見出し画像

2021年のミュージカル映画7

今年後半になってからミュージカル映画がどさどさと公開されましたね〜。スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』は延期されちゃったけど。次から次へとアメリカ映画で、それぞれ役にぴったりの俳優が半端ない実力を披露していて…かの国のショービジネスの層の厚さに舌を巻く。

なかでも大活躍であっちでもこっちでも名前を見るのがリン=マニュエル・ミランダだ。原作・作詞・作曲・主演(舞台)の『イン・ザ・ハイツ』、長編映画の監督デビュー作『tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!』、音楽を手がけた『ミラベルと魔法だらけの家』と、すごすぎ、天才とはこういう人か〜。
どれもハイテンションで歌い出したら止まらない感じが共通しているが、本人もそういうタイプなのかな。

イン・ザ・ハイツ

ミュージカルの冒頭によくある、登場人物たちが次々と出てきて舞台となる町を紹介するように歌い踊る曲が私は大好きなんだが、それが全編ずーっと続いているような感覚。ウスナビを中心とした若者4人の夢と恋を軸としつつも、ワシントン・ハイツという雑多な町や住民そのものが本当の主人公という気がする。だからストーリーだけ聞いても良さは伝わらない。カリブ系移民たちの刻む、弾けるようなリズム感、炸裂するエネルギーに身をゆだねて、ぶんぶん振り回されるのが快感なのだ。とくに群舞シーンは圧巻で、見切れている画面外にも実力者がひしめいているんだろうな〜。
音楽は明るさに満ちているけどもちろん人生はラクではなく、地価が上がって住み続けられない人がいたり、不法滞在や差別の問題があったり。それぞれ悩みを抱えつつも、夢を決して手放さないで生きていく。ベテラン美容師3人組がいい味出してる! 大停電でうだっているみなに「プエルト・リコでは停電してもカルナバルをやめない」「ラテン民族が夏負けしてどうする」と喝を入れるシーンがグッとくる。
ところで、ピラグア(昔ながらのかき氷)を売り歩いている男がちょこちょこと目につくけど、彼こそが作品の生みの親であるリン=マニュエル・ミランダだ。

ミラベルと魔法だらけの家

いかにも子供向けのルックだし、予告編を見てこんなかな〜と想像していたら、実際はその100倍よかった! 超ハイテンションの1曲目、コロンビアの飾りや衣装でカラフルに彩られすぎて目がチカチカするほどだが、こういう過剰さ、けっこう好きだ。
魔法を使える一族のなかで、唯一、何の力も持っていない女の子がミラベル。「ギフト(能力)がない」と盛んに言われるけど、それだけ歌って踊れれば充分なのでは…と一般人目線からは思ってしまうが。とにかく、“自分だけみなと違ってる”という劣等感を常に抱えていなければならないということで、何らかの心のわだかまりを投影してしまう人も多そう。“魔法”とはいろんな意味に解釈できる。とくに家長である祖母に「邪魔にならないよう何もしないで隅にいなさい」という扱いを受けるのがキツいな。実際、感情の起伏で天気を左右するペパ叔母さんの能力のほうが傍迷惑だと思うな。そんな一家を襲う“魔法が失われるかも”という危機に、魔法を使えない者だからこその頑張りで立ち向かう。
明るい1曲目から、ミラベルの胸のうちがもれる2曲目での落差、堂々と生きているように見えた姉たちが内面を吐露する曲、どれも夢中で聴き入ってしまう。完璧さを求められ皆から期待される姿を保つことと、自分らしさの開放のギャップ。ミラベルはまだ15歳だから家族の中でどうするかが大事だけど、将来的には広い世界に出ていけるといいよね(それが『アナ雪2』のエルサ)。

ディア・エヴァン・ハンセン

思えばミュージカルに出てくる登場人物はだいたい外交的だ。人前で感情をあらわにして高らかに歌ったり激しく踊ったりする人たちだから、まあ必然だろう。そんななか、史上初といえるほどの陰キャ主人公がエヴァン・ハンセンだ。なんせ独りの夜に宅配の配達員と言葉を交わすのがいやなあまり夕食を抜いてしまうほどの高校生。しかし、孤独感と不安を抱えた繊細な、とても繊細な心の動きの発露として歌がはじまるというのはむしろ説得力があった。
カウンセラーからの課題で「ディア・エヴァン・ハンセン」と自分宛ての手紙を書いていたら、問題児コナーにからまれ、後日コナーは手紙をポケットに入れたまま自殺してしまう。悲しむ母親のすがるような思いに応えるため、そして自分自身の願望を織り交ぜて、二人は親友だったと嘘の思い出を作り上げてしまうのは、愚かだけど優しさ故でもある。こういう弱さを抱えた心をテーマにしたブロードウェイ・ミュージカルが人気を博すなんて、そういう時代なのか〜と驚きを感じる。
エヴァンの母親を演じるのはジュリアン・ムーアで、歌うのかな?と思っていたら、終盤に息子に語りかける曲があった。忙しいシングルマザーで、母子の日常はすれ違いがちになっていたけれども、いちばん大切なものは変わらない。まるで心臓にそのまま触れてくるような素敵な歌声で、涙が止まらなくなったよ。

tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!

