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腋の薔薇時計【毎週ショートショートnote】

あなたが来ることのなくなった部屋は、何かひどく空虚に感じるのです。

あなたはいつも、夜が深まり出す頃に、この部屋を訪れました。
わたしはいつも、何も問わず聞かずに、招き入れました。
シャワーを浴びさせ、軽くお酒を注いで、当たり障りのない話をして――
そのうちに言葉が途切れると、わたしたちは自然と互いを求め合いました。

そして真夜中、ちょうど、日付が変わる頃。
わたしはあなたの腕を枕に、腋に抱きとめられ包まれながら、眠りに落ちるのでした。
まるで計ったかのように、同じひとときを同じように繰り返す。それこそが愛なのだと、幸せに信じ込みながら。

あなたが来ることのなくなった部屋で、思うように眠れない夜。
わたしは、薔薇の香水を枕に振りかけます。
あなたがただひとつだけ残していったお気に入りの香りで、空虚な部屋を満たすのです。

そうすれば、驚くほど穏やかに、眠りに落ちることができるのです。
まるで計ったかのように、ちょうど、日付が変わる頃。

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