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映画を初めて観た、あの頃。

しりとり形式でお題を繋いでいく「しりとり散文集」をお届けします。前に書いた短編小説のタイトルが『ありがとうカフェ』だったので、今回は「え」から始まるタイトルでお届けします。
(「フェ」から始まるお題が思いつかなかった…)

 映画を初めて観た日のことは、いまでも覚えている。たしか僕が小学1年生のときだったと思う。昼間に、母と祖母と叔母の4人で「ゴジラシリーズ」を観に行った。いま振り返ってみると、それがどんな映画だったのか、ほとんど思い出せない。

 近所にあった小さな映画館だったので、スクリーンもそれほど大きくはなかった。けれど、テレビとは比べものにならないほど大きな画面を生まれて初めて見た僕は、本当にビックリした。

 僕は、ふかふかの椅子に腰をかけ、美味しいジュースやフライドポテトを食べながら、映画が始まるのを待っていた。

 映画が始まると、辺りは真っ暗闇になった。
それから、大きな音が聞こえてくる。そして、自分もその映画の世界の住人なのではないかと錯覚するほど没頭した。

 映画が終わって明るくなったとき、僕はその場でじっとしていた。立ち上がると、現実に戻ってしまうのではないかと思ったのだ。

 帰り道で、大人たち3人は映画とは無関係の世間話をしていたけれど、僕はずっと映画のことを考えていた。

 僕は、ずっと映画の余韻に浸っていたかった。


 最近、是枝監督の『怪物』という映画を観に行った。以前から坂元裕二脚本のドラマが好きで見ていたから、是枝監督とタッグを組んだこの作品は、公開前からずっと気になっていたのだ。

 是枝監督は、坂元さんの脚本に惚れ込んでいて、以前から好きな脚本家として名前を挙げていた。そして今回、ようやく夢のコラボが実現した。

 いつもは自分で脚本を書く監督だから、誰かに脚本を任せるのは、とても珍しいことらしい。

 舞台は大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した──。

映画パンフレット『怪物』p18より引用

 予告をYouTubeで見たとき、この映画は一人で観に行った方が良いのではないかと思った。これまで一人で映画を観に行ったことはないのに、なぜか直感的にそう思った。

 映画を観に行ったのは、嵐の日だった。
昼間は台風みたいな暴風が吹き荒れていた日だった。やがて風が止んで夜になったので、僕は映画館へと向かった。

 映画は、凄まじかった。
僕は、映画を見ていた二時間で全ての語彙力を失ってしまったかのようだった。まるで強烈なインパクトのある夢を見たときのように、映画が終わった後でさえ、色々な感情が脳裏を駆け巡っていた。それは、喜びとか悲しみとか怒りとか、そんな単純な感情ではなかった。

 僕は夜の街で自転車を漕ぎながら、ずっと映画のことを考えていた。

 結局、それから1週間後にふたたび『怪物』を観に行くことになった。映画を一人で観に行ったのも、同じ映画を2回観に行ったのも生まれて初めてだった。

 僕は映画の余韻に浸っていると、初めて映画を観た日のことを思い出して、このnoteを書いた。

創作大賞に応募しました!!

「note創作大賞2023」に二つの作品を応募しました。まだ見ていない人は、ぜひご覧ください。かなり時間をかけて作りました。あと、記事にスキ♡を押してくれると、嬉しいです。

紙芝居|ありがとうカフェ

短編小説『ありがとうカフェ』の朗読動画を投稿しました。朗読動画というのは、紙芝居のようなものです。「ありがとうカフェ」というのは、町にひっそりとたたずむ不思議なカフェです。そのカフェで最高に美味しいコーヒーを楽しんだ主人公の僕は、ある異変に気づきます。ぜひ、コーヒーを飲みながら作品をお楽しみください。

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