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火星の別件逮捕【毎週ショートショートnote】

星をあげての必死の捜査により、大統領を狙った爆弾テロの実行犯は特定できた。しかし、すでに火星の過激派組織『マーズの栄光』は、宇宙船で大気圏外へと飛び去った後だった。

異星人がその母星に戻ったら、こちらが乗り込んで逮捕し裁くことは難しい。強行手段に出ようものなら、逆に非難の的になる。政権交代後、対外強硬姿勢を鮮明に打ち出している火星政府のことだ、それを口実に圧力をかけてくるかもしれない。過去に起きた事例からして、彼らこそ黒幕という可能性も高いのだ。

犯人グループが火星に帰還する前に、時間のなかった我々は、別件逮捕を試みた。容疑は「追い越し禁止」。火星への航路上にノロノロと鈍足の宇宙船を配置。帰還を焦る彼らが抜き去った瞬間、宇宙警備隊に通報したのだ。連中の身柄は太陽系交通留置所に移送され、後は正当に身柄引き渡しの手続きをとるだけだ。

これで我らが故郷である金星は、かつて滅ぼされた地球の二の舞になるのを回避したのである。

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