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渡り鳥にリーダーはいないらしい

渡り鳥が群れを作って飛ぶ時いつも先頭を飛ぶ鳥がいますが、この鳥は絶えず交代していると言われています。この法則を仕事に適応できるのではないか。そう思って会社をつくりました。ここでは設立に至った動機を書いてみます。

使い捨てされる若手

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建築家として自分の名前で仕事をするには色々な方法がありますが、大学を卒業したら有名建築家に弟子入りし数年修行したのちに独立するというのが王道です。しかしながらその道を歩いてきたにも関わらず、途中で諦める方も沢山います。
他のことをやりたいという理由で建築をやめる人も一定数いますが、設計事務所の仕事に疲弊し将来性に不安を感じて辞めていく人も一定数います。僕にはこれが残念でなりませんでした。

聞けば「子どもが生まれ、このままの薄給では立ち行かなくなるので」とか、「ずっと長時間労働に耐えてきたけれどもう限界だ」とかですね。そこそこのベテランになってくると設計業の不安定さも身に沁みてわかっているので、加齢とともに感じる体力気力の衰えがさらに不安にさせるのだろうとも思います。

そうやって辞めていった人をたくさん知っています。建築に対して大きな情熱をもって仕事を始め、それなりの経験を積んで技術を得て、やっとこれからという時に「勿体ない!」と思ったことが何度もあります。
さんざん下積みをした挙句にその将来性を望めなくなるなんて、ただただ悲劇です。時間は戻りません。
なんて夢のない職業なんだろう。と歯がゆい思いでした。


好きなことを仕事にしたらお金はいらない?

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↑写真と本文は何の関係もありません。

世間的には建築家は高給取りの良い職業と思われているようですが、実際は全然違います。ぜっんぜん違います。←チカラ入ってます。
建築家はカッコつけが多いのでそういう面をあまり見せないのが原因じゃないかと思いますが、実際は全然食える職業ではないです。

でもそれっておかしいのです。
それなりの教育を受けて、最難関のうちの一つとされる国家資格取って、責任の重い仕事しているのに給料が安いっておかしいです。
でもそういうものなんです。そういうものなんだよ。って学生のころから刷り込まれていました。(僕の時代には)
「建築家というのはお金の為にやるものじゃないのだよ。」という雰囲気が先輩やOBから匂ってくるのです。設計事務所にバイトに行ってお金をもらえたらラッキーみたいな感覚も学生間に当たり前にありました。

ずっとそこが理解できませんでした。
だから僕は設計事務所でバイトしたことありません。

設計事務所に行くと、空気の悪い密室にぎゅうぎゅうに押し込められてひたすら模型を作らされて、後ろからムチでたたかれて、怪しいお香かなんかが焚かれていて、でもってだんだんトランス状態になってきてお金は罪だ罪だとかブツブツ言うようになってしまうのだと思い敬遠していました。(ウソですが全くウソでもありません。)


その図面、一枚いくらですか?

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建築家というのは、そんなわけでお金のことに関してあんまりしっかりしていない人が多いのではないかと僕は感じています。
設計事務所は小規模でも人を雇えばそれなりの会社なわけで経営を考えなければなりませんが、その経営感覚というものが全くない建築家がいまだに多いです。
例えば求人広告に平気で最低賃金以下の給与を明記していたり、社会保険加入予定なしとか。「あのう、違法なんですけど、、、」というものがいまだに散見されることからも計り知れます。

また、自分の時給を知らない人も多いです。
良いものをつくるためには時間が必要。だから時間がかかっても仕方がないという発想でしょうか。一人親方ならば良いですが、人を雇ったらそんなこと言っていられません。

今の作業にいくらかかっているのか。いくら以内に収めなければいけないのか。を共有するべきだと思っています。
例えば、給与と売上の関係は一般には給与の3倍稼いで一人前と言われますが、設計事務所は仕入れがほとんどないので弊社では2倍ぐらいでトントンです。
つまり、月給30万円ならば月に60万円の売上になるものをつくらなければならない。稼働日が20日あるとすれば一日3万円。
もしある図面を5日かけて描いたならば、その図面は5日分の15万円以上の価値が無ければいけません。

自分の価値、自分のつくり出したものの価値を意識して働くことがまず経営健全化の第一歩だと思っています。


継承されるべき技術と経験

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僕は20代の終わりにフランスから帰ってきてすぐに一度独立したのですが、3年目に早々に廃業して再就職しました。
その理由は以下です。

やる気のある若者が小さな設計事務所で5年以上しっかり働けば、そこそこの技量が身に付きます。大手とは違って何から何まで自分でやるので、独立を見据えているのであれば学べるものは多いと思います。

しかし、いくら前職で技術と経験があっても独立したら実績ゼロからのリスタートです。少し前まではのれん分けのような形でお客さんとの縁を分けてもらったりということがありましたが、今は設計業界全体があまり景気が良くないので師匠たちだってそんな余裕はありません。

