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夜景【ショートショート635字】

僕はレストランの窓際の席に座って、緊張しながら相手の到着を待っていた。窓の外には新宿の夜景が見える。向かいの空席を見つめながら、僕は今日言うべき台詞を反復する。このタイミング言おうと以前から決めていた。

思い返せばきっかけは大学の学園祭だった。クラス企画を一緒にやることになり、なかなか話がまとまらない中、喧嘩と仲直りを繰り返しながら当日の本番を迎えた。あの日の達成感はまだ在り在りと覚えている。終わった後、二人でハイタッチして成功を喜びあったものだ。

それから僕達は自然と二人でいろんなところに行くようになった。ショッピングセンター、遊園地、屋外イベント…。喧嘩することもあったが、どれもいい思い出だ。

「お待たせー。」

と軽いテンションで相手がやってきて、向かいの空席に座った。よし、今だ。僕は思い切って切り出す。僕にはこいつしかいないんだ。

「あのさ、いろんなことあると思うけどさ、これから僕と一緒に…」

すると相手はにやりと笑い、こう言った。


「俺も同じ気持ちだよ。やるからにはさ、天下取ろうな。」

僕達はがっちりと握手した。就活をせずに漫才をやっていくことが吉と出るか凶と出るかはわからない。それでも、僕達は漫才一本でやっていきたい。学園祭のステージだけでなく、その後にいろんなところで披露した漫才で、はっきりとした手応えを感じていた。

東京の夜景はいつも僕達に夢を見せる。いつものファミリーレストランの窓から見える、新宿のオフィスビル群を共に見上げて、僕達は成功を誓いあった。

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