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運は動より生ず

縁あって、とある季刊誌へ寄稿をさせて頂くようになった2021年、「スティーブ ジョブズが魅了された越中瀬戸焼作家、釋永由紀夫氏」というタイトルで、記事を書いた。私は海外在住のため、ご本人との内容確認はメールで行うより仕方がなかった。記事を書くにあたり、色々下調べをし、また釋永さんと直接メールのやり取りをさせて頂いく中、次回日本へ帰る時には是非一度直接お会いし、お話を聞かせて頂きたいものだと思いを温めていた。果たして2年後、2023年の春、日本へ一時帰国した折り、念願の訪問が叶った。

当日は大変なご親切を賜り、丸一日お時間を共に過ごさせて頂く光栄に俗した。その時に伺った様々なお話は、対談という形で貴重な記録として携帯に録音させて頂いた。

それから更に一年、ようやく対談の内容をまとめることができた。日々忙しい生活の合間に時間を見つけ、録音を聞きながら、少しずつ文字起こしを始め、最近ようやく完成した。詳細はnote というプラットフォームに「スティーブ・ジョブズが最後まで尊敬し続けた陶芸家 釋永由紀夫氏との対談」と題して公開しているが、今回は釋永さんと直接お会いするに至ったプロセスについて書いてみようと思う。

そもそも、海外移住者の私がどうやって釋永さんの存在を知ったかについて触れたい。

オーディオブックからである。

そのオーディオブックとは、”Ikigai - The Japanese Secret to long and happy life”。

https://www.youtube.com/watch?v=r3rJF6KMg2U&t=6487s

邦題をつけるとしたら「生きがい -幸せに長生きする日本人の秘訣」といった感じであろうか。

私の住むカナダは、公共の交通機関が乏しく、どこへ行くにも車。私にとってYouTube で聞くオーディオブックは旅の友のようなもの。

数年前の夏、運転中に”Ikigai" を聞いていた。3時間以上の長い録音なのだが、その中で、釋永さんとスティーブ•ジョブズとの交流のくだりが出たとき、私のアンテナがスッと立ち、ビビビっとなった。なぜか惹かれ、心にしかと留まった。帰宅後、パソコンでShakunaga Yukio とタイプし検索。そして辿り着いた越中瀬戸焼のホームページの内容を読んでさらに興味が湧いた。

スティーブ•ジョブズが惹かれた日本人、釋永由紀夫さんとはどのようなお方なんだろう。

スティーブ•ジョブズは、きっと自分に持っていない資質がこの人にあると見込んだに違いない。それは何だろう。このお方にお目にかかれるだろうか。
この英語の本に書かれていることは、日本ではどれくらいの人が知っているんだろう。

この内容をベースに記事を書いてみよう。

そう思い立ち、早速 釋永さんとスティーブ•ジョブズの交流の部分を日本語に訳し、また自分で調べた内容をベースに執筆してみた。そして、その原稿を越中瀬戸焼のホームページにあった釋永さんのメルアドに送ってみた。
釋永さんから、すぐに返信がきた。

びっくりした。

その後、釋永さんは時間をかけて私の原稿に丁寧に赤ペンを入れて、正確な内容に手直しをして下さった。訂正後の記事は、2021年秋号の慈光に掲載された。

それから2年後。日本へ一時帰国することになった折、「日本へ帰国中に、富山の釋永さんの庄楽窯をお訪ねできたらと思うのですが」とお伺いのメールを出したところ、「是非お越し下さい」と快諾を頂いた。

かくして、釋永さんに直接お会いすることが実現したというわけである。

一対一でのお時間は、有意義の一言に尽きる。

ところで、この本は、英語のタイトルにもそのまま日本語のIkigai が使われている。アマゾンで見ると、本としては2017年に発売され、なんと世界中で200万部を超えるミリオンセラー本だった。世界中の多くの人が、この本に啓発され、多大な関心を寄せていることを知った。

その一方で、”生きがい”の生みの親、日本において、現在どれだけの人が「生きがい」を持って生きているかと問うと、訝しく思うことは否めない。

しかし、実際に富山に行き、釋永さんにお会いし、同じ陶芸を継ぐ娘の陽さん、和紙職人のご主人、川原さんから直々にお話を聞く機会に恵まれ、「やっぱり、日本にはちゃんと生きがいを持って生きている人がここにいる」と頼もしく、誇らしかった。

私は、日本人に知ってもらいたい。

世界中の人々が、幸せに生きることに難しさを覚えている中、その解決法として、日本に注目していることを。幸せに長生きする秘訣を日本人から学ぼう、日本をモデルにしようと、世界中の大勢の人がこの本を手にして読んでいることを。

灯台下暗し。私たち日本人は、日本という国の足元をもう一度照らした方が良いと思う。

スティーブ•ジョブズが釋永さんに惹かれ、亡くなる間近まで交流を続けたのには、それなりの理由があったに違いない。彼は、釋永さんのように生き方が実直で、自然と共に生き、世俗の物事に惑わされず、鋭く真理を突くような人間性に惹かれたのだと思う。

彼の生まれ育ったアメリカの、利益一辺倒のビジネスの世界とは全く次元の違う世界に、釋永さんの存在を通して触れていたかったのではなかろうか。


オーディオブックから耳に入った一情報にピンときて、そこから調べて、書いてみて、ホームページのメルアドを頼りにご本人に連絡してみた。それは記事となり、最終的にはお会いできるところまで行き、一生の思い出となる大切な時間を頂きくことができた。感無量だった。

記念撮影


この一連の流れを振り返って思い当たる言葉がある。

運は動より生ず



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