思ったが、後ろの文字の意味が七海には分からずになんとも言いがたく、うーんと唸って小首を傾げて納得しないまま頷いている。

 「あ、これは今流行りの、“オタクだから武道館では逝けない”の主人公が、いつも着てるTシャツのバックプリント文字ですね。“ガチ推しなら貢ぎ当然必須”って名台詞と共に、背中で愛を語るシーンでよく見ますよね。結構コミカルで、実写アニメですけど、面白くてついつい観ちゃうんですよね」

 いつになく琉偉が楽しそうな笑顔で話をし出したのに七海は、意外な一面があるんだなとちらっと琉偉の横顔を見ながら思う。
 そういえば、昔はちょくちょく顔を合わせたが、大人になってからはほとんど接点がなくて、よくよく考えてみればそれほど今の琉偉のことを知らないなと思い、ずっと同じではないんだよなと考えさせられた。

 「そーなんだんベェ!あのバックプリントシャツの文字、うちの喜陽ちゃんが作者の人と同郷でクラスメイトで仲良しで、全国書道教師資格認定資格を持ってて、ここで青年団の子供たちに教えたりしてたの知ってたらしくて、依頼されたんだんベェ!で、作者の人もこの文字使っていいヨォって了承貰ったから、うちの店、ここもそうだけど、癒し屋 日の出のスタッフTシャツにしてんだんべぇ!作者の人も気に入って、めっちゃ普段着で来てるんだ!そう!......これ」

 大夢はズリズリと膝を畳に擦り付け引きづりながら、輝いたイキイキとした顔をして今度は琉偉の前にドカッと胡座をかいて豪快に座り、ポケットに入れていたスマートフォンをささっと取り出すと、数分後には女性が背中を見せてバックプリントを指さしている写真が映っている。

 「ああ、本当ですね。へぇ...この人が、作者さんなんですね〜」

 琉偉は興味深々に見せられたスマートフォンを覗き込み、女性にはあまり関心なさそうな声なのだ。

 「そーなんよぉ!で、こっちがうちの奥さんで、喜陽(きよ)ちゃんで、べっぴんだんベェ〜!」

 さっきの女性と一緒に写っているのは、お世辞にも別嬪と言えるほど美人な感じの女性ではない。小柄で小太り、穏やかな笑顔はおかめに似ている。健康的で、優しげな雰囲気というのは見て取れる。そうですねとは本音で思っていないのか琉偉は、少し声のトーンが一定で片言だ。

 そんなやりとりをしていたら、奥部屋から喜陽が紺色のリネンの野良着を着て頭にタオルと麦わら帽子を被り色々な野菜と果物が入った籠を担いで出てきた。

 「ただいま〜。あれ?お客さん、もう来たんだ。あー...どうも、ホープ社さん方々ですよね?えーっと、私、そこにいる大夢の嫁で、喜陽と言います」

 七海達を見つけると礼儀正しくすぐに頭を下げて、やだわぁ〜と呟きながら担いでいた籠をどっこいしょっと掛け声掛けて畳の上に置くと、被っていた脱ぎわら帽子を籠の上にそっと置く。

 「あぁ!!そーだぁ〜!お祭りに出す試作食べて、感想聞かせて欲しいんよぉ〜。ちょっと持ってくっから、食べて食べて!」

 はっと思い出したのか、パンと両手を軽く叩いてエプロンをささっと軽快に取り外すと、そそくさと奥の部屋へトコトコ小走りで消えていった。見た目よりもフットワークは軽いようだ。

 「ああ、喜陽ちゃん!俺も、俺も手伝うだんベェ!!」

 大夢はすくっと立ち上がると、ドタドタと喜陽を追いかけて消えていく。

 二人が消えて二十分くらいだろうか、二人は小さいガラスの器に小さな丸いオレンジ色のアイスと、少し薄オレンジ色の液体が入った細長いグラスに、一口サイズのオレンジマーブルのシフォンケーキが二切れ乗った皿を、いくつもお盆に乗せて両手で持って奥の部屋から出てきた。どうも奥には、台所あるらしい。

 「地べた悪いけど、まずはこれ、三種のみかんアイス食べ比べね。えーと、これが秩父産で、こっちが愛媛産、こっちが和歌山産ね。えーと、秩父のは甘酸っぱい感じ、愛媛は酸っぱみが強くて、和歌山はこの中で一番甘みを感じるかしらねぇ。シャーベットなんでひやっと冷たくてスッキリした感じの味わいよ。まぁ、うんちくはどうあれ、食べ比べてみて!」

 喜陽はアイスの器をサッササッサと七海達に配り、七海の目の前でそれぞれの説明をし始めた。そして、早く食べてと言わんばかりの顔付きで七海を見るものだから、七海は慌てて説明された順に食べていく。
 ひやっと冷たさが心地よく、スルッと口の温度でアイスが溶けてよく冷えたジュースを飲んでいる感じで、どれも説明された味の通りで後味もスッキリしている。

 「どぉーお?」

 ぐぐっと喜陽が食べ終わった七海に顔を近づけてくるので、少したじろいで空の器とスプーンを両手に持ったまま少し後ろに仰け反る。

 「どれも、お、美味しいです。特に俺は酸味が強い方が好きなので、愛媛でしょうか」

 「そーなんだ!じゃ、はい、ひろちゃん、次持ってきて!」

 「はいよーぉ!めっちゃ美味しいから、ビビるかもしれんだんベェ!」

 喜陽に呼ばれると子犬みたいに嬉しそうにお盆を持って、喜陽みたいにサッササッサとドリンクとケーキを置き、空いたアイスの器を回収する。なんともこの夫婦、手際が良く息がぴったりだ。

