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【連作小説】夏にガチャを回せば 4

〈ガチャガチャから出てきたのは、夏を変えるガラクタでした――〉

……というコンセプトで、2000字程度の小説を週イチくらいで連載していく予定です。

今回は
「夏を変えるガラクタが出てくるガチャガチャがなぜ存在するの?」
という話です。

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(第三回だけでもお読みいただくと、たぶんもっと楽しめます!)



「どうだ、あのガチャガチャの様子は」

 博士は研究室に戻ってくるなりそう言った。
 手にはコンビニの袋が提げられている。気分転換に散歩すると出ていったが、予想通りお気に入りのコンビニへ弁当を買いに行っていたようだ。

 私はディスプレイにデータを表示させると、博士にそれを見せた。

「現在3件のデータが取れました。2件は単純に過去と繋がりましたが、1件は時系列に混乱が生じたようです」

「それ、詳しく」

「はい。はじめは他の2件同様、単に過去と繋がったと思ったのですが、3件目は未来からの干渉が確認できました」

「未来から? 動画で見せてくれ」

 博士は弁当の袋を投げ出してディスプレイを掴むと、食い入るようにしてデータを見た。


「これは興味深い」

「これが、我々が探す【鍵】でしょうか」

 博士はおもむろに傍らのタブレット端末を手にすると、何かを調べ始めた。

「いや、違うな。この男も我々同様、未来からやってきた調査員だ。おそらくは、成長したこの女性の息子……当たりだ」

 博士に渡されたタブレットを見ると、動画で見た顔が調査員リストに表示されている。

「本当だ、登録されていますね」

「調査中にたまたま母親を見つけ、たまらず接触してしまったんだろう。すでに違反行為で処分されている」

 やってしまった。
 我々の他にも大勢の人間が過去にやって来ていることをすっかり忘れていた。
 しかし、過去の人間、母親との接触だなんて。この期に及んでそんなことを企てる人間がいたとは驚きだ。

「すみません、調査員の可能性を失念していました。すると、このキーホルダーは……」

「おそらく別の持ち主のものだ。データ通りなら、処分された男が持っているはずだからな。ガチャガチャを使っている以上、こういうこともあるだろう」

 つまり、あのキーホルダーはあの女性の記憶にあるものとよく似た違うものということだ。
 他の2件は物と持ち主と記憶が完全に一致したが、こういうパターンもあるのか。これは次回以降の留意点だな。

「気にするな。データは取れたんだから構わない。君が提案したガチャガチャ、いいじゃないか」

「ありがとうございます。すでに滅びてしまった地域から発掘された遺物を持ち主と引き合わせる方法として、ランダムにマッチングさせるのがいいのではないかと思っての提案でしたが、今のところ予想以上です。まるで持ち主が自分にまつわる遺物を選び取っているのではとさえ感じます」

 誰もいない、何もない荒野の地面の下から発掘された大量の遺物。その持ち主を見つけて、遺物にまつわる記憶をたどる。それが我々に与えられた仕事だ。

 その方法を考えるとき、私がたまたま動画で見たガチャガチャを思い出して提案したことで、今の方式ができたのだった。

「何か、遺物と持ち主を引き合わせている要素がある……か」

 博士はそう言いながら自分の顎髭を撫でた。何かを思案しているようだったが、すぐにこちらを向くと厳しい表情で言った。

「興味深いが、今はそれを研究している時間はない。我々がすべきことはわかっているな」

「はい。この遺物の持ち主の記憶を手がかりに、”あの夏”の元凶を探ることです」

「そうだ。世界中で、何万もの調査員たちが方法は違えど同じ試みをこの時も続けている。過去の人々の記憶をくまなく精査し、人類がいったい何処で間違えたことで”あの夏”を迎えてしまったのか、その【鍵】となる人物と出来事を必ず見つけなければならない」

「はい」

「どこかにあるはずだ。世界を飲み込む悲劇の嵐を生み出した、蝶の最初の羽ばたきが。それがいつ、どこで為されたものなのか突き止めなければ。さもなければ――」

「世界は、本当に、終わる……」



 私達が過去の人々の記憶を調べている理由、それは”あの夏”を食い止めることに他ならない。

 恐ろしく、忌々しい、”あの夏”。人類は最大で最悪の間違いをした。
 その原因は誰もわからなかった。気づいたときには世界は終わっていたのだ。
 なんの対処もできないまま、今もあちこちで人も土地も消え続けている。

 辛うじて残った人類は『原因がどこにあるのか探す』ことにした。
 要はプログラムの修正と同じだ。間違った箇所を見つけて正せば、”あの夏”を回避できるかもしれない――そんな話を世界中で真面目に考えるほど、事態は深刻だった。

 だから、私達はここにいる。
 まだ理論でしかなかったいくつもの技術を無理やり実用化してかき集め、夢物語でしかなかった時間遡行を実現させて。
 人類の記憶全てを対象にした、壮大なデバッグのために。  


「また会えるでしょうか。皆に……」

 震える私の肩に手を置き、博士は力強く言った。

「もちろんだ。ほら、誰かがまたガチャガチャを回している。新しいデータが取れそうだ。解析を頼む」

「はい」

 私は涙を拭くと、検査機器の操作に入った。
 ”あの夏”につながるガチャガチャが、また回る。



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あまたす
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