【小説】第六話 おっさんえんでんべぇで再生か?

6.秩父青年団て?

 匠の車に全員乗り込むと、匠の運転で車は走り出した。車は八人乗りのミニバンで、五人乗っても広々としている。
 巧真は助手席で、匠にどこへ行くのか仕切りに聞いている。それが可愛らしくて微笑ましく、七海は運転席側の二列目の座席から背もたれに寄り掛かりながら眺めている。
 並びとしては七海の隣は琉偉で、一番後の席の七海の真後ろに七香が座っている。気になってちらっと七香を見遣ると、ドアの方にもたれ掛かって窓の外をぼんやりと見つめている。
 が、七海の視線に気づき、七香は軽く睨み付け少しそのままずっと見ていたが、ため息を付いてから自分の頭をトントンと人差し指で叩く。
 七海は初め、意図してる意味が分からずポカンとした顔していた。その顔が少し苛立ったのか、七香は自分の頭を指していた指を七海の頭の方へ向かってビシっと指を指す。その一連の流れを受けてやっと気づいた七海は、頭を抱えたがタオルを取ってしまえば頭はボウボウだろうと諦めて苦笑してやり過ごす。
 その横の琉偉は、生暖かい目で見ていてあえてなのか黙ったまま。

 そんな少しあまりいい空気感ともいえない状態で、車は目的地へと着いた。

 アイボリー色の二階建てのビルに木枠にガラスがはまった引戸の出入口、二階には古めかしいガラス窓がある外観的はシンプルだがレトロ感もありお洒落な感じの店。
 出入口の横にはテイクアウト用の窓とちょっとしたカウンターに椅子があり出入口からカウンターまではひさしがあり、日除け雨除けにもなって心遣いが見える。
 七海達は巧真と手を繋いだ匠を先頭に、遠慮なくガラガラと引戸を開けて中へと入っていく。もちろん、匠と巧真以外は二人がどんどん中へ入って行ってしまうので付いていっているだけで、遠慮がちな感じである。

 「ちわぁーっす、どもぉ〜」

 店内奥のオープンキチンから、天然かどうかは分からないがブルー色のアフロっぽいパーマのちょび髭をした若くて日に焼けて筋肉質で健康的な糸目の青年が、七海達に近づいてニカァ〜っと歯を出して猫背気味に“ふわり”と焼印された赤色の革のエプロンに腰にタオルを引っ掛け、両手をエプロンの中に入れて近づいてきた。
 匠よりは少し背の低く陽気そうな青年もまた黄色のアロハシャツで、下は膝が擦り切れた年季の入ったジーパンである。それより何より一番目立つのは、上の前歯が二本綺麗にない。
 巧真はそのない前歯を指差して、反対の人差し指と中指をくっ付けて自分の上の前歯の前で止めシシシっと陽気に笑っている。それを見た青年は怒ることもなく、逆に全開に笑顔で同じポーズをしてシシシと笑っている。

 「よぉ〜、大夢(ひろむ)。準備で忙しいのに、悪いな」

 匠は腕組みしていた右手を軽く上げて、大夢へ向かって少し申し訳なさそうな笑みを向ける。

 「匠さんとオレの仲で、遠慮なんていらねぇだんべぇよぉ〜。いやぁ〜相変わらず、巧真ぁは元気だんべな。お!どもどもぉ〜、今回手伝ってくれる三人さんだんべか!オレは、匠さんにちょくちょくお世話になってます、この店、ふわりのオーナーの羊山(ようやま)大夢でぇ、恥ずかしながらぁ、秩父青年団の団長させてもらってるでがんす。よろしくだんべぇ」

 へらっと笑った大夢は、匠と向かい合い握り拳で自分の胸をドンドンと叩いて胸を張りニカっと歯を剥き出しに笑い、握り拳を頬の真横に持ってくると親指をピンと立ててから横のまま右目の前でピースサインにする。それから巧真の方へガニ股で移動し左目でウインクして、七海と目が合うとぴょんと右手を大きく手を挙げてから自己紹介後に、両手を太ももに置いてぺこりと丁寧に頭を下げた。

 「あ、ご丁寧にどうも。俺は、宮(みや)七海、こっちが部下の國密(くにみつ)琉偉、と...」

 七海は日本の営業マンらしく頭を下げられるとすぐに一度深々と頭を下げてから、横にいる琉偉の肩を軽く叩き名前を告げてから、暫しどう説明すればいいか悩んでえーととかなんとか言って言葉を探している。

 「後ろのホープ社さんのお二人とは別の若葉という広告会社に勤めています、宮七香と申します。ホープ社さんとは長年業務提携という形でお世話になっております。若輩ものですが、よろしくお願いします」

 そんな七海を見て七香はやれやれと言った感じで小さくため息を付くと、にこっと営業スマイルになって大夢に向けると、血滑舌良くスラスラと話し終え、一度深々とお辞儀をした。

