図書館にて【ショートショート477字】
私は町の図書館で司書をしている。この町の図書館は大きく、書籍数も充実しているため、町民から愛されている。
先日パソコンで、過去の貸出データの確認をしていたら、気になる記録を発見した。
「銃・病原菌・鉄」 ジャレド・ダイアモンド 返却遅延
なんだか聞き慣れない単語だな。
こういった場合の適切な対応を教えてもらうべく、館長に相談してみることにする。
「館長、『返却遅延』って何ですか?」
と私が訊くと、白髪の館長は微笑みながら答える。
「返却遅延?ああそうね、あなたが入ってきた頃には、返却遅延というのはとっくに無くなっていたのよね。」
館長によると、図書館の貸出は今でこそ電子書籍のみだが、昔は実物の本を貸していたらしい。今やっているように、「2週間経ったら利用者のデバイスから自動でデータ削除」というのは不可能なので、実際に返却に来ない利用者には『電話』なるもので催促していたということだ。
「そんな面倒くさいことよくやっていましたよねぇ。データなら一瞬なのに。」
と私が言うと、館長はどこか悲しげに目を細め、町自慢の大きな図書館内に所狭しと並んだサーバー群を眺めた。
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