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「蟻地獄」

あなたが私を見つめるから。
窓の外を眺めたまま、指先を預けてあげる。
置いた太ももを爪先でなぞると、温かい手がすぐに私を捕まえてしまう。
そのまま両手で私を包み、とても、とても大事そうに、そっと口づける。
その全てを窓ガラス越しに眺め、このまま死ねたらと、切に願った

“逢いたい”と思う気持ちを、これほどまでに感じたのは初めてだった。
“逢いたい”と思う気持ちを、これほどまでに伝えないのも、初めてだった。
私からは求めない。それが、この恋愛における私自身が科したルールだった。
私の目の前にいる彼が、全てだと。
それ以上は、私の人生には必要が無い。
あなたが含まれた私の人生の一部に、それ以上は余計なことだと、理解した。
それでいられたら幸せで、私はただ、私の人生において、幸せでいたかった。
それなのに、こんな男に想いを寄せて。
甘くて苦い、秘密の恋愛に溺れるなんて。

『君は笑わないね』

私は愛想が無い。これは元々のことで。
天真爛漫に振る舞う友人を羨ましく思い、なれない自分は別の生き物なんだと諦めた。

『君は、笑わないね』

あなたは抱く時も、そう言った。
キスをする直前、唇が触れるその瞬間、一度止まって、そう言った。
“僕が笑わせてあげる” そんな風に。
私は笑わない。それは元々なの。
抱かれる時に泣くのは、それほど気持ちいいの。
ただそれだけ。だからそんなに奥まで入らないで。

あなたは私を寝かしつけるのがとても上手。
あんなに酷く、痛めつけてたくせに。
終わると途端に、あの冷酷さはどこかに行ってしまうの。
あなたが身体につけた痛々しい跡は、あなたが誰よりも労り、可愛がった。
いつまでも優しく撫で続け、赤ちゃんを寝かしつけるみたいに。
私は大人だから、一人でちゃんと眠れます。
だから早く帰ってあげて。
でもあなたはもっと大人だから、私が寝てないことぐらいわかってる。
背中を向ける私に布団をかけ直し、決まって頭を一度だけ撫で、その後にドアが閉まる。
私の顔は見ないでくれる、それがあなたの優しさ。

あのね、彼氏が出来たの。
私だけを見てくれる、素敵な人。
私を決して泣かさない、そういう人なの。
だからあなたとは、さようなら。
そうしたほうがいい、そうしたいの。
引き止めないでよ、どうしてそんなに酷くできるの?
あなたの方は振り向かない。

窓ガラス越しに、最後のあなたを、焼き付ける。

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