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言葉が届かない場所に物語がある。

 僕が小川洋子さんの小説を知ったのは『密やかな結晶』を読んだときでした。本屋でその本を手に取ったのは、表紙のデザインがとても異質で、タイトルにある「密やかな」という言葉の響きが怪しげな雰囲気をまとっていたからです。

 そして、おそるおそるページをめくり冒頭の文章を読んだとき、繊細なタッチで描かれた、宝物のように大事そうに書かれた言葉にすっかり魅了されてしまいました。

この島から最初に消え去ったものは何だったのだろうと、時々わたしは考える。「あなたが生まれるずっと昔、ここにはもっといろいろなものがあふれていたのよ。透き通ったものや、いい匂いのするものや、ひらひらしたものや、つやつやしたもの......。とにかく、あなたが思いもつかないような、素敵なものたちよ」
 子供の頃、そんな物語を母はよく話して聞かせてくれた。

(小川洋子著『密やかな結晶』 p7より引用)

 そして昨日、『小川洋子の作り方』という本を買いました。そこには、書き手としての小川洋子さんにフォーカスして、創作の秘密が語られていました。

言葉が届かない場所

 誰かと話していると、話を要約しようとする人がたまにいます。親切心なのか、賢さをアピールしたいのかは分かりませんが、「それって、○○ですよね」といったぐあいに相手の話の要点を一言で説明しようとします。

 しかし、自分の伝えたいことを簡単に言葉にまとめることが難しい場面もあります。それは言葉にしようとしても、どうしても言葉にできない類の事柄です。

 言葉にしようとしても正確さに欠けてしまったり、誤解を招くことになります。だから、自分のなかに留めておくことしかできません。そして、それもいつかは自分の記憶から消えてなくなってしまうです。

 もしかしたら、だからこそ小説があるのかもしれません。伝えたいことを短い言葉で要約することができなくても物語としてなら、届けることができるからです。これに関して、小川洋子さんは次のように説明しています。

私たちは、もしかしたら言葉で書かれた小説を読むことによって、言葉が届かない場所へ行っているのかもしれないですね。言葉が必要ない場所。そういう言葉が必要とされない場所に自分の居場所を見つけるために、小説を読んでいる。
(『小川洋子の作り方』 p132より引用)

  言葉が届かない場所へ行っているって素敵な表現ですね。小川さんの小説にはよく動物が登場するのですが、それは彼らが言葉を持っていないからだそうです。小説のなかで言葉を話さない動物を登場させると、小説が力強く動き出すのだそうです。じつに興味深い。

 また、この本の最後の章に小川洋子さんの全作品が解説と共に紹介されていました。まだまだ読んでいない作品がたくさんあります。これからnoteでも紹介していきます。お楽しみに!!

 こんばんは。雨宮大和です。昨日、『小川洋子のつくり方』という本を買いました。家の近くにある割と大きめの本屋さんに置いていなくて、お取り置きしてもらいました。店員さんに「小川洋子のつくり方を探しているんですけど」と尋ねたときに、店員さんもまさか本の題名だとはつゆ知らず、この人は何を言っているのだろうという不思議な間が生まれました。
 それでも、手に入って本当によかった。記事を読んで興味をもった方は、ぜひ手に取ってみてください。なかなか本屋に置いてないので、店員さんに聞いてみてください。

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