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国民検索エンジン【ショートショート951字】

「国民検索エンジン」―これは政府直属の国民安全課のみが使用を許可されているシステムだ。

いわゆるウェブ検索エンジンと同様、キーワードを検索バーに打ち込んで情報を検索する。ただし、検索結果に出てくるのはウェブサイトではなく国民である。

例えば「35歳 男性」と打ち込むと、該当する国民のリストがずらっと表示される。もちろん、この条件に合致する国民は大量にいるので、キーワードを追加して更に絞り込んで目的の人を見つけることになる。犯罪捜査が主な用途だ。


国民安全課への配属第一日目、青年は噂に聞いていた「国民検索エンジン」が目の前にあることに大きな興奮を覚えていた。本当は業務以外では使用禁止のだが、青年は我慢できず、こっそりこのシステムを使ってみることにした。

やはり気になるのは、自分を検索できるかどうかだ。まずは自分の名前と年齢を入れて検索してみる。青年の名前が少々珍しいせいもあってか、青年のみが検索結果に表示された。こんなふうに表示されるのかと感心する。

別の角度からも試してみる。身長、体重、誕生日を入れてみたが、これだと意外とまだまだ結果が多い。もっとキーワードを追加しないといけないようだ。靴のサイズと出身小学校名を入れたら青年のみになった。

よし、もっと別の角度からもやってみよう。今度は趣味で検索だ。
「ジョギング 映画 プラモデル」
と入れてみるが、これだとまだまだかなり多い。

「ジョギング 映画 プラモデル 上段膝蹴り」
と学生時代得意だった空手の技名も入れてみた。かなり少なくなったが、まだ十数人が結果に表示されている。

他にも試してみたがどうにもうまくないので、かくなる上はと思い、こんな検索を試してみた。これなら確実に青年のみになるはずだ。

「ジョギング 映画 プラモデル 上段膝蹴り 国民検索エンジン使用中」検索結果: 2人

結果が「2人」とはありえない。何しろこのシステムはこの課でしか使えないのだ。

困惑していると、隣で作業していた同期の女子と目があった。彼女は訳知り顔だ。なるほど、そういうことか。


その後、青年と彼女は結婚することとなった。趣味がことごとく合うので話はトントン拍子に進んだ。

しかし、青年は今も彼女を怒らせないように気をつけている。彼女の上段膝蹴りが炸裂しないことを祈るばかりだ。


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