 「こちらはぁ〜、冷凍庫で冷やしておいたさっき食べたみかんジュースをミックスして、小麦は群馬産、卵は秩父産、沖縄産のグラニュー糖で全て日本産のもので作った、俺、特製シフォンケーキだんベェ。そんでもって、こっちがさっきのオレンジミックスして、北海道産のミルクでシェークした、オレンジシェーキだんベェ」

 ドヤ顔で大夢は七海に顔を近づけ、説明する。この夫婦の距離感の近さといったら、近過ぎだと思いながら、やはり早くと急かす目に追い立てられて、パクっと一口ケーキを食べる。
 みかんの甘酸っぱさはアイスほどではないがちょうど良い甘さで冷えて、ひんやりと口当たりもよくてパクパクと食べやすい。付属のドリンクもキーンと冷たくてマイルドで、サッパリして美味しい。

 「うーん...昨日も思ったけど、デザート、本当に美味しいなぁ...」

 「そんな、照れるだんベェ!」

 物凄く嬉しそうな照れくさそうな顔をして、お盆を持った手とは反対の手で、バンバン七海の肩を叩いている。七海はその遠慮ない叩き方で、肩が少しジンジンして顔が引き攣っている。

 「さぁ〜て、メインディッシュだんベェ!コロコロ俵おむすび、そのまま食べても美味しい、冷やし茶漬けでもあら美味いってねぇ。あ!喜陽ちゃん、ありがとーぉだんベェ!」

 いつの間にか台所に取りに行っていたのか、大きなお盆に小さな俵おむすびが乗った皿と、お茶碗が三つ重ねてあって、透明な急須には茶色っぽい液体に氷がゴロゴロ入っている。
 喜陽はサッサと、おにぎりと茶碗を置いていく。
 
 「これ、喜陽ちゃんが朝握って冷蔵庫に入れて置いたんだ。冷えても美味しから、まず食べてみて!新潟産のお米と、具は、サケ、梅、昆布の佃煮だんベェ。梅は秩父の梅をおばちゃん達が漬けた昔ながらのちょっと酸っぱめで、サケと昆布の佃煮はまぁ地元ベルベルのスーパーで買った、日本産の日本メーカーのだんベェ。今回はぁ〜、日本のグルメ堪能って感じのコンセプトでぇ、全国の色んなの使ってみたんだんベェ!」

 ニコニコ顔で楽しそうに説明している大夢を見るとなんだか七海も楽しくなって、おにぎりを手で掴んで頬張るとホロっと案外柔らかく、冷たいが噛めば噛むほど口の中の温度で温かみが生まれて、粘り気もあり米が兎に角美味しい。梅の具だったのか、ちょうどいいおにぎりとの塩の塩梅で、量もそんなに多くなく一口でも余裕だが、ゆっくり食べるなら半分ずつかと思いながらもぐもぐと食べた。

 次に行こうすると喜陽からストップが掛かって、七海はお茶碗におにぎり二つ入れると、喜陽が急須の液体を流し込んだ。

 「この、木のスプーンで解して食べてねぇ」

 喜陽は液体を入れ終わるとそれぞれに木のスプーンを置いて、両手でお盆を持って食べた感想をワクワクしながら待ってる感じだ。
 七海は目の前の喜陽がそんなだから、頂きますも言わないままに早々にスプーンでおにぎりを解してズズズっと軽快に茶漬けを啜る。
 カツオと昆布と椎茸にお茶が混ざったそんな味で、冷たいのもあって少し渋みがあるがスッキリした味わいである。米との相性も抜群で、焼き鮭と昆布の佃煮も味が喧嘩することなくいい塩梅である。

 「あー...これ、夏にいいなぁ...特に酒とか飲んだ後の締めとか、朝あんまり食欲ない時とかサクッと食べれるから。夏バテして食べれない時とかにも、いいかもしれないですね」

 「でっしょ〜!ここで預かってる子供達にも、好評なんですよぉ〜!」

 「子供?」

 「ええ。私、保育士の資格持ってて、昔、保育園に勤めてたんですよぉ。今は仕事辞めてこっちに専念してるますけど。夏とかって子供達休みでしょ?小さい子だと一人でお留守番も何かあったら怖いしって話になって、ならここで預かるわってなったんですよぉ。でもほら個人で預かるから、青年団の子だけですけどねぇ。連絡先知ってるんで、熱とか怪我とか何かあれば連絡できるし、お互い信頼し合ってるから預けられるっていうのもあるでしょう。みんなには働いて青年団の時に役に立って欲しいから、食事代だけであとは無償にしてるんですよぉ。で、助かるわーって感謝されて、案外嬉しいんですよぉ」

 喜陽は思い出して、嬉しそうに笑みを深める。それをずっと見ていた大夢も嬉しそうで、その二人を見ていたらなんだか心がポカポカして癒されて、食べ物も美味しかったし、空間も暑くもなく寒くもなくて快適で、ここは癒し屋という名にぴったりな場所だと感心し、できればこのまま横になって寝っ転がりたいなと七海は思った。

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