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私的ベストエンタメ(2023年度版)

 年が明けまして早くも1日が過ぎた。写真からも分かるように本当は、年末までに書き終えたかったよ。そんな2023年に摂取したエンタメを振り返りたいと思う。

 SNSで自分の触れたコンテンツをランキング形式でまとめてくれる機能とかあるけど、「うわー、あの時これ観てた・聴いてた・読んでたー」ってなるあれ、結構好きなんで今年から毎年の恒例にしたい。というか、ここだけ2023年に取り残されてる。はよ2024年に行きたい。


映画ランキングベスト10

 新作50本、旧作120本に落ち着きました。新作100本観て初めて、色が出てバラエティーに富むと思っているので、その点では全然足りないですが、全体として何本か良作に出会えたので嬉しい年だったなという感じです。作品ごとに感想書いてる(ネタバレあり)ので時間あるときに読んで拾ってください。2024年はもっと観に行くぞー!(定期)

選定基準
・2023年に日本で劇場公開された作品
・上記に属している作品でも配信で観たor配信スルーは省く
・4Kリマスター版、劇場初上映は含む


10位

『PERFECT DAYS』

(C)2023 MASTER MIND Ltd.

 駐車場のシーン良かったなあ。あの一区画のやり取りだけで全員の背景がめっちゃ見えるの凄い。叔父さんと妹家族との対比。トイレ作業員が汚い=落ちぶれていることを分からせる妹の演技も絶妙だけれど、違う世界に生きているから何だか交われない、のではなく、どこかで繋がり続けているからこそ関係の構築が難しいのだと思わされる。

 何度も暗い記憶のモヤみたいなシーンがカットインするけれど、あれは主人公のトラウマのように捉えた。トラウマは少し仰々しいか、言うなれば「生活に植え付けられた何か」の方が近いかもしれない。人には光と影があって表裏一体であると感覚的に描いている。木を友達と称するシーン、苗木を大事に持って帰ってきて大事に育てること。自分の影すらも背負い込んで生きていくんだよな。でもまだまだあんな新鮮に朝を迎えられない。


9位

イノセンツ

(C)2021 MER FILM, ZENTROPA SWEDEN, SNOWGLOBE, BUFO, LOGICAL PICTURES

 上映当時、大友克洋監督作品『童夢』にインスパイアを受けたという触れ込みが流れて、大好きな作品なので個人的に楽しみにしていた1本。

 子どもたちが起こす異変に対し、その全てにおいて親たちがまったく気が付かないところが本当のスリラー。強かすら感じさせる映像表現の細やかさにサムズアップ。惚れ惚れするくらいのラストバトルを、劇場のスクリーンで拝めたこともあってランキングにランクイン。


8位

エゴイスト

(C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

 これまでのBL映画とは一線を画す、喪失に向き合うことに焦点をおいた人間ドラマとしての傑作。だからこそ、ハードな性描写も目を逸らさずに観ることができるのと、自身のエゴを顧みつつ他人を愛する事を深く考えさせられることに昇華している。

 もはや書くことでもないかもしれないけれど、鈴木亮平の絶対感が年々増しに増してきている。ゲイの友人たちと夜の街を徘徊するシーンだけ見ても心から信用させる所作、演技力に感服。めっちゃ良かった。


7位

攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

 NETFLIXで配信されている新作アニメの劇場再編集版の後編。人知を超えた能力に覚醒した新人類。彼らが作ろうとする世界に対し、草薙素子をはじめとした公安9課たちの攻防と、その果てにある結末を描いた今作。

 アニメ版で曖昧に描かれたラストに結構落胆したこともあって、あんまり期待してなかったけれど、これぞ攻殻!と言わんばかりのもう一つのアンサーを見せてくれたことに感謝感激雨あられ。終始最高だった。


