見出し画像

#168 芥川賞候補を全部読んだから予想など♡

こんばんは!いよいよ明日19日は芥川賞(と直木賞)の発表ですね…!わたし日付を1日勘違いしていて、というか今日を火曜日だと思っていたので発表は明後日だと思っていたのですが、なんと明日でしたね。わー。

今回も芥川賞候補は全作拝読しました。
なんか今回、全部スキ・・・!大抵1~2作は「これは良いのだろうけど合わんかった…」というのがあるのですが今回はなんかぜんぶ好きでした!

ぜんぶ抱き締めたい…!♡

なので、候補作予想とかなんとかはもう完全に好みの問題になるのですが、他の人のこういうのを見るのが大好きなので、わたしも予想ごっこをします。気楽な気持ちで読んでいただけたら嬉しいです。

** ネタバレすると思います。わたしごときのネタバレで作品の面白さが損なわれることはない類の小説だと思ってはいますが、気になる方はご注意ください **

①安堂ホセ/ジャクソンひとり

文藝冬号、最高でしたね。文藝が出ると季節が廻った!て感じ。

これはね~~~最初読んだときの衝撃が凄かったですね。
昨年の文藝賞を受賞したデビュー作。なんか、昨年の文藝賞はまるで彗星かのごとくキラッと光るお二人でしたね。素晴らしい。

主人公はブラックミックスの青年、ジャクソン。日本人って肌の色が黒い人を十把一絡げで区別せず見ている、気がする。そこで、何人かの似たような外見的特徴を持つ人で集まって、今まで差別的なことをしてきた人とか、危害を加えてきた人に復讐をしていくお話なのですが、復讐の仕方というのがそれぞれが各々”入れ替わる”というような内容。
「ジャクソンひとり」から「ジャクソン四人」になる。こういうちょっとクスッとできるユーモアが良い。

語り口はとても軽快で読みやすく、物語も読ませる展開(元々の発端が、謎の人物が送ってきた服にプリントされていたQRコードを読み取ると、ブラックミックスの男の子のちょっとエグい感じのリベンジポルノ動画だった、というもの。)で、ユーモアもあり、その中で刺してくる言葉も光り、一文一文が作者である安堂さんが書きたかったことなんだな、一文にいろいろと詰まっているのだな、と非常に密度の濃い小説でした。
ラストシーンが割と唐突、かつあっけらかんとしていて解釈しきれていなかったのですが、豊崎さんの動画を視て、「面白いエンタメ小説と思いきや、そのままじゃ終わらせないぞ、引っ掛かりを残すぞという作者の意図を感じる」旨をお話しされていてなるほど、と思いました。

この物語はとにかく密度がギュウギュウなので印象的なシーンは多かったですが、ちょっと過激さ強引さをはらみつつ進んでいく中で時折みせるジャクソンの「ひとりの人間」みがとても好きでした。少しでも親切にされた経験がある人に、素直に憎悪を向けられないところとか。これってすごく人間ぽい。当たり前のことかもなんだけど。
非常に楽しく読了しました。まだかみ砕けていない部分もあるのでもっとしっかり読み込みたいな。

②佐藤厚志/荒地の家族

この新潮の表紙かわいい。

阿武隈川の近くに暮らす、植木屋の一人親方を営んでいる中年の男性が主人公。これは、いわゆる「3.11」を描いた小説で、震災そのものというよりそこから10年経った今を生きる男の生き様、という感じの小説でした。主人公の坂井祐治はなかなかしんどい人生を歩んできて、最初の妻との間に一人息子がいるのだけど妻をインフルエンザで亡くし、2番目の妻は流産してしまってその後関係が悪くなり逃げられるような形で離婚。いまは息子と母親と3人で住んでいます。この主人公には友人が2人いて、一人は役所勤めで仕事の世話をしてくれたりする河原木と、今は中古車販売店で働いている明夫。この明夫がまた不器用という言葉では片づけられないような生きづらさを抱える人物で、、、とても味を出しているのだけどしんどいなー…といった感じでした。

この小説を読んで、結構「しんどい」「つらい」みたいな感想を目にしたのですが、確かに物語自体は苦しくなるような展開ですが、わたしはいまいち入り込めなくて。入り込めないというのは悪い意味ではなくて、全然何も知らないわたしが、ただただ主人公を通して「知る」という感覚。力が入りすぎることもなく自然に引き込まれてしまい、一気読みでした。結論わたしはこの作品、とても好き。
植木屋という仕事もあってか、すごい植物の描写が青々として力強いんですよね。植物で時間の流れを表現している描写も綺麗だった。
わたしは3.11のときに遠くに住んでいたので知らないし、坂井の人生も知らないし、それを力強い、でもぶれない安定した一本の幹のような筆致でひたひた迫るように描かれた作品だと感じました。

