小鳥とカラス

 小鳥が木の上の巣の中で卵をあたためておりました。
すると、また今日もカラスが小鳥の巣の周りを飛びながら小鳥に話しかけました。

「小鳥さん、まだ卵は孵りませんか?」
「まだ卵は孵りません」
「きっと、お母さんに似て美しい小鳥になるんでしょうね」
「そうでしょうか」
「そうですとも、きっと麗しいさえずりを聴かせてくれるのでしょうね」
「そのさえずりを聞いたら私は美しい音楽だと思うのでしょうか」
「きっと思うのでしょう。地面をちょんちょんと歩く姿をみているだけで、私たちは暖かい気持ちにさせられるんでしょうね」
「歩く姿を見られたら私は涙を流してしまいます」
「いえいえ、私たちもみんな涙を流しますとも」

 カラスはそう言いましたが、心のうちでは生まれてきたヒナが食べたくて仕方がありません。でも、それを知られては逃げられてしまうので、カラスは小鳥に優しく話しかけるのです。

「生まれてくるのが楽しみですね。赤ちゃんも早くお母さんの顔がみたいでしょう」
すると、小鳥の顔がさっと青くなりました。
「おや、どうしたんです?小鳥さん」
 カラスは、小鳥に飛び掛かれる位置の木にとまってじっと小鳥を見ました。
「本当は、生まれる日はもう何日も過ぎたのです。でも、生まれてきてはくれないのです」

 小鳥はポタポタと涙をこぼします。カラスは思わず落胆のため息をつきそうになりました。

「おや、またどうして」
「それがわからないのです。お医者さんのまめじいさんに聞いてもわからないというばかりなのです」

 カラスはそれならば、今、この小鳥を襲ってしまおうかと考えている隙に横から一羽のトンビが小鳥に襲い掛かっていきました。カラスは小鳥を捕られては困ると思い、慌ててトンビを攻撃して追い払いました。
 カラスが小鳥に近づくと、小鳥は大けがをしていて瀕死の状態でした。カラスが躊躇していると、卵の中からヒナが生まれてきました。
 カラスが赤ん坊を食べようとすると、小鳥が最後の命を振り絞ってカラスに言いました。

「カラスさん、あなたはとても優しいカラスさんです。私にたくさんの優しい言葉をかけてくださいました、お願いです。どうか私の代わりにこの赤ちゃんの面倒を見てください」

 小鳥はヒナを優しく見つめると、それっきり動かなくなりました。
 さあ、困ったのはカラスです。食べようとしていたヒナの世話を頼まれたのですから。背後ではトンビが獲物を狙っています。カラスはヒナを見て一瞬、逡巡しましたが、やっと決心がついて、足でヒナを捕まえて大空を飛び立ちました。
太陽の光がカラスを照らし、その姿は白く輝いて見えました。

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