6位

グリーンフィッシュ 4Kレストア

(C)2005 CINEMA SERVICE CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED

 大好きイ・チャンドン監督の初期作品。昭和のヤクザ映画を彷彿とさせる設定や世界観の中で、愛憎渦巻くアイロニカルな恋愛模様を描いた1本。

 劇場未公開ということもあって、どうしても観たくて劇場に駆け込んだ思い出。登場人物が上手くいきそうなところで、蹴落とし現実を突きつける監督の作家性に感情が苦しくなりつつも、この現実を覚えておかないと駄目だよなと思わされるし、これ本当に商業映画1作目か?ってなる。ラストシーンの何とも言えなさ今年1位。


5位

aftersun / アフターサン

(C)Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

 実は、もともとランキングに入れようと思っていなかった作品。1回目の鑑賞時の拍子抜け感がヤバくて「なんだこの映画?」ってなった記憶。でも何故かずっとモヤモヤするみたいな生活が続くなかで、ふとサントラを再生してみると次第に劇中のシーンが矢継ぎ早に頭に流れ込んできて、ボロボロ泣くっていう不思議な体験をした。限りなく排除された物語の説明を補う構図・アイデアの豊かさに、しばらく経ってから痺れた作品だった。劇場鑑賞時にそこを気づいて味わえていたらというささやかな後悔が残る。正直、心の奥底では裏の1位だと思ってる。なんか1週回って予告編だけで泣けるし。

 シャーロット・ウェルズ監督もそうだけど、お父さん役を演じたポール・メスカルの行く先を期待せずにはいられない。来年のポール・メスカル出演作でいうと『もっと遠くへいこう。』(Prime Videoにて配信)と、大好きアンドリュー・ヘイ監督の『異人たち』が控えている。後者は原作読んでから臨みたい。


4位

いつかの君にもわかること

(C)2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.

 末期がんの辛さにフォーカスを当てすぎるのではなく、自分が死んだ後の息子が送る日常を誰に委ねるかという葛藤がオフビートで淡々と続いていく。あくまで毎日の積み重ねが映され続け、突飛な展開にならないストーリー。

 それでもこの作品の中で描かれる芯を喰った少年のピュアさ、その先の生活を想像させられる余白の持たせ方にグッと来てしまう。自分が死ぬまでの時間に息子に何ができるかを考え、たくさん関りを持って、誕生日も盛大に祝ったりするけれど、濃い時間を過ごすこと、幸せな思い出が将来の息子にとって枷になるんじゃないかと、あえて冷たく接するシーンとか、本当に観てるこっちの気持ちを考えて欲しい。そしてこの少年の顔を見てくれよ、もう全部知ってる上での顔なんだよ…。


3位

市子

(C)2023 映画「市子」製作委員会

 杉咲花演じる女性の失踪から、様々な角度から過去の凄惨な事件を追っていくオムニバスもの。日本人監督作品ででポン・ジュノに勝るとも劣らない顔のアップが観れるとは!練られまくった画面構成の数々にめっちゃ興奮した。彼氏役の若葉竜也も安定して良かったけど、やっぱり杉咲花がズバ抜け過ぎている。

 行政の隙間から落ちて過酷な人生を歩むことしかできなかった少女の視点を通して、社会の影に隠れた問題をテーマに据えた監督の姿勢を応援したいし、吉田恵輔や片山晋三、両監督に次いで国内に目を向けながら批評性を持って作品創りをする意義を感じるとともに、無関心からの脱却を忘れずにしたい。

2位

怪物

(C)2023「怪物」製作委員会

 みんな観たでしょ。それぐらい盛り上がってた。今年公開された日本映画の中でも群を抜いて秀でていたし。もちろん御大3名のネームバリュー力の賜物でもあるが、ちゃんと良い映画にお客さんが入ることこそが健全だし、いち観客としてそんなマーケットを育てて肥していかなければと改めて思った記憶。

 先入観で物事を判断することの危うさを、頭では分かっているはずが、分かったつもりになってませんか?と中盤の切り替わりでモロにくらう。個人的にめっちゃ良かった点は、子ども2人の関係値をちゃんと対話で描いたところに尽きる。彼らだけが理解できる言語・世界だったとしても、お互いの存在が救いになっている、それだけでいいんだよ。余談だけど、同時期公開されたルーカス・ドン監督の『CLOSE』にブチ切れてたこともあり、相対的に評価が爆上がりした。

1位

あしたの少女

(C)2023 TWINPLUS PARTNERS INC. & CRANKUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.

