【小説】第四話 おっさんえんでんべぇで再生か?

4.親子とアイス

 三人は黙々と食べ、ズルズルと素麺を啜る音と氷がカランカランと涼しげに音を立てて回ってる音だけが暫く続く。

 「あっ」

 素麺が最後の一掬いになって、七海は小さく声を上げた。七香は素麺を取ろうとして、少し驚いたように箸を宙で止める。

 「な、何?...あぁ...食べたかった?」

 ちらっと七香は七海の顔を見て、少し遠慮がちに聞く。

 「...違う、違う。その素麺の中に一本、ピンク色の素麺があるからさ...」

 七海はふっと笑顔になって、ピンク色の素麺を指差す。

 「...だ、だから?」

 七香は少し、焦ったような声になる。

 「ん?...いや...七香は昔、そのピンクの素麺好きだったなって思って」

 「...いーでしょ、可愛いいし!滅多に入ってないんだもん。なんなの!食べないなら、私、食べちゃうからね!」

 急に少し怒ったような強い言い方をするが、恥ずかしそうな顔をしてそれを誤魔化すかのようにさっさと素麺を食べるとさっさと食べ終わった容器を重ねて台所へと消えていった。
 その姿を七海はニコニコ嬉しそうに見送って、琉偉はそれを横目に微笑ましそうに見ている。

 「さて、お腹も満たされたので、本題に入りましょうか」

 七香がテーブルを吹き終わった後に、琉偉がタブレットをテーブルの真ん中に置く。

 「ちょっと待って!」

 七香が濡れた布巾を握り締め、眉間に少し皺を寄せると大きなめな声を上げる。

 「何?どうかしたの?」

 琉偉は全く動じることもなく、不思議そうな顔を七香に向ける。

 「そこのおじさん!やっぱり臭い!見た目もモサモサして暑苦しい!!お風呂入ってきてよ!!嫌よ、そんな原始人みたいな人と顔突き合わせて仕事するの!!」

 「いやいや、さっき一緒にご飯食べたじゃないか」

 「死の後の言わずに、さっさと行く!」

 「あ、は、はい!」

 七海は困惑しながらも、七香がピシャリと言い放つとすくっと立ち上がって小走りで風呂場へと走っていった。

 二十分後、烏の行水のような速さで七海は出てくる。ボサボサで顔半分隠していた髪は白いタオルを巻いて仕舞われ、衣類はあまり変わってはないが真新しいものに変わり、ボウボウだった髭はスッキリ綺麗に剃られ、きっちり小綺麗になってほんのり湯気を出しながら七海は現れた。
 七香が指摘したように寝起きの時はどこか全体的に小汚い感じだったが、今はスッキリとした切れ長の目が印象的な整った渋めの顔が現れた。だが、四〇も過ぎるとだらしなさが腹に現れて、ぽこっと少し出てるし猫背で疲れが顔に出てやつれ隈が酷いので、若々しくは見えない。更にダサい眼鏡を掛けると、折角の素材も掻き消える。

 「じゃ、始めますか」

 ガラガラガラガラ

 「おーい、上がるぞぉ〜」

 琉偉の隣に七海が腰を下ろしたタイミングで仕事を始めようとするが、狙ったかのような絶妙なタイミングで家の玄関のガラスの引き戸が開く音が聞こえる。
 低く声が通る男の声が聞こえたかと思えばバタバタバタと部屋に入ってくる音がして、七海とは対照的で日に焼け健康的で、背が高くがっしりとした体格に、夏にぴったりなアロハシャツに白パンツを履いた、皺はあるが甘い顔立ちの清潔感漂う爽やかな中年男性が自分の家みたいに入ってきた。

 「え?...匠(たくみ)」

 七海は現れた匠に、少し驚きながら小さく呟く。

 と思えば、

 「おじゃましまー!!!」

 大きな声が玄関から聞こえてきてその後にパタパタパタと小さな足音が聞こえてきたかと思えば、低学年くらいの中年男性と同じアロハシャツに白い短パンの背が小さく可愛らしい男の子が元気よくにこーっと全開の笑顔で現れる。

