見出し画像

100万人のフォロワー【ショートショート1673字】

 それは大規模な社会実験だと説明された。SNSのフォロワー数が一気に100万人増えたら人はどうなるのかー

 青年はその募集を見て、即座に応募を決意した。青年はSNSに力を入れていたが、フォロワー数は数百人。一介の大学生としては多いかもしれないが、100万人というのはさすがに夢の数字だ。

 早速応募フォームに必要な情報を記入し、送信すると、数分後に返信のメッセージが来た。どうやら採用されたらしい。予想よりずっとあっけなくて驚く。それによると、以下のような流れになるようだ。

・指定された3アカウントをフォローし、3日間できるだけ多くコメントを残す
・その後、100万人のフォローがつくので、自由に発言する
(注意)社会実験の一部なので、できるだけ飾らず、本心でコメント・発言するのが望ましい

 指定されていたアカウントを早速フォローする。

 フォローした3人のプロフィールをチェックすると、一人は女子大生、一人は中年の会社員男性、一人は高齢の無職男性のようだった。この3人は実験に参加していることを知らされているのだろうかという疑問が頭をよぎる。

 女子大生は、スタバの飲み物や、鏡越しのコーディネート写真、授業の合間のちょっとしたつぶやきなどを投稿している。こういった投稿を見るのは楽しく、青年も無理なくコメントを残していく。「美味しそう!」「似合っていて素敵だね!」「授業お疲れ様!俺も頑張る!」

 会社員男性は、飲み会の食べ物の写真や、仕事に関する愚痴、政治の話などを投稿していた。食べ物系だとコメントしやすいが、仕事や政治のことはよくわからないので、適当にコメントをする。「美味しそうですね!」「お仕事大変ですね。でも部下の方の話をもう少し聞いてあげてもいいのでは?」「もうこうなったら、どの政党が勝っても日本は変わらないでしょうね(笑)」

 すると、会社員男性から返信が来た。どうやら青年のコメントが少々気に障ってしまったらしい。「偉そうに言うけど、お前に何がわかるんだよ。」「よく知りもしないくせに適当なことを言うな。」

 青年はそんな返信が来ると思っていなかったので驚き、しかし同時にイライラしてきて、売り言葉に買い言葉で応戦する。「そんな言い方しなくてもいいだろ。そんなだから部下に嫌われるんだよ。」

 イライラした青年は最後の無職男性のタイムラインを追う。男性は孫と出かけた話や家で味噌汁を作った話などを投稿していた。ほのぼのとした投稿だが、青年はイライラしているものだからわざと傷つけるようなコメントを書き込む。「お前の話はどうでもいいんだよ。」「どうでもいい投稿をしてライムラインを汚すな。」


 そうして3日間が経った。予告通り、青年のアカウントには一気に100万人のフォロワーが追加された。青年は有頂天になり、まずはスクリーンショットを撮った。

 そして何を投稿するか悩みに悩んだ。何と言っても100万人が見ている。やはりまずは自己紹介だろうか。青年は自己紹介を書き込み、少しでも楽しい投稿にしようと、昨日食べた食事の写真もつけて投稿した。

 さすが100万人が見ているとあって、すぐに大量のコメントがついた。「素敵ですね!」「美味しそう!」「授業お疲れ様!」といったコメントに紛れて、こんなコメントを見つけ、心臓がひやりとした。

「お前の話はどうでもいいんだよ。」

「どうでもいい投稿をしてライムラインを汚すな。」

 そして、そんなコメントがみるみるうちにどんどん増えていく。青年は恐ろしくなった。俺はもしかして100万人に嫌われているのか…


 すぐに主催者から届いたメッセージによると、これは社会実験と称して、SNSの恐ろしさを学んでもらうという企画だったらしい。フォローした3人も、フォロワーの100万人も全てフェイク。青年が他人にコメントしたのと同様の内容を、逆に他人からのコメントとして100万倍にして機械的につけるという仕組みになっていたらしい。

 フェイクとわかってほっとしたものの、青年は100万人から向けられた敵意の冷たさを忘れられなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?