最後のシーン展開、つまり明夫の選択には思わず「あぁ…」と思ってしまい胸がギュっとなりましたが、その後の主人公のあの描写でなぜかフッと力が抜け、力んでいたものを手放すような、へたりこむかのような読了感でした。すごい。

③鈴木涼美/グレイスレス

文學界11月号は敬愛する絲山秋子先生の創作も最高だった

前回に続いてのノミネート。前作「ギフテッド」も良かったですが、今作のほうがわたしは面白いと思って読みました。主人公はAV女優にメイクをする「化粧師」の女性、聖月(みづき)。この物語は劇的なことは起こらないのだけど、聖月の仕事の様子・家の様子が交互に描かれます。
本作はとても「聖」と「俗」の対比が描かれているような気がします。聖月は名前も「聖」が入りますが、西洋風の自宅に住んでいて(壁に十字架が取り付けられているような。母親が気に入らず外したので今は日焼け痕だけ。)、父母は外国暮らしのため祖母と二人暮らし。この生活、どなたかが「文化的に高い水準にある」みたいな表現をされていたのだけど(youtuberのつかつさんかな)、まさにその通りで、朝起きたら家中の窓を開け、祖母が家庭栽培している野菜やハーブで作った朝食をとる、どこか浮世離れした物語のような暮らしだと感じました。対して仕事は「AV撮影現場」という、これを「俗」とまとめてしまっても良いのかはわかりませんが、一般的にだれかの欲求のために消費されるコンテンツの制作ということで、非常に現実味のあり、また俗っぽい舞台だと感じました。

作者の鈴木涼美さんのご経歴もあってか、仕事現場の話は細部まで非常にリアリティがあり、きっとこうなんだろうなという姿がありありと浮かびます。対して自宅の描写は、こちらも筆遣いは非常に巧みなのですが、現場に比べるとどこか物語っぽさがあるなと、わざとかもしれませんが、感じました。
名前に「聖」のつく聖月は、文化的水準の高い暮らしをしていて、でも仕事は非常に現実感のあるものをしていて、しかし自分は鏡の前には座らない。あくまで自分は鏡の前の女の子に化粧を施す仕事のままで。境界が引いてあるようで曖昧で、その境界なんてすぐに混ざり合う儚いものなんだなというのが最後のほうの描写で感じられます。
この作品で、どのように心が動いたか、などを言語化するのはまだ難しいのですが、「聖」と「俗」が一見分かれているようで、いつでも混ざり得るものなのだと、「聖」だと思って一歩引いている中にも「俗」な感情はあり、客観的にみているようでも実は混ざり合っているのだと、うまく言えないのですがそういうことを感じました。最後の聖月の行動の意味、分かりそうでうまく言語化できないなー。受賞されたらもう一度考えてみようと思いました。

④グレゴリー・ケズナジャット/開墾地

唯一取り寄せた群像。ここのカフェで創作5本くらいイッキ読みしたの。

初めて拝読する作家さん!ケズナジャットさんはサウスカロライナの出で、今は日本で谷崎潤一郎の研究をしている方だそう。
本作品の主人公の青年・ラッセルもサウスカロライナの出身。彼は日本で学生をしているのだけど、博士課程も修了間近、進路を悩む直前に、故郷であるサウスカロライナの実家に一時帰省する、というお話。
帰省に伴い、時差ボケと一緒にラッセルは言語のことについて考える。ついつい、あれは日本語で何というんだっけ。とか、日本語で思い浮かべたものを、違う、英語では〇〇だった、などと思考します。
この物語は「言語」と「故郷」の関係、また「父と子」の関係について描かれたものだと感じました。
ラッセルの父は血がつながっていなく(ラッセルは元々母親の連れ子。その母親は出ていき、ラッセルと養父の二人暮らしだった。)、イランの出身でペルシア語が母語です。父はペルシア語の映画を流したり、音楽を聴く。
カリフォルニアには、いわゆるテヘラン街みたいなのがあるんですって。そこではイラン人たちが暮らして、みんなペルシア語を話し、同じ文化を共有しているらしい。でも父はそこには住みたがらない。「帰りたいとは思わない。」「俺の故郷は頭の中にある。それだけでいい。古いファンタジーを現実で作り上げようとするのは、バカだけだ。」このセリフ、痺れました。

「英語」を軸にして考えたとき、イラン人の父はスタンダードな言語である「英語」を頑張って覚え、ラッセルは英語ではない「日本語」を覚えた。父は帰りたいとは思わないという。だけど故郷のことをとても大事に思っている。ラッセルは、どうすれば良いか迷っている。特権言語である英語のことを「檻のよう」と例えて息苦しく感じる一方、日本語できたメールをなんとなく開けずためてしまっている。

