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セナのCA見聞録 Vol.58 ヨーロッパのびっくりバカンス その7

カーディフでの結婚式

木曜の朝、私は次の結婚式会場のある英国へと向かいました。

ニースからロンドンへ飛び、そこから長距離バスで2時間余りかけてウェールズの首都カーディフへ到着。ウェールズは私にとって初めての土地です。なだらかな丘陵が続き田園風景と羊の群れが点在して見える牧歌的風景、さらに古城が遠くに見えたり、と異国情緒たっぷりでした。

カーディフのバスターミナルに到着し、ホテルまでタクシーに乗ると、タクシー運転手の英語に「???」

「この人は英語を話しているのだろうか??」

と思うくらい、さっぱり聞き取れませんでした。ホテル近くの市街にある看板や窓にあるサイン、文字もなんだかとっても長いスペルで読めません。

それもそのはず。ウェールズにはウェールズ語という、英語、イングリッシュ=イングランドで話される言葉、とは違う言語があるのだそう。

カーディフは英語のスペルだと、Cardiff、

ウェールズ語のスペルだと Caerdydd と書くらしい。

読めない。。。

さて、キャサリンの結婚式は一週間前のフランスのそれとは全く違い、大変厳かでフォーマルでした。

父親のロールスロイスに乗って教会へ到着した花嫁は、父親の腕に自分の腕を絡ませて祭壇で待つ夫に向かって厳かに紅色のバージンロードを歩いていきました。

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挙式が始まりました。

参列者は式の進行表に合わせて聖書の一部を読んだり、聖歌を歌ったりしました。女性の参列者のほとんどがカラフルなスーツにそれに合わせたふちの広い帽子をかぶっているところが、いかにもイギリス的だと思いました。

教会の左後方では市の聖歌隊を依頼したとかで、臙色のジャケットに身をまとった20名以上の成人コーラスグループが聖歌を合唱していました。

披露宴は邸宅の庭にテントを二つ張って行われました。

一つは日本でいうと運動会の時に来賓客の方々が見学席として使うようなテントを一回り大きくした感じのもの、もう一つはマーキーと呼ばれるサーカスの催しに使われるような大型テントでした。小さい方のテントでは生バンドの演奏に合わせてアペリティフを、大きい方のテントの中ではフルコースの食事がふるまわれ、食後にはディスコジョッキーによるダンスパーティーが行われました。

食事も後半にさしかかったころ、豪快という言葉がぴったりのキャサリンの父親、Mr.マクレインが額の汗をハンカチで拭きながら、各テーブルを廻ってあいさつをし、大声で笑っているのが見えました。

私は数年前にキャサリンに誘われて、マルタ島で彼の所有するプライベートヨット一週間滞在させて頂いたのですが、あの時以来の再会でした。

Mr.マクレインは、「マルタ島で会ってからもう4年か。元気そうで何よりだ。さあ、今日はいっぱい食べていっぱい飲んで、存分に楽しんでいっておくれ。」と私の肩をたたいて次のテーブルへと移っていきました。

キャサリンの母親はダンスが得意とみえて、ホールでジルバなんかを軽快に踊っていました。玄関先にはテントとは別に夜食用の軽食にハンバーガーをと、出前ハンバーガーのキッチンカーが停まっていて招待客にハンバーガーを焼いていました。

また大勢の招待客が困ることのないようにと、移動式の簡易トイレを二つも庭に設置するほどの、大変大掛かりな個人宅でのパーティーは、やはり午前1時頃まで静まることはありませんでした。

翌朝。

新婚夫婦はクルーズ船でニューヨークへハネムーンに出発しました。

そこで何が待ち受けているかも知らずに。

実は、宿泊先のホテルでは、到着した二人を驚かせようと秘密裏にある計画が企てられていたのです。

キャサリン達は地元の旅行代理店を通してイギリスから船でニューヨークまでの客船旅行を予約していました。ハネムーンとはいえ普通クラスでの予約で。

ところが、父親Mr.マクレインはこの旅行代理店のマネージャーと一緒につるんで楽しみながら、二人のために様々な計らいをしていたのです。ニューヨークへ到着後は、港へのリムジンによるお出迎え、ホテルの部屋は普通の部屋にチェックインを済ませたあとに係員にスイートルームに案内させ、晩にはシャンペンとバラの花、それに豪華なルームサービスの食事をシルバートレイで係りに運ばせる、というサプライズ計画を立てていたのでした。

何も知らないデイビッドとキャサリン、さぞかしびっくりしたことでしょう。二人の驚く顔が目に浮かび、想像するだけで私の顔はほころびました。


びっくりは最後の最後まで

「さて、今度は日本で姉の結婚式に出席しなくちゃ。その前にあさってから仕事も入っていることだし。」

ということで、翌日、私は再びロンドンのヒースロー空港にいました。

大勢の人でごった返している日系の航空会社のチェックインカウンター前で、私は長蛇の列の中、順番待ちをしていました。すると、突然知っている顔が目の前を通り過ぎていきました。

「あれ~、宏ちゃん!?」

私は整理用のロープをくぐって、急ぎ足で声をかけに行きました。呼び止められて振り向きざまに私を認めると、宏ちゃんも超びっくり。

宏ちゃんは同じトレジャー航空のCAで同い年、住んでいる場所も同じ成田ということもあって、日ごろから仲良くしていた親しい友達。

最近、婚約者の住むパリに近いところで仕事をするため、勤務地を成田からロンドンへとベースを移動したばかりでした。

「信じられない。なんでこんなとこにいるの?」と聞く私に、

「それはこっちのセリフだよ。こんなところで何してるの?」

話はあっちでと、私はもう一度チェックインカウンターの列に並び直して、待っている間になぜ今ヒースローにいるかを説明しました。

「そうなんだ。結婚式に来てたとは。僕はついさっきパリから戻ってきたところ。真っ直ぐアパートへ戻る前に、今日はちょっとオフィスに寄って行こうかなって気になってさ。しかも、いつもは通らないこっち側を歩いてオフィスへ向かってたんだよね。セナちゃんに吸い寄せらたのかなあ。本当にびっくりなんだけど」

宏ちゃんは、急ぐ用事もないからと言って出発の直前までつきあってくれ、トレジャー航空のロンドンオフィスを案内してくれたり、このお店で売っているこの紅茶がおいしいらしいとか、ロンドンの事情はこんな感じだとか、現地ならではのいろいろな話をしてくれました。

搭乗時間になると、私は

「こんな偶然ってほんとにあるのね。まさか、こんなに大勢の人がいる空港で、しかもヒースローで宏ちゃんに会うことになるとはねー。今度また会うのはどこかしらね。ニューヨークかな。成田かな。それともまた意外なとことか。楽しみだわね。それまで元気でね。」

と、いつまでも手を振って別れました。

機内の座席に腰を下ろすと、私は目をつぶり、口角を上げてにっこりし、

「あ~、楽しかった。」

と心の中でつぶやきました。

今回のバカンスに大満足の私は、”アラウンド・ザ・ワールド”、世界一周の最後のフライトで成田到着直前まで爆睡しました。

おしまい



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