 今年のベストオブベスト。韓国で実際に起こった、高校生が過酷な労働環境の末に自殺した事件が元になっている。リアリズムをもって描いた今作は、国内の社会システムを告発するに至っている。原題『Next Sohee』とあるように、実際「次のソヒ防止法」というものが施行されたとのこと。映画が社会に影響を与え、構造そのものに一矢報いた力強い作品としての側面もある傑作。

 多分、興行的にはヒットしていないし、埋もれてしまった感が拭えない作品。けれども忖度なしに1位で掲げたい。ストーリーとしては二部構成になっていて、前半はソヒが命を絶つまでの話。後半はその事件を調べる刑事が、ソヒが辿った所を追いかけ追体験していく話。人が死んで話の展開が加速するのが嫌いなんだけど、この映画は卓越した画力と細やかな演出のおかげで、否が応でも前半と後半がちゃんとクロスオーバーする作りになっているところが絶妙。

 好きな点はソヒが、好きだったダンスをしなくなる(できなくなるくらい顔と心が死んでいく)ところ。ダンスはその人の生命力を象徴すると思っていて、物語が進んでいくに連れてそのグラデーションがダンスで表現されている部分はため息が出るほど素晴らしい。それがフックになったラストシーンは絶対観て欲しい。





音楽アルバム10選

Lost In Translation / Valley

 Valleyの新作がすこぶる良かった。ソフィア・コッポラの同名映画が頭によぎりながら、実際流れててもいいなと思える洒落たメロディーたちにいつも心奪われる。最&高。


HIGH NECK / レオタードブタとヤギ・ハイレグ

 みんな大好きピーナッツくんの別名義ラップユニットの新譜。相方のヤギハイ氏が作る最高のトラックの上でラップする2人には、普段そんなこと絶対しないけどゴンフィンガー上げちゃう。心の中で。


GOOD POP / PAS TASTA

 音楽プロデューサー集団PAS TASTA。今作は様々な畑で活躍するアーティストを客演で呼んでいて面白い。おせち料理の2段目みたいなことしてる。要は豪華ってことです。


where? / リーガルリリー

 正直、全曲良い。ガールズバンド版ストレイテナーみたいだと勝手に思ってる。夢見てるみたいなサウンドと歌声の中で、咽び刺すような言葉選びが超好み。いつか浅野いにお作品の主題歌とかやって欲しい。


Petals to Thorns / d4vd

 めっっちゃ聴いた。生涯このアルバムだけしか聴けなくなってもいい!ってなる作品が毎年あるけど今年はこれかなと思う。それくらい生活に馴染んでた。夏のフジロックに来ていて、来日公演もこの年末に予定されていたけれど延期に。体調整えてまた来てくれ、絶対行くから頼むー。


Air Drop Boy / ピーナッツくん

 きました。みんな大好き、おしゃれになりたいピーナッツくん。夏に出たこともあって疾走感ある曲が多めで、ライブ映えを意識したノリが随所に散りばめられていてテンション上がる。歌詞の引用で様々な映画があるところも推しポイント。マメかっこいいぞ!


0.1 flaws and all. / wave to earth

 韓国のバンド。アンビエントというかローファイ系で1番聴いた。街を歩いていて大事な人とすれ違ったのに後ろを振り返ったらいなくなってて、数年後、奇跡的に会えた時の感覚に近い。そんな体験したことないけど、出会えてよかった。


UNDERTALE Soundtrack / Toby Fox

 ずっとプレイしようと思って何年も寝かせてたゲームのサントラ。8bit調の曲が流れたと思ったら、急にメロディアスになったりとBGMとしてよく出来てる。1番好きな曲はパピルス戦で流れる『Bonetrousle』で、最高やん!とか言いながら普通に彼を殺して、サンズにトラウマを植え付けられたのも良い思い出。


i 触れる SAD UFO / 崎山蒼志

 崎山くん、いや崎山さん。違う、崎山大先生。言葉選びが多様且つ、すんと懐に入ってくるフロウ流石です。ポップな曲や激しい曲があると思えば、たまにえっちでメロウな曲で落としてくる。ライブに行ったら恋しちゃうと思う。危ない。


a beautiful blur / LANY

LANYは夜を満たしてくれる。女々しい歌詞でも、切ないメロディーでも、ひっくるめて全部好き。さらに眠れないときに流せばいつの間にか寝れているという、睡眠導入剤の役割も担ってくれている。いつも生活の隙間を埋めてくれてありがとうLANY。