わたしは、生まれたときからずっと母語=日本語だったので言語と言語の間で揺れ動く気持ちというのは、まずそんなことがあるのかとびっくりしたくらい新しい視点でした。「サピア・ウォーフの仮説」というものがあって、これは「どのような言語によってでも現実世界は正しく把握できるものだ」とする論に懐疑的な立場をとったものなのだけど(例えば、言語によって虹の色は7色だったり6色だったりする)、わたしはこの仮説を思い出しました。ラッセルが日本語と一緒に生きていくと、何か見え方は変わるのでしょうか。(変わると思っているから迷っているようにも見える)。でも、父親のようにただただ共存はできるのかもしれない。どこにいても、ただそこに「生きている」だけで、故郷にいなくても故郷を感じることはできるのかもしれない。

この作品は非常に短い作品で、ただただラッセルが悩むことが軸なのですが、わたしは非常に楽しく読みました。好きです。

⑤井戸川射子/この世の喜びよ

これ2023年の初読み小説でした♡黄色かわいい

一昨年の野間文芸新人賞をとられた井戸川さんの作品!本作はいち早く単行本化されていたのと、掲載誌の群像を持っていなかったので唯一単行本で購入しました。
主人公はショッピングセンターの喪服売り場で働く穂賀さんという女性。娘が2人いて一人は社会人、一人は大学生。穂賀さんはショッピングセンターのフードコートに毎日来ている少女に気づいて話しかける。少女は中学3年生で、母親が妊娠中のため家にいると小さい弟の世話をしなければならないため帰りたくなく、ギリギリまでフードコートで時間を潰しているという。

この物語の最大の特徴は「二人称小説」ということ。二人称って珍しい。穂賀のことを「あなたは」と描写するということで、最初は読みにくくてなかなか大変でした。人称をいじるのって絶対に何か意味があるはずで、正解はわたしはわからないのだけど、本の帯「思い出すことは世界に出会い直すこと」とあったのがずっとひっかかってはいて。確かに本作は穂賀さんが少女と話す中で色々なこと(自分の子育てや親との関係など)を思い出すのだけど、それにしてもこの帯でバーン!と書かれるようなことかしらと少し腑に落ちない(というか微細なひっかかり)があったのだけど、二人称ということは穂賀さんを「あなた」と呼ぶ人が別にいるということで、それをこの帯と一緒に考えたとき、わたしは穂賀さんを「あなた」と呼ぶのは未来の穂賀さんで、この物語は穂賀さんが穂賀さんを回想しながら綴られているのではないかと、だから「思い出すこと」が主題のように置かれているのではないかと解釈しました。ここの解釈、いろいろ分かれそうだから聞きたい。

あとこの物語は「母と娘」もテーマとなっていて。少女は、穂賀さんのことを「いろんなことを差し引いている」と(やや批判的に)言います。でも、差し引いているだけではない。穂賀さんが大人になるにつれ、色んなことを経験して経験して蓄積して蓄積した結果、いろんなことが分かったけれど、だから差し引いているのではなくて「積み上げた結果わかったこと」を少女に伝えようとしているのだけど、少女には「差し引いた」と映ってしまい、ここのかみ合わなさが非常に素敵だなと思いました。母と娘の関係って、微妙なかみ合わなさは必ず存在すると思っていて(身に覚えある~!)、わたしはここにグッときました。最後、タイトルに帰着するわけなのですが、穂賀さんが積み上げたことを、道中も余さず少女に伝えようとしていて、それを伝えることがこの世の喜び、と言っているのだとわたしは感じました。
いち解釈なので正しいかどうかわからないのですが、そのように解釈すると私には非常に響き、「母と娘」をテーマとした作品の中でもかなり好きだと感じました。

☆芥川賞受賞予想(の、ようなもの)

さて、今回も大変な長文にお付き合いいただき誠にありがとうございます。noteとかを簡潔にまとめて書ける人って本当にすごい。私はアウトプットすることは好きだけどまとめるのは得意ではないので、読みにくかったと思います。ありがとうございます。

さて、もう完全に「わたしの好み」で受賞予想をします。
受賞作は本命として「井戸川射子さん『この世の喜びよ』」を推します!!!!
まだまだ全然読み込みも解釈も浅いと思うのですが、穂賀さんという一人の女性が生きてきた軌跡、それは特別なものではなかったかもしれないけれど、その重みがじんと伝わってくる、また「母と娘」のかみ合わない関係でその重みを伝えようとする、それを「喜び」と感じることが素晴らしいと感じました。めちゃくちゃ好きな作品です。もっともっとこの作品と仲良くなりたい。

そして、同時受賞があるとすれば「佐藤厚志さん『荒地の家族』」を推します~~!!井戸川さんの作品とはタイプが違うものですが、こちらはどっしりとした文体に圧倒され、ただただ一人の男の生き様を見せつけられ、最後は骨を抜かれたような終わり方が印象的でした。こちらも大変好きな作品なので受賞してほしい、、、、!

で、個