【小説】第二話 おっさんえんでんべぇで再生か?

2.ゴミと掃除と事情

 現在、ゴミだらけの部屋を三人で手分けして掃除というかほぼ捨てている。
 男も他の二人と同じくマスクをして七香に小姑の如く言われるがまま、缶、瓶とを分別して大きなビニール袋へとせっせと放り込んでいる。
 男の部屋はほぼ酒の空き容器ばかりで、つまみの空袋と片付いていない何か食べたのだろう乾びたマヨネーズの痕跡ある空の皿が点々と置かれ、あまり健康的な食生活を送っているようには見えない。

 琉偉は空袋担当でさっさとゴミ袋へ入れ終わると、七香が台所へ行った隙に見つからないようにコソコソっと男に近寄ってくる。

 「あのぉ...七海(ななみ)さん、七香さんは実の娘さんなんですよね?なんで、おじさんって呼ばれてるんですか?」

 七香に聞こえないように、声を顰めて七海に聞いてくる。

 「...んーとまぁ...思春期的な...俺、今、別居中だから...でもまぁ...高校卒業して大学行き始めた頃から話す機会が減って...二年くらい前かな...なんかギクシャクして...それに、ここ半年別居してたから余計かな...」

 七海も同じく聞かれたくないのか、小声で話す。

 「...え?別居中なんですか?...あ!かよさんって人とまさかの不倫...」

 「そんなわけあるんか!香予は、嫁さん!俺は、香予ちゃん一筋だ!!」
 
 「声、大きいですって!」

 憤慨して立ち上がった七海に琉偉は自分の口元指を立てて、七海の手を引っ張って座らせるとまぁまぁと諌める。

 二人は後ろを振り向いて、台所から七香が来ないか確認してからまた話し出す。

 「...なら、なんで別居してるんです?」

 「...それは俺も...ただ...香予ちゃんから距離を少し置きたいって。いいっていうまで、実家で頭を冷やしてって...俺の実家の鍵と俺の衣類が入ったボストンバック渡されて...」

 「え?それで、大人しくここへ来ちゃったんですか?理由も分からずに?」

 「いや...うーん...心当たりはある...か」

 歯切れの悪い旬に対して、琉偉はじーっと目を見つめて言うまで待つの体制。そんな目でずっと見られて居心地が悪く、七海は口を開く。

 「ほら...ここ最近コロナで、色々変わってきただろう?今も、予防でマスクしてるし?で、まぁ...営業先でも困ってる取引先は結構あって...長い付き合いだから、俺は...割り切れなくてさ。なんか力になれることはないかって...まぁ...自分の仕事以上の仕事してた。ただでさえコロナの影響で勤めてる会社も厳しくて忙しくて、休日以外は会社で寝泊まりして、家にも帰ってなくて...正直オーバーワークだったのかもって、今は思う。で、休日も仕事終わらないから家の自室で仕事するか、後はほとんで寝てる生活をしてたら...過労で倒れてさ...香予ちゃん怒ってね、流石に...会社辞めてって言われたんだけど...俺は聞き耳持たずで、初めて喧嘩した次の日...まぁ別居ってなった訳で...情けないけどさぁ」

 「...で、こっちに帰ってきて、生活は変わったんですか?」

 「いやぁ...結局、変わらず。会社東京だし、ここ秩父だから通勤遠くてな...休日寝に帰ってただけ。俺は...それでもまだできるって、なんか変な使命感あったんだと思う。そしたらついこの間、ミスっちゃってさ。お得意先に頼まれた発注を忘れててさ...仲良かったから大事にはならなかったけど...俺、そんな初歩的なミスやらかして何やってんだって...自分責めて反省してたら、なんか急に部署異動になってさ。異動までの期間は、上司から休めって言われるし、まぁ...なんだ...もう、俺なんてお払い箱かって...自暴自棄というか飲んだくれて...現在の荒んだ現状に繋がるんだけどな...あぁ...情けない」

 「ほんと!!情けな!!って、どうでもいい話はいいから、後少しなんだからちゃっちゃと片付けてよ!!」

 親身になって琉偉は話を聞いてくれるものだからついつい七海も話すのに夢中になって、奥の台所から戻って来ていた七香には二人とも気づかず、背後から急に声が振ってきて驚きでうぉ!!と奇声を上げて身体が固まっている。

 「全く...これだから...はぁ...ちょっと、その瓶取るよ」

 目をパチクリしたまま動こうとしない二人に呆れたような顔声で、旬の斜め前にある空の一升瓶を持ち上げる。

 「...い、いやぁぁぁぁ!!!!」

 悲鳴を上げて、一升瓶を畳に投げ捨てた七香はその瓶から颯爽と逃げて旬の背中にしがみつく。七海は何が起こったのか分からないが、久しぶりの娘との触れ合いでだらしなく笑みが溢れる。

 「どうしたぁ〜、虫でもいたのか?」

 頼られたのが嬉しくて強気で投げ捨てられた瓶を見れば、そこには大きなムカデがうねうねしている。

 「うわぁぁ!!!」

 流石にムカデはとくいではなく、驚き怯みつつも七海は七香を庇ってムカデから後退りする。
 それを横で見ていた琉偉はすくっと立ち上がりスタスタと近寄り、瓶の注ぎ口の方を持ち縦に数回降ってムカデが畳に落ちた瞬間を狙って、瓶の底を思い切り縦に叩き落としてムカデの頭をかち割った。その顔は無表情で、親子は琉偉と目が合った瞬間ビクッと肩を小さく振るわす。

 「こういうのは、容赦せずに一気にやった方がお互いのためだと思うんですよね。どうせ退治されるなら、ひと思いに天国...かは知らないですけど、痛みが続かない方がいいと思うし、こっちも刺されたら、腫れて痛いですし、ね!」

 無表情から一転、親子を見て笑顔になった琉偉に、少し恐怖を覚えた親子は無言でうんうんと頷き返した。

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