 「こりゃどーも、ご丁寧に」

 大夢は恐縮したように、右手を頭の後に回すとそのまま頭を抑えて、ペコペコと頭を下げる。

 「よし、自己紹介も終わったな。じゃー、連絡でもらってた例のやつ、人数分貰えるか?」

 匠はパンパンと軽く手を叩いて空いている席に七海達を促し、一同は席に着く。
 匠の横に琉偉、その反対側の匠の前は巧真、その横が七香と座ってしまい、七海は自動的に匠と巧真の間、所謂お誕生日席に腰を下ろした。七海の席はそんなに広いわけではなく、手狭そうに七海は身体を縮めて座っている。

 七海達がそうして席についている間に、大夢はキッチンへと早々に入って準備を始めていた。おちゃらけた感じの顔に似合わず、手際はすこぶる良い。

 パタン スルスル スルスル トトトン トトトン ショリショリショリ

 冷蔵庫から果物やタッパーを取り出して、スルスルと果物を次々と皮を剥き、まな板の上で果物切る軽快な音、冷凍庫から氷を出してかき氷専用機の氷が削れる音が心地よく店内に響く。

 七海達は皆、大夢の手際の良さに見惚れ、聴き心地良いその音に耳を傾けて黙ってじっと大夢の作業を見ていた。

 それから二十分くらいして、大夢がよくパフェが入っている逆三角形の透明の縁の部分が花のような形をしたグラスにゴロゴロと果物が沢山入ったパフェと柄の長い銀色のスコップの形をしたスプーンが人数分お盆に乗せて運んできて、七海達のテーブルへと一人一人横からすっと長い腕を活かして目の前に置いた。

 「さ、今日はオレの奢りだんベェ。これは、秩父で採れた果物で作ったひんやりシャキシャキパフェだんベェ。まず、下のソースはみかんの上に四角く切ったみかんの紅茶のゼリー、その上が台湾かき氷でミルク味でその上にレモンと桃をミックスしたソース、その上に桃とちちぶ山ルビーをゴロゴロ乗せて練乳掛けて、その上にチョコ掛けしたみかんのピールを乗せたパフェだんベェ。たーんともりもり好きなように食べて、感想聞かせて欲しいだんベェ」

 右手を後ろに回し少し斜め上に顎を突き出すと、ニカニカっと少し自慢げそうな満足そうな笑みで、左掌を上に前に出して食べるように促す。
 七海達は、各々、いただきます、と言ってすぐに食べ始めた。パフェがここに届くまでずっと見ていたものだから、美味しそうで待ってましたと大人達も子供のように内心ウキウキであったのだ。

 「おぃっちぃー!」

 巧真がスプーンで果物とピールを口に放り込んでもぐもぐした瞬間、スプーンを持ったまま頬を両手で覆いながら、うっとりと嬉しそうな顔をしてそう叫んだ。
 七海達も叫びはしなかったが、同意したようにうんうん頷いている。

 瑞々しく甘みのある果物に邪魔にならないほど良さの練乳、ピールがサクサクしていて甘いけれど掛かっているチョコレートがビターなのでちょうど良いほろ苦さである。
 下に進んでいけば台湾かき氷ふわふわのこれも甘さ控えめのミルク味で、レモンの酸味が効いてほのかに桃の甘さがくてちょうどミルクとマッチしている。
 さらにその下はゼリーでプルプルして食感がよく、ほのかにみかんの味のする紅茶味で少し渋みがあってずっと甘い口の中がスッキリする。最後のみかんのソースは濃厚で少し酸味があって、このパフェ全体を考えるとちょうどいい塩梅で混ぜて食べても美味しいと、七海は関心しながら一つ一つ分析しながら食べて、半分ぐらいになって混ぜながら一気に食べた。
 一気に食べたものだからキーンと頭が痛くなって、こめかみを抑えてぎゅっと眉を寄せて凌ぐ。

 その姿をケラケラと巧真に指差されて笑われて、少し大人気ない食べ方だったなと反省して七海は苦笑する。

 「うん、話を聞いて想像してた通り、美味いな。いつもながら、いい腕してんな、大夢」

 上品に半分ぐらい食べ終わった匠が、一旦スプーンを置いて腕を組んでうんうんとパフェを見ながら頷き、そう言って大夢の方を見た。

 「やぁ〜、そんな、ありがとうだんベェ〜。自信作だんベェ、嬉シィーーーいだんベェ」

 大夢は少し頬を桜色に染めて、照れたようににへへと少しだらしない顔で笑う。

 「で、これいくらで売るつもりだ?」

 匠はすっと目を細め真剣な顔で、大夢を見据える。そんな眼差しを受けたら流石にヘラヘラとしてられず、両手を下に指先をピンと垂直に伸ばして姿勢を正す。

 「えーと、千円で行こうかなぁーって、思ってんだんベェ」

 「その、価格根拠は?」

 「それは、このパフェの材料が、全部秩父で作っもんだんベェよ。オレらが個人で作った青年団の仲間が、まぁそれぞれ個々で地元で作ってて、農業、酪農、クラフト関係、水とかまぁ、色々商売してるんだんベェ、それを活かしてーなーっと。チョコにしてもクラフトチョコだし、天然氷は高いからコスト面で諦めたけどさぁー、秩父の水を販売してる所と、秩父の牛から取れた牛乳と二層の氷でかき氷作ってるし、秩父の果物加工所でのものも使ってるしなぁ...でも、それでも...果物や加工品なんかは商品として形が悪いとか傷が付いたっていうのをなるべく買い取って作ってるから、値段もバカ高くなくここまで抑えられてんだんベェ。ボリュームもあるし、悪くないとオレは思ってるダンベェ!」