小説5選

 今まで読書をしてこなかった人間が、今年読んで好きだったものを5つ挙げています。小説に対する造形や知識量が圧倒的に足りず感想は短めですが今年はずっと読んでみたかったものや、様々な賞レースで話題になったものに手を出しまくった感じなので、2024年はもっと軸を持って作品を選んでいきたいなと。


ループ・オブ・ザ・コード / 荻堂顕

 圧倒的に好きだった作品。近未来の架空都市で巻き起こる社会的問題の解決に奔走する主人公に立ちはだかる壁そのものが、現実とリンクするテーマが多く身近だと思う反面、他人事で済まされない批評性を受けることで、グサグサと刺傷が増える瞬間が本当に多かった。ラストへ向かうにつれて作品全体に繋がっていると理解させられるタイトルも絶妙。


正欲 / 朝井リョウ

 映画が公開するということで事前に読んだものの1つ。様々な登場人物の視点が何度も切り替わりながら進むオムニバスストーリー。その中でずっと共感し続けたキャラクターの好きな言葉があって、とある人達のことを「旺盛な人」と形容していた。漠然と感じていたことを言語化してもらって胸がすく思いをしたかと思えば、自分の何気ない一言が他者にとって残虐性を孕んでいることも多分にあるよなと、読みながら何度も反芻した。考えればキリがないけれど、粘り気のある鈍い痛みとともに「これ俺じゃん」とたまに絶望したし、そんな読み手の人間性をどこまでカバーしているのかと怖くなった。


美しい距離 / 山崎ナオコーラ

 自分が小さい頃、とても身近な人が癌で亡くなった。何度も病院に付き添いをした時の記憶が読んでいると蘇ってきた。
 寄り添うような言葉で書かれたこの作品が描く終末治療が辛いものだけになってない所に驚いた。患者が思う社会との関わり、丁寧に紡がれる時間の流れ、終わりに向かっていく連れて曖昧になる夫婦の距離感。そのどれもに面をくらいながらも、これこそ最後を意識してからの生活風景だと納得させられる。またどこかで読み返すと思う。


地図と拳 / 小川哲

 歴史小説を初めて読んだ。どんな物語でも、広げられた風呂敷がどのように収束していくかが作品の面白さに関わってくるが、作中で出てくる登場人物が時代の変遷とともにどんどん移り変わるので、主人公だと思ってた人が突然退場したりする。
 ある人が掲げる未来の中で「次世代へ何を遺すか」という一つの線を柱にして、戦争下でどう命を賭すか、その中で刹那的な生活の営み全てが蜘蛛巣状に重なりあっていくことで、表に出て来ずらい部分も含めた生き様を緻密に描き切っているところが凄い。着地の光景がなんとも美しい。


ボールのようなことば。 / 糸井重里

 最後は小説ではなく「ことば集」って言ったらいいのか、糸井さんが過去に執筆された短い文章をまとめた1冊。するすると読んでいたら、とある1ページでしゃくる程泣いた。子どもの頃に言語化できず悔しかった・諦めたことがあって、大人になるにつれて忘れるように努めていたのだと思い出した。ずいぶんと時間が経って救われた。当時の自分にこの本を渡してあげたい。




ここまで読んでいる人へ。数々の長文、駄文を読んで、下までスクロールしてくれたことに感謝申し上げます。

私の2023年のエンタメはこんな感じでした。毎年、拾えるだけ拾うようにしているのですが、年々体力の衰えを感じずにはいられません。何度映画館で寝落ちをしたことか…。

自分と濃くも薄くも関りを持ってくださっている皆々様、2024年もどうぞよろしくお願いいたします。やっと2024年に来れた、あぶねぇー。


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