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謙遜【ショートショート503字】

 ある日本人博士がノーベル化学賞を受賞した。その博士はいつも謙遜した話し方をすることで周りに知られていた。博士は受賞式でインタビューを受けた。


ー受賞おめでとうございます。博士は天才と呼び声が高いですが、その声に対してはどうお思いですか。

「いえいえ、私なぞただの凡人ですから、一生懸命やったまでです。」

―大学生になる息子さんも優秀で、同じ分野の研究者を目指されているということですが。

「いやあ、うちの愚息は頑張ってはいますがね、どうなるかわからないですな。」

ー博士が教授を務められるA大学は素晴らしい大学だそうですね。

「どうですかね。私が教授になれるくらいですから、それなりの大学ですよ、ははは。」

ー日本人は、博士のように勤勉な人が多いと聞きます。素晴らしい国民性ですね。

「いやあ、サボる時はサボりますからね。日本人もそんな大した国民ではないですよ。」

ー最後に、将来への期待に満ちた、輝かしい化学界を代表して、全世界の皆さんにメッセージをどうぞ。

「化学は地味ですしね、大した分野じゃないですよ。」


 素晴らしい研究成果にも関わらず、博士が世界中から嫌われたのは言うまでもない。謙遜も範囲を間違えると逆効果である。

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