若手は実績ゼロのままだといつまでも仕事が来ないので、来る仕事は何でもやるようになります。金額が叩かれようとデザインする可能性の少ないものであろうと、とりあえず何でも受けて徐々にその規模が大きくなることを夢見ます。
そして夢破れます。
仕事がない→安く請ける→安い仕事が来る→忙しくなるけど儲からない、又は儲かるけど充実感が無い
という沼にはまります。

下請け仕事だけやるのなら「じゃあ何のために独立したのか?」が分からなくなっていきます。これが僕の最初の独立時に起こった大きな大きな問題でした。

仕事をするときに自身を成長させてくれるものは、お客さんでありそのプロジェクトです。良い仕事に関わることでいろいろな考え方に触れ、自身の世界が広がっていくのだと思っています。
同じような仕事ばかりをこなすようになると、あるところから成長が止まりぐるぐるとループしていくようになります。

その沼を抜けるために若手建築家は尖ったモノを作りたがります。センセーショナルな作品を発表することで注目されて仕事が来るようになるという事実もありますが、そういう目的でつくられた建築が本当に良い建築となることは稀です。それに利用されるお客さんとその建物は「不運」と言うしかなく、やるせなくなります。

前置きが長くなりましたが、要は実際に携わった建築設計の実績や経験をきちんと対外的にも継承出来る仕組みがあれば、売名のために質の悪いものが世の中に増えることを防げるのではないか。
と考えました。

その為には、個人名を掲げた設計事務所が乱立していることよりも、建築家集団としての会社があり、その中で個人の建築家が活動するという仕組みが良いように思えました。

そこで考え付いたのが「合同会社」という仕組みです。


合同会社とは

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合同会社の特徴を簡単に言えば、経営を行う人と出資者が同じ会社のことで、メリットは設立費用が安い、構造がシンプルという点です。そして複数の人間が代表権を持つことも出来るので、法人に所属しながら個人のように活動できるといった点も魅力です。

複数の建築家が協働することで得られるものは多く、① 知識、技術の共有。② 各々の専門家的視点からの、相互チェック及び公正な社内検査。③ 多角的な視点を持った総合的な設計提案。といった点が可能になると考えられます。

ただ僕が惹かれたのは「合同」というネーミング

「合同」とは、独立していた二つ以上のものが一つにまとまること。また、そういうものを一つにまとめること。

未来の設計事務所はトップダウンだけでは無く、それぞれがリーダーになれる仕組みがあるべきだと考えていた僕にとってこの単語はしっくりきました。


渡り鳥にリーダーはいない

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冒頭にも書きましたが、渡り鳥が群れを作って飛ぶ時いつも先頭を飛ぶ鳥がいますが、この鳥は絶えず交代していると言われています。この法則を1987年に、アメリカのアニメーションプログラマーのクレイグ・レイノルズが解き明かしています。そのルールは3つのみ。

1:近くの鳥たちと飛ぶスピードや方向を合わせる
2:鳥たちが多くいる方へ向かって飛ぶ
3:近くの鳥や物体に近づきすぎたら、ぶつからないように離れる

この3つのルールを与えられたシミュレーションは、驚くほど自然な動きを見せ、群体としての複雑な振る舞いを再現できることを示しました。

個々が連動して全体を動かす。おのおの自分の考えで飛び回りながら全体は一つの方向に向かっていく。なんてすばらしいのでしょう。

この考えを仕事に当てはめれば、固定のリーダーの責任だけで仕事をするのではなく、担当者それぞれが名実共に責任者となり時に全体を率いるということです。会社の仕事をみんなでしているという感覚が形成されます。
なんてすばらしいのでしょう。

と、ここまでは理想論です。
なんやかんや言っても、それぞれバラバラの考えではただの烏合の衆になってしまうので、そこは代表である僕が全体の方向性を決める方が良いのだと感じています。意思決定の迅速性においてトップダウンは確実に優れていますし。

なので今はボトムアップとトップダウンの混在した形の中で良いバランスを探しているところです。


精鋭集団になりたい

そんなわけで、あまね設計は独立した建築家が集まり切磋琢磨する精鋭集団を目指しています。現在はまだ育成段階ですが、ゆくゆくはもっと各々がやりたい事を好き勝手に出来るようにしていきたいと思っています。

個人が法人を代表する。法人は個人の集合として実績を積み重ね対外的な信用を得る。そんな仕組みを軌道に載せられれば、不幸な建築家は減るのではないでしょうか。不幸な建物は減るのではないでしょうか。
そう信じて地道に歩いていきたいと思っております。


noteを始めてから、考えていることをどう書いたら伝わるだろうかと試行錯誤することが楽しくなりました。 まだまだ学ぶこと多く、他の人の文章を読んでは刺激を受けています。 僕の文章でお金が頂けるのであればそのお金は、他のクリエイターさんの有料記事購入に使わせていただきます。