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夏の合間に

 どうしてこうなったのか、そんな自問をせざるを得ない。ホテルや旅館ではなく、コテージを借りることにしたのは友人達と気兼ねなくのんびりするため、だったのだが。
 目敏いことにいつ見つけてきたのか、同行の二人はウッドデッキの上にビニールプールを広げていた。帰りが遅かったのは、まさかこれを探していたのだろうか。
そして賑やかにはしゃいでいる弓奈と楓は昨日、散々泳いでいたはずなのだが、まだ水浴びでもしようというのか。確かさっきまで飲み物を買いに出かけていたはずだが、買ってきたはずの飲み物はどこに行ったのだろう。
「凛、ごめんだけど、少し手伝ってほしいな」
「……いいけども」
よほど間抜け面を晒していたのか、呆然と掃き出し窓のサッシに座ってそんな光景を見ていると、覚束ない様子で空気入れを扱っていた弓奈が、心配そうに振り向いて私に声を掛ける。
潮水に晒されたせいか毛先から少し色の抜けた髪と、珍しく屈託ない笑顔を見せる彼女に見惚れてしまっていたのか、反応が遅れてしまう。そーだそーだ、とはやしかける楓の声をあえて無視すると、立ち上がりながら質問を投げかける。
「水遊びでもするの? 昨日、散々したと思うけど」
「ううん、さすがにそうじゃないよ。さっき飲み物を買いに行ったら、金魚をもらっちゃって」
「え、金魚……?」
昨日のせいで疲れているのか、それとも普段見ない弓奈を前にして頭がうまく回らないのか。それにしても何故ビニールプールを広げているのかと首を傾げると、弓奈が続きを引き取ってくれる。
「ずっと袋に入れておくわけにもいかないし、せっかくだから金魚すくいをしよう、って」
そう言われると、今まで腑に落ちなかった事態が何となく判然とした。とりあえず、金魚の仮宿を用意する必要があるらしい。
「いいよ。それなら、急いだほうがいいかな」
「うん!」
弓奈の無邪気な表情に惹かれたのか、盛夏には珍しく涼やかな風に、風鈴が軽やかな音を立てた。

(終)

 本文は801字。WEB初出は2017年、多分同時期に書いてたものです。学内の企画かなんかだったような気もする。
 日常ほのぼのはいいものです。小説家になろうより転載。

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