出産【ショートショート536字】
「オギャー」
と分娩室の中から赤ちゃんの元気な声が響く。中から出てきた助産師が、廊下のベンチで待っていた私に、
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。」
と告げる。本当に良かった。母体は健康だろうか。産んでくれた彼女には感謝してもしきれない。
思えば長い道のりだった。私がどうしても子供が欲しかったにも関わらず、なかなか子宝に恵まれなかった。様々な治療を試して、最後にこれでだめなら諦めようとまで思った末のことだった。
「ごめんごめん、もう生まれちゃった?」
と夫が廊下に慌てて走り込んでくる。私はベンチから立ち上がり、
「遅いよ!…元気な女の子だって。」
と告げる。夫の遅刻に怒って見せても、どうしても喜びで顔がほころんでしまう。
「二人で一緒に会わせてもらおう、赤ちゃんにも、そして彼女にも。」
と私は分娩室の方を指差す。
近年、日本でも代理出産が可能となった。子宮の病気が見つかり、一時は子供を諦めた私にとってはこれ以上ない朗報だった。
私は柔らかな赤ちゃんを恐る恐る抱く。これが私の娘なんだと思うと、感慨がこみ上げ、涙が出てくる。すると、
「クシュン」
と娘が小さな声でくしゃみをした。夫と代理母である彼女が笑い声を上げる。そんな二人の姿を見て、私は何となくとても心強い気持ちになった。
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