見出し画像

リハーサル【ショートショート910字】

 私は中堅の芸能プロダクションの社長をしている。私の会社でマネジメントしているのは、主に女性ダンスユニットだ。看板ユニットである『MOON』の人気も順調に伸びていて、順風満帆と言えるだろう。

 そんな中、私の秘書から気になる話があった。競合の小さなプロダクションが擁するダンスユニット『STAR☆』が巷で徐々に話題になっているとのことだ。あんな小さな会社のユニットのこと、どうせ大したことはないのだろうが、早めにチェックしておくに損はない。知り合いのつてを使い、彼らのライブのリハーサルを見に行くことにした。


「社長、お待ちしていました。いやぁ、なかなかバタバタしていまして…」

 私がリハーサル会場に着くと、向こうのプロダクションの社員が声を掛けてきた。彼らのパフォーマンスをじっくり吟味したい私は、

「いやいや、ただ見せていただくだけですからお構いなく。」

と言い、暗に一人にしてほしいことを示す。1000人ほどのキャパの会場、中程の席に座り、ステージに注目する。

 女性5人組が登場した。まだ10代半ばだろうか、あどけなさが残る。ダンスのキレが甘いし、歌唱力だってまあそこそこというところか。これなら、話題になっていると言っても、一部の熱狂的なファンが騒いでいるだけだろうな。うちの『MOON』の敵にはなりえない。まぁ、この小さいプロダクションであればこんなものだろう。

 私は安心して席を立ち、会場を後にした。


「あれ、あの『MOON』の会社の社長さん、もう帰っちゃったの?」

「はい、ちょっと見てからすぐに帰られてしまったようで。」

「でも『STAR☆』を見に来たんだろう。彼女らはまだ出てなかったじゃないか。」

とプロダクションの社員らは言う。

 ステージでは女性7人組ユニット『STAR☆』がパフォーマンスを繰り広げている。圧巻のダンスに抜群の歌唱力。見たものを引きつけるパフォーマンスだ。

「うーん、急ぎの用があったんじゃないか。じゃないと、前座の妹分のユニットだけ見て帰ってしまうことはないだろう。」


 それから半年後に『MOON』の人気がすっかり『STAR☆』に奪われた時、私がこの日のことを死ぬほど後悔したのは言うまでもない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?