Netflixオリジナル映画。ミュージカルの名作『RENT(レント)』の作詞・作曲・脚本家として有名なジョナサン・ラーソンが残した自伝的作品を、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのリン=マヌエル・ミランダが映画初監督。ジョナサンは、『レント』のオフ・ブロードウェイ・プレビュー公演初日未明に35歳の若さで突然この世を去り、その後の人気や賞総ナメなどの栄光を知ることがなかったという事実を踏まえて観ると、ますます胸に迫るものがある。
タイトルは時計の針がチクタク刻まれて爆発点に近づいていくのを表していて、1曲目の「30/90」ではまだ何も成し遂げてないのにもうすぐ30歳になっちゃう!という焦燥が歌われ、こっちにも焦りが伝染して息が苦しくなりそう。すごいものを創ったるという野望も自信もあるのに、なかなか世に認められなくて、友達は現実的な仕事で稼いでいて、熱中するあまり恋人のことは疎かにしてしまっていて…と青春の紆余曲折。とくに何かを目指した経験のある人には、刺さらないわけがないストーリーだ。
しかし主演のアンドリュー・ガーフィールドがこれほど歌も上手くてピアノも弾いて何でもできる人とは知らなかった! 声にすごい情感がこもってる。

ザ・プロム

これもNetflixオリジナルで昨年末の公開だけど、今年になってからライブ音響上映で観たので入れちゃう。劇場で観れて良かった! すごい迫力〜〜!!
歌と踊りがめいっぱい詰め込まれていてキャスト全員が魅力を放っていてホント息つく暇もない。芸達者なエイジング・ナルシシストという役ではメリル・ストリープの右に出る人はなく、完膚なきまでに魅せてくれる。メリルのこと、なんだか年々好きになっていくよ…。落ち目の舞台俳優たちが売名の下心をもちながら、同性カップルでプロムに参加したいのにPTAに阻まれている女子高生たちを助けていくというストーリー。若者サイドの主人公エマ役のジョー・エレン・ペルマンは、映画初出演の大抜擢だそうで、透明感のあるのびやかな歌声が耳に残る、これからの活躍が楽しみな逸材だ。
ニコール・キッドマンも好きな女優だが、なかなか見せ場がこなくてやきもきしてしまい、中盤でソロ曲「Zazz」が始まったら「待ってましたぁ〜!!」とやんややんや。お祭りだ〜。衣装や美術も華やかで、最後にはド派手なプロムが待っているから、前向きな気分になりたいときに何度でも観たい。

シンデレラ

誰もが知るおとぎ話の翻案は今まで何度も行われてきて正直「またか」感がちょっとあったけど、Amazonオリジナルで登場したこのミュージカル版はなかなか良かった! ビートの効いた音楽にあふれていて、住民たちが歌い踊る「リズム・ネイション」の幕開けからワクワク。そのほか、クイーンの「サムバディ・トゥ・ラブ(愛にすべてを)」など有名ポップミュージックが盛りだくさんだ。
デザイナーを目指していて自作ドレスを売り込みに舞踏会に行くエラ(カミラ・カベロ)も、蝶から変身して魔法をふるうファビュラス・ゴッドマザー(ビリー・ポーター)も、現代的な魅力がある。ガラスの靴の持ち主を探すお触れはラップで出され、民衆の中から「わたしの靴はどれも特大〜♪」と歌い上げる黒人女性が声良すぎでウケた。
意地悪の代名詞である継母を演じるのはイディナ・メンゼル(『アナ雪』のエルサ役で有名)。洗濯物を干しながら、突如の「マテリアル・ガール」が最高だった! 女は好きな道に進めないという家父長制的な抑圧を内面化してしまい、実の娘たちかわいさあまりにエラに辛く当たってしまう陰影あるキャラクターになっていて、むしろ共感してしまう。姉たち2人も憎めないんだよね。

Everybody's Talking About Jamie ~ジェイミー~

Amazonオリジナル映画で、プライム会員ならぜひ観てほしい! もっと話題になってもいいのに〜と思える良作だ。冒頭、「実際に起こった物語に歌とダンスを加えました」と断り書きが出るのがシャレてる。
イギリスのシェフィールドで母子2人暮らしの高校生ジェイミー。水色のきらきらしたリュックサックにマスコットをぶらさげ、鏡の前でティアラをつけてみるジェイミーを見たら、瞬間的に好きになってしまう。16歳の誕生日に母親からは真っ赤なハイヒールのプレゼント。将来の夢はドラァグクイーンなジェイミーが、本当の自分らしい姿でプロムに参加したいと、周囲の無理解や自分の心の中にある壁と闘うストーリー。ジェイミーの妄想世界がはじまると学校のみなも踊り出し、きらびやかでファッショナブルで目を引きつけて離さない。主演のマックス・ハーウッドはこれがデビュー作だそうだが、線の細い少年らしさが残っていて、女の子とはちがうドレスの似合い方してるな〜。
辛いこともあるけれど、包容力の塊のような母親マーガレット、頼りになる母友レイ、親友の賢いムスリム女子プリティ、ドラァグクイーンとしての師ヒューゴら温かい人たちに囲まれて、揺れ動く十代の成長物語としても感動する。


この記事が参加している募集

おすすめミュージカル

おすすめミュージカル

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?