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叶えたいこと。

とても大好きな作家さんがいて、その方の大好きな作品があります。

もう二十年以上も前のこと。

とある場所で、その方が生み出された作品を原作とした舞台に出演させていただくことがありました。

出会いのきっかけは、役者募集のオーディション情報が掲載されているインターネットの掲示板でした。
当時、何としてでも演劇がやりたかった私は、掲示板を見て、いろいろと探していました。

そして、この舞台の役者募集の記事に出会います。そこには、舞台の脚本も何ページにもわたって掲載されていて、これを読んでからご連絡くださいというような趣旨だったと思います。

読んですぐに、私はご連絡したのだと思います。

あまりにも素敵な作品、本だったからです。

私の拙すぎる表現で感想を言語化させていただくことは大変畏れ多いことなのですが。

どこにでもいるような人たちの、どこにでもありそうな日常。そんな至るところにころがっていそうな、何でもないような人たちの、けれど、けして何でもなくはない、お話の数々。

人間の淋しさとか、むなしさとか、哀しみとか、おかしみとか、愛嬌とか、どうしようもなく、どこにもっていきようもなく、折り重なり続ける感情とか、そんな名前すらもつけられない、まだなんとも言えない、分かることすらできない何か、とか。
そんなものたちを抱えながらも、背負いながらも、苦しみながら、もがきながら、それでもなんとか立ち上がろうと、生きていこうと、血を流しながらも、必死でその一歩を出そうと、叫び続ける人間の日々とか。

こころの奥底の、深い深い海の底の、そのはての、大切な大切な部分に触れる。
そんな、自分の本当にたいせつな部分にふれるお話、戯曲だったんですね。

だから、初めて読んで、一目惚れしてしまい。
作家さんにご連絡して、お会いさせていただくことになりました。
どこかの駅での待ち合わせだったように思います。
寒い時期だったのか、その方がとてもあたたかそうなフードのついた、コートを着ていらしたのを憶えています。

その後、オーディションを受けられることになり、舞台に出演させていただけることになりました。

私が演じさせていただいたのは、18歳の浪人生の女の子の役でした。
おそらく、その時の自分とほとんど同い年だったのだと思います。

私以外は、すでにマスコミや小劇場、劇団で活躍されている若手の俳優さんたちばかりで。
初舞台でド新人、一番年下の私は、皆さんに本当に可愛がっていただき、本当にお世話になりました。

今思えば、よくあの中に入れてもらえたなと。
本当に、奇跡のような体験でした。

それから数十年が経ち。
様々なことの中で、役者の道はお休みしている状態ですが。
今だに、あの時の台本は大切に持っていて。

いつ読み返しても、本当に、素晴らしい作品なのです。大好きなのです。

あの頃は、理解することなんて到底できなかったお話、人物たちの心情が分かるようになっている自分がいて、それが嬉しくもありました。

私も成長したのだなと。

それを表現することができるかどうかは別として、それでも、またこの作品を上演したいと思いました。
朗読だったとしても、演りたいと。

こんなにも素敵な作品を、そのままにはしておけないと思うのです。

ぜひ、また表に出したい。血を通わせたいと。

それが自分にできるのかどうか。
お芝居の世界から離れて長い自分にできるのかどうか分からないのですが、やってみたい。実現したい。

そう思います。