ツノがある東館②【毎週ショートショートnote】

「桃太郎の館には鬼が棲んでいる」と、ここいらの者はみな噂しとる。

鬼が島で鬼どもを退治した桃太郎は、持ち帰った金銀財宝で、あのとおり鬼が島の見える海沿いに立派な御殿を立てての。
東西南北に別館があり、北館は犬、西館は猿、南館は雉にそれぞれ与え――そして海側には、ひときわ豪華な東館を建てた。そこには、鬼退治から戻る道中で出逢ったという妻を住まわせとるそうじゃ。

当初は愛ゆえと思っとったが、あの東館は地形的に外部から隔絶されとって、まるで牢獄のようでの。
そして桃太郎は、本殿に若いおなごを次々連れ込んどるという。かつての英雄が、妻を閉じ込めて取っかえひっかえ女遊びとは……なんとも浅ましいことじゃ。
あれでは妻も、東館で般若のごとき形相になっておろうて――

「最愛の妻よ、食事の時間だ」
「桃太郎、もうよい、私などのために……」
「いや、あなたのためなら、我は鬼にもなろう」

桃太郎は、鬼ヶ島で見初めたツノのある妻の前に、新鮮な肉を――