超短編小説|未来人
僕が未来人にはじめて会ったのは、下校時の靴箱だった。僕は自分のシューズの片方だけないことに気づいて、辺りを探していたときに彼は現れた。
未来人はなぜか僕のシューズの片方を持って、僕の目の前に立っていた。彼は「どうぞ」と言って、靴を渡してくれた。僕は「ありがとう」とお礼を言った。
その日、僕は未来人と一緒に帰った。
未来人は雨靴を履いていた。僕が「なんで雨靴なの?」と聞くと、彼は間髪入れずに「もうすぐ雨が降るから」と答えた。まもなく雨が降ってきた。
それからも、彼は僕に色々なことを教えてくれた。明日登校する時には上履きに画鋲が入っているから気をつけてとか、今日はいつもの通学ルートは通らずに帰った方がいいとか、明日は抜き打ちのテストがあるから勉強しておいた方がいいとか、とにかく僕に関することは何でも事前に知らせてくれた。
だから、僕は密かに彼を「未来人」と呼んでいた。
未来人は、いつも突然現れた。
僕に何か不吉なことが起こりそうな時だけ姿を見せた。だから未来人と会えるのは、とてもネガティブだった。けれど、同時にそれはポジティブでもあった。未来人に出会ってからは、うんざりすることはなくなったと思う。
ある日、未来人は、僕の前から姿を消した。
先生に訊いたら、先週転校したと言っていた。親の仕事の都合で東京へ引っ越すそうだ。
きっと未来人には分かっていたはずだ。なんで教えてくれなかったのだろう。僕にとって、すごくネガティブなことなのに。
〈了〉
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