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ライブ配信【ショートショート984字】

「はーい、みなさんこんばんは〜!」

私は会社員の傍ら、ネットでライブ配信をしている。しかし、なかなか人気が出ず、同時視聴者数は1~3人をうろうろしている。ちょっと観に来てくれた人も、すぐに離脱していってしまう。

その原因はわかっている。私が話すのが下手なのだ。話題がすぐになくなってしまうし、視聴者のコメントに面白い返しをすることもできない。すると、どうしても沈黙の時間が長くなってしまう。外見には自信があるから、話すのさえ上手くなればきっと人気者になれるのに…。

そんな中、いつも決まって観に来てくれる人が一人いる。ハンドルネームは「AIKO」と言い、その名前や口調からおそらく同い年くらいの女性だろうと思っている。このAIKOはたくさんコメントをしてくれるのだが、その話がとても面白い。最近では私が話すよりもAIKOのコメントを読んで「へー!」っと感心している時間の方が長くなってきているくらいだ。


今日の配信も、視聴者はAIKOの一人きり。こんなコメントをしてくる。

AIKO:今日、会社で新商品の名前を決める社員投票をやったんだけど、社長が推している名前に票が固まりすぎて、社員の間で『八百長じゃないのか』って大騒ぎになってるの。

「へー、そうなんですね。」と私が答える。

AIKO:それで言えば、『八百長』の語源って知ってる?明治時代の八百屋の店主『長兵衛』って人から来ていると言われててね…

思わず読み込んでしまう。話題も知識も豊富で、これではどちらが配信者かわからないくらいだ。どうせ配信を観ているのはAIKOだけ。私は思い切って言ってみた。

「AIKOさん、ZOOMか何かで一度普通に話しませんか?気が合うし、きっとお友達になれると思うんです!」

すると、AIKOはこんなコメントをしてきた。

AIKO:すいません、僕は田中と申します。そう言っていただけるなら、折り入って相談が…


その一ヶ月後、私は視聴者1万人を集める人気配信者になっていた。隣には田中が控えている。話す台詞は全てAIKOが書いてくれるので、私はそれを読むだけ。視聴者のコメントに対するウィットに富んだ返答も、AIKOが作成してくれる。

田中が、自身の開発した人工知能・AIKOの検証実験を、私の配信でしてくれていて本当にラッキーだった。私がAIKOの正体に気づけなかったように、視聴者も私の中身に気づけない。


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