演劇業界とアナログゲーム業界の構造的類似点と問題点
担い手が兼業や趣味で行っているなど、アナログゲーム業界と小劇場系業界は構造が似ている。
ただアナログゲーム業界は、ゲームマーケットという業界展示会があるのが大きなメリットになっている。
小劇場系は構造的慢性的に知名度不足に陥ってしまっている。
◆アナログゲーム業界と小劇場系の共通点
元々特に演劇系や小劇場系(二桁~200ぐらいのキャパの劇場を中心に演劇を行う界隈のことをこう呼ぶ)に関わっていたワケでは無いのだけれど、ひょんな縁から「Vote Show」に関わり、以降演劇の世界に片足を突っ込んでいる身として、自らのホームグラウンドであるゲムマ系アナログゲーム業界と小劇場系業界は、現状の構図が似てるなぁと、常々感じていたりする。
例えばパッと思いつくだけでも挙げみると
・メインの担い手の多くが専業プロでは活動できず、兼業もしくは趣味として活動している。
・故に参入しやすいので、担い手は結構いる。
・しかしだからこそ売り手と買い手が被っている割合が大きい。
・トッププロ業界が存在するが、同時に、手が届かない別世界に見える。
・諦めるほど小さい業界ではないが、夢が目標になるほど大きい業界でもない。
・しかし趣味と割り切るにはかかる金額が大きい。
スラスラとこれぐらいは出てきてしまう。
まぁ一番の共通点というか問題点は、一番目の「多くは趣味で活動している」という部分だろうか。
そしてその原因は「売り手と買い手が被っている」ということなのだろう。
簡単に言えば、「市場が小さい」のである。
◆キャラメルボックスですら倒産
少し前に「キャラメルボックスが倒産」というニュースが流れた。
Voteに関わる前から知っていた、もしかしたらほぼ唯一の「劇団名」だっただけに、これには衝撃を覚えた。
キャラメルボックスというのはミュージカルとかではなく普通の演劇(ストレートと呼んだりする)をメインで活動している劇団では日本トップクラスの劇団だったと思われる団体だっただけに、
「え?キャラメルボックスレベルでも無理なの!?」
というのが、このニュースを聞いたときの正直な感想だった。
まして、上で挙げた共通点では「トッププロ業界が存在する」と書いたが、演劇と、テレビ・映画業界・ミュージカルを別で考えるのであれば、キャラメルボックスは間違いなく業界ではトップクラスの規模の劇団だったのであり、これはかなり衝撃、言い換えるなら絶望が走ったと言っても過言では無いワケなのだ。
果たしてこの先、この小さな業界はどうやって生き残っていくべきなのだろうか。
◆ゲームマーケットという業界一体となった展示会
この点、まだアナログゲーム業界は前向きな話ができる。
そもそもとして新興業界であるアナログゲームは、誰もが認めるブーム状態(その規模はともかくとしても)であり上向きな業界であるのは間違いないし、言うほど作り手と買い手が一緒なワケでもない。
またトッププロも地続きではあり、それだけで一生食えていけるかどうかはともかくとしても、同人発のゲームでもヨドバシカメラや東急ハンズなどで売られているゲームはそれなりに存在し、1つの夢が目標として見ることのできる程度の高さになっているのは確かだろう。
オインクゲームズやジェリージェリーカフェなどのこの業界をメインに据える企業が勃興してきているのも事実である。
そしてなにより、アナログゲーム業界には「ゲームマーケット」があるのが大きいのではないかと思っている。
ゲームマーケットは、要は展示会である。
モーターショーや東京ゲームショウを例に取るまでも無く、業界が一体となって開いている展示会は多い。
やはりそれは、需要側にとっても供給側にとってもメリットが大きいからだ。
年々規模が大きくなっているとは言えアナログゲーム業界も全国津々浦々まで販路があるような業界ではないだけに、そこにゲームマーケットという業界が一体となってる開いている展示即売会があるだけで、とりあえずゲームマーケットにさえ出品すれば、初出展サークルだったとしても最低限の人目に触れることはできるワケだ。
これは大きい。
もしゲームマーケットのようなモノがが無ければ、例えばTwitterとかで情報発信、情報収集することになるのだろうけど、どうしてもTwitterなどのSNSはそれ専用では無いので、マッチング率という意味で言えば低くなってしまう。
実際、小劇場系がSNSで大きな成果を上げているようには今のところ見えない。
しかし即売会というイベントがあれば、最低でもゲームマーケットのカタログや公式サイトに情報を出していれば、アナログゲームに興味があるという人ばかりが自分の情報に触れる機会を得ることができるのだ。
◆小劇場系の難しさ
ここが小劇場系業界との一番大きな違いだと思っている。
演劇という商品の形態上、展示即売会は限りなく難しい。
演劇フェスティバルなどのイベントが開催されることはあるだろうが、それでも業界全体をカバーするような規模にはなり得ないし、フェスティバル自体が参加団体の一部の知名度に乗っかっているところがあって、展示会の代わりには全く成らない。
業界の展示即売会というのは、業界の大部分をカバーしてこそ意味があるのであり、演劇業界にはほぼ不可能な手法と言えてしまうのだ。
よって「これに出ていれば最低限の商品提示はできる」ということが小劇場系にはできないし、だから新規顧客の発掘が大変に難しいことになってしまっているのだ。
また同時に、こうした構図だからこそ、劇団や団体ごとの横の連携がかなり薄いと思われる。
そうして結局、小さい団体が小さいまま個別それぞれバラバラに活動をするので、それが大きなブームになりきれないという状態が続いているのであろう。
演劇界は圧倒的な知名度不足、そして知名度を向上させるツール不足、ここが一番の問題だと思われる。
これはなかなか構造的な負のスパイラルに陥っているので、なかなか脱するのが難しい。
難しい上に、この状態に危機感を感じていない可能性すらあり、それもまた「趣味でやっている者も多い」という、やはり基本構造からくる課題だというのが、ますますこの問題を難しくしていると言えるのである。
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