 「あぁ、巧真(たくま)...いらっしゃい...久しぶり」

 「うん!七海!あ!七香ちゃんだ!」

 巧真は匠に突撃しながら足にしがみ付き、二人に見えるように元気に手を振る。

 「久しぶりだね、たっ君、こっちおいで」

 七香は親しげに巧真に手招きをして、空いている自分の席をポンポンと軽く叩く。巧真はうんと大きく頷いて、七香の隣にちょこんと正座をする。

 「やっぱり、ジメジメして暑いなぁ〜...そうだ、アイス買ってきたから、溶ける前にみんなで食べよう」

 匠はパタパタと洋服を扇ぎながら琉偉と七香の間の誕生日席へ、手に持っていたビニール袋ちょっと掲げてから胡座を描いて座り、ビニール袋をテーブルの上に置いた。

 「おとーさん!僕が、配る!」

 「ああ、いいぞ」

 手を伸ばした拓磨に、七香が気を効かしてビニール袋を渡す。

 「ありがとう!」

 巧真は嬉しそうに七香にお礼を言って、ビニール袋にゴソゴソ手を突っ込むと袋に入ったアイスを七香に渡す。

 「はい、七香ちゃんの!」

 「ありがとうー!たっくん」

 巧真から淡いピンク色の背景に桃の絵と特撮戦隊ヒーローのピンクのようなキャラクターの絵柄が描かれたパッケージのアイスを受け取ると、巧真の頭をよしよと軽く撫でる。巧真は嬉しそうに、またにこっと笑い返す。

 「はい!次は、七海!」

 巧真は袋から赤色背景にコーラが弾けた絵とさっきと同じく戦隊ヒーローの赤が描かれたパッケージのアイスを取り出し、七海に勢いよく突き出す。

 「お、おう。ありがとう」

 「いーえ!あ!七海、またダサメガネしてる!!」

 巧真は面白そうに、七海の眼鏡を指差さす。

 「ダサくないの!これは、香予ちゃんがよく似合うって、プレゼントしてくれた大事なメガネなの!」

 「あははは!だっさ、メガネー!」

 「こら、巧真。いくら本当のことでも、七海が大事にしてるものを、バカにしたらダメだぞ」

 あまりフォローになっていないような気もするが匠が優しい顔と声で巧真を叱ると、巧真はーいと素直に返事をして、アイス配りが途中だったのに気がついて袋の中のアイスを琉偉と匠に配った。

 「さ、遠慮するな」

 そう匠が言いながら袋を開けてアイスを取り出し食べ始めると、他の面々も後に続いて食事の挨拶をした後にアイスを食べ始めた。

 「あー...懐かしいな...やっぱり、ショリショリアイスマンのコーラ味はたまに食べると美味いなぁ」

 コーラ色の長方形の棒アイスをショリショリ軽快に食べながら、巧は関心したようにアイスを見ている。

 「まぁ...俺らが小学生の頃から、コーラとソーダ味は定番商品だったからな」

 「でも、今や色んな味があるよな。今回は果肉に似た食感ジェル入りゴージャスピーチ味が新発売だって、巧真せがまれて買ったんだがな。どーだ、拓磨、美味しいか?」

 「うん!食感、面白くて桃食べてるみたいで、
美味しいよ!」

 「へー...随分アイスも進化...そういえば、赤城連邦商店って工場は深谷だっけか?」

 「そうだな。巧真にせがまれて、工場見学も前に行ったなぁ。アイス食べれるし、お土産あるし、限定グッズもあってな。見ても、食べても、いい場所だったぞ」

 「へぇ...俺は、七香が小さい頃好きだったから行こうと思ったけど、人気で抽選だったから当たらなくて行ってないんだよな...見学も深谷か?」

 「いや、本庄に工場があって、そっちだな」

 「へぇ...結構...近隣に工場あるんだな」

 「工場、楽しかった!また行きたい!あ!七海も好き?アイスマンソーダ!」

 拓磨は大人達の話を殆ど聞かず、真剣にアイスを頬張り齧り既に食べ終え、アイスの棒を真剣に見てから袋に戻すと胸ポケットから水色の戦隊ヒーローのフィギュアを取り出し見せると、目をキラキラさせて七海を見ている。

 「お、おお。カッコいいよな」

 「うん!シャキッと、ソーダー、パーンチ!」

 拓磨はフィギアを手に握った手を、大きく上にパンチするように元気よく上げた。

 「あー...昔とCMのキャッチフレーズ、変わらないなぁ...」

 最後の一欠片のアイスを頬張って、七海はしみじみと昔を思い出すかのように呟いた。

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