 顔色一つ変えずずっと匠は真剣に大夢の話を聞いて、ほんの少しの間、考えたようにパフェを見てスプーンを持って一口食べ、顔が和らいだ。器も冷凍庫で冷やしていたので、まだひんやりとしていたからだ。

 「うん、いいだろう。ただ、売り方戦略をきちんとしないとパフェに千円は高いと思う人間は、特に秩父地元民は多い。田舎だからな。そこは、工夫が必要だろうな」

 「そうなんだんベェよなぁ〜。観光客相手って言ってもさぁ〜...でも、匠さんとこの会社が、手伝ってくれんだんベェ?」

 「そうだ」

 「え?そうだ?」

 頭の痛さが取れた七海はふーッと一息付いて味の余韻を楽しみ、二人の話を他人事のように聞いていたところで焦って匠へ顔を向け聞き直す。

 「勿論。ここの店をまず、手がけるのがお前達の最初の本当の仕事だ。祭の準備やなんだというのは、慣れるまでの準備期間みたいなもんだ。それに聞いてたと思うが、青年団の力を借りた方が町おこしとしては、早く事が運びそうだろう?」

 急な話でついていけず、ただ話を聞き入れるしかない七海は、そりゃ言った後は言葉が続かず口を小さくパクパクしている。

 「そうだ、簡単に青年団のこと話してくれ、大夢」

 大夢は口を真一文字に結んで七海と匠のやりとりをキョロキョロと目で追いながら見ていて、急に振られたものだから明らかに驚いたというように目を大きく見開いて大きく口を開き両手を頭の上くらいにあげている。

 「大夢?」

 怪訝そうに匠が言うと、大夢は我に返ったようで恥ずかしそうに咳払いをしてから、背後に両手を回し少し胸を張る。

 「えーと、秩父青年団、正式名称を“秩父非公式応援青年団”だんベェ。まぁ〜、元々地元の昔からの友達連中で秩父でなんかできねーかなーって、いつもオレのじーちゃんが住んでた山の方にあるポツリ一軒家...今は、古民家つーんか?で集まってだべってる時に、町おこしの動画みんなで観ててなー、これじゃねってなったんだんベェ。前に、匠さんになんとなしに相談した時によ、この動画観たら参考になるんじゃないかって教えてもらってたからよ。でもオレら、ほとんどの奴が学がある訳じゃねぇーし、頭そんな良くねーし、大体、農業酪農系、工業系、家庭系の職業高校卒で家を継いでとか、そのまま関連の職についてとかが多いしさ、まぁーオレは料理好きで専門学校行ってそこ関連の店で何年か修行して、今、店開いてる感じだんベェ。そんなんだから、オレら自治体とかそーゆのくそ難しい話とか手続きが複雑でめんどくせぇし、まぁ仲間内だから個人で金出し合って始めたんだんベェ。で、オレら色々匠さんに手伝ってもらいながらやってたら、楽しくなってきてぇ、組織的に五十人くらいに大きくなったから、きちんと組織化ちゅーの?匠さんに教わって設立したんでぇ。入会するにあたってルール作りと、年会費、資金運用の公開、一応ユニフォームもあるんだんベェ!このアロハもその一つだんべぇ!あ、でもユニフォームは個人で金出して買うことにしたんだぁ。だから私服でもいいんだんベェで、会員名簿と役職と普段何をしてるのか、どういう活動をしているのか、青年団が胡散臭くないことを示すためにちゃんとしたホームページあるんだんベェ!これ、匠さんにお願いして作ってもらってなぁ!すげぇ、おしゃれなんだんベェ!なぁ!」

 「それ、そこの七香ちゃんが、作ったやつだから」

 七香をチラッと見て、匠はしれっと言う。

 「...あっ!...そういう」

 七香は何か思い当たる節があるようで、ボソリと呟く。

 「そーなんだんベェ!あのホームページィ、実績とか簡単にブログてーの?で載せられるし、SNSに対応してて、更新するとホームページにすぐ反映されて助かるんだべェ。オレら、あんま文章上手くねーから、写真が簡単に載せられそこで写真加工や手書きできるんで助かってんだベェ」

 大夢は感動したように七香の所へ行くと、満面の笑みで右手を七香へ差し出してくる。七香は驚きながらもおずおずと片手を差し出して二人は握手をする。
 それを七海は少し不愉快に思っていた。勿論、よく知らない男が娘と手を繋ぐのがというのが親心としては不満なのだ。だからといって娘は成人した人間でありとやかく言えず、もやもやとして感情を抱え、更に自分だけなんだか置いてきぼりな気がして寂しさを感じて深いため息を付いた。

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