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「グラデーション」4

それから、彼女とは二、三日に一度、なんてことのないやりとりをした。
彼女の投稿には触れず、そして彼女も一切振ってこなかった。
気温のこと、最近食べた美味しかったもの、写真のこと、SNS上で知り得る当たり障りの無い会話をただひたすらに続けた。
俺は、彼女の返信が待ち遠しかった。どんなテーマを与えられ、どのように応えられるのか。試されているかのように思えてくる。ピストルを顎下に突きつけられながら、ナイフを眼球に向けられたまま、中身の無い正しい会話を強制的に続けさせられている。勝手にそんな妄想をして、返信を打つ時の心拍は上がった。

しばらく経った頃、ひょんなことから写真展に参加することになった。俺の写真が数枚飾られるようだ。人生何が起こるかわからない体験を噛み締めつつ、自分のアカウントで写真展の告知をした。
投稿すると、すぐにDMの新着通知がついた。開くと、それは彼女だった。

『写真展、行きますね、この目で見に。』

それだけ。たったそれだけ。
写真を観に来てくれる、流れで言えばそう捉えるのが正しいだろう。
でも俺にはそれだけとは思えなかった。

“下品で変態でイカれた願望を抱えたままやりとりをしていたお前の面見に行ってやるよ”

自意識過剰だ、わかってる、そんなこと考えてるのは自分だけだってわかってるけど。
それでも、希望に触れられる可能性を前に俺の思考は止められなかった。
来る…彼女が来る。彼女が、本物が。会える…チャンス。
落ち着かない心臓を押しこみ、返信を作成する。

『有難うございます。○日~○日の18時以降であれば僕もギャラリーにいます。もしお会いできることがあれば、その時はご挨拶させてください。』

他にもメッセージはひっきりなしに届いた。
全てにお礼だけを返信し、俺がギャラリーに行くことは伝えなかった。
俺にとってこの写真展の参加は、彼女だけが目的になった。

実際に彼女と会えるかもしれないと知り、抑えていた俺の嗜虐願望が酷くなっていた。
特に何をするわけでも無いが、彼女があげる動画や静止画を見ては、そこに映らない背景を想像し、何度も何度も射精した。
ひどい言葉と、一般的には許されない行為。俺を追い詰めてくれる彼女は美しかった。俺が一人藻掻いているうちに、いつの間にか逃げ場がなくなっている。急に全身の力が抜けて俺はその場にへたり込むんだ。上から差し込む明かりをぼんやりと眺めていると彼女が覗き、次の瞬間俺は土下座した。

『そこで空間とセックスして見せてよ』


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