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セナのCA見聞録 Vol.56 ヨーロッパのびっくりバカンス その5

飛行機は予定よりだいぶ遅れて夜9時に出発し、ワインの産地で有名なボルドーには10時少し前に到着しました。

そこで暗闇の中、貨物を降ろし、また新しい貨物が積み込まれました。

そして今度はパリへと飛び立ちました。

途中雲の中へ突入し、視界ゼロの状態で何も見えなくなったとほぼ同時に、飛行機が上下にグラグラと揺れだしたので、私は怖くなって両手で座席をギュッと押さえました。

しかし、10分後には視界は回復し、気流も安定しました。視界が晴れると、遠くに夜のパリが見えてきました。

大都会でした。

「わあ〜、、、」

私は、コックピットから夜の大都会パリをつぶさに凝視しました。

鳥肌が立つような夜景でした。

目を見張るばかりのパリの夜景がどんどん迫ってくると、間もなく飛行機は着陸。

真夜中にパリのシャルル・ドゴール空港に到着した私は、ムシュー・ウベールに案内されて、次のニース行きの飛行機まで歩いていきました。

ニース行きの機内へ入ると、ムシュー・ウベールは

「君のことはこのフライトのキャプテン、ジャンポールに話をつけてあるから心配ないよ。あっ、来た来た。」

と言い、タラップを上がってこようとするパイロットに手を振りました。

ムシュー・ウベールは「彼女がニースまで行きたい女の子、セナだ。よろしく頼むよ。」とキャプテンに伝えると、

「じゃあ、僕はこれで。セナに会えて嬉しかったよ。お友達の結婚式、存分に楽しんでおいで。」と私の両頬に軽くあいさつのキスをしてタラップを降りていこうとしました。私は急いで引き止めて、お礼の品を渡しながら、

「本当にどうもありがとうございました。お元気で。」と別れのあいさつをしながら、彼が見えなくなるまでタラップの上から見送りました。

私は今度はジャンポールに挨拶をし、なんだか、全く予想外の事の成り行きに任せっきり。

乗りかかった船ならぬ、乗りかかった飛行機。

今さら途中で身を引くこともできない。

しばらくすると、副操縦士のフランソワがやってきました。飛行前の安全確認を二人のパイロットがしているところに、もう一人のパイロットが突然入ってきて、「さっきウィーンから戻ってきたところ。ニースにある家に帰るのでこれに乗せてもらうよ。」と言いました。

これで2席あるジャンプシートは満席。

出発の準備が整うまでの間、私は飛行機のタラップの上段から、真夜中過ぎにも関わらず、忙しく働きまわる航空貨物便を扱う地上職員や何十機もの駐機された飛行機を眺めていました。黄色い照明灯が眩しく、真っ暗な夜空との対照が余計に深夜であることを強調していました。

「まさか今回パリに来るとは夢にも思わなかった。しかも真夜中のシャルル・ドゴール空港の航空貨物エリアにたった一人で。」

肌に受ける夜風にを全身に浴び、私は深呼吸をしました。

なんだか特別な香りがした気がしました。

コックピットは再び満席の4人で埋まり、飛行機は定刻通りに出発しました。

滑走路へ向かう中、副操縦士のフランソワが

「セナ、よーく見ておきなよ。今晩は君のためにパリの夜景が一番きれいに見える滑走路から離陸するから。」

と言いました。

「また~、うまいこと言って。」と私は心の中で呟きました。

どの滑走路から離陸するかは、航空管制官から指定されているに決まってるのに、女性心をくすぐるようなことを平気でさらっと言う。

本当にフランス人は会話の達人だと感心しちゃう。

それにしてもパリの夜景は素晴らしかった。

もう1時も廻っているというのに、まだ煌々と光る街明かりは見る者の眼を惹き付けて離しませんでした。このパリの明かりの中で何百万もの人が生活していることを思うと、それだけで私の胸はとても高鳴りました。

私は4時間前に飛び立った南フランスへ再び向かっていました。

今度は南仏でもイタリアに近い方。

この便の飛行ルートはたまたまステファン達の結婚式の行われるサンラファエル(St. Rafael)の真上を通ることになっていました。私があさって(といってももう日付がかわっているので実質上は明日)そこへ行くことを既に聞いていたパイロットは、

「君の友人が結婚式を挙げるサンラファエルはとてもいい場所だよ。きっと楽しめることだろう。」

と左隣に座る私に言いました。

私は明日に控えた結婚式に思いを馳せながら、その眠っている暗い町を見下ろしました。

ニースへ到着すると、

「君のホテルまで送っていってあげるから、ちょっとここで待ってて。」

と副操縦士のフランソワが先に飛行機を降りてレンタカーを取りに行きました。私は予め夜中の3時前後のチェックインになることを、空港近くのホテルに伝えておいたものの、実は内心ちゃんとタクシーが捕まえられるかどうかとても不安だったので、この言葉にとても感激しました。

5、6分でホテルに着くと、フランソワはホテルのロビーまで私のスーツケースを運んでくれ、

「じゃあ、気をつけて。お休み」と去っていきました。

私はどんなに感謝を伝えても伝えきれない気持ちで、大きく膝に頭がつくまでお辞儀をして別れました。

ホテルの部屋のベッドに横になり、私はこの不思議な旅に改めて驚いていました。

南フランスのポーからニースまでを海岸沿い西から東へ移動すれば700〜800キロの距離。それを今晩ポーを出発して、ボルドー、パリ、ニースと飛行機でその倍以上の距離を移動してきたです。まるで夜のフランスをぐるっと飛行機で一周してきたようなもの。しかも航空貨物便のコックピットに乗って。ただで。。。知らない土地で、出発から到着まで見ず知らずの男性パイロットにずっとエスコートされて守られながら。

お陰でカミーユと過ごす時間も夕方までもてたし、明日の結婚式にもちゃんと間に合った。

こんな幸運ってあるものなの??

もう朝も4時に近いというのに、なかなか興奮が冷めきらず眠る気になれなかった私は、お風呂に入ってこの旅で出会った全ての人を一人一人思い出し、そして心の中でお礼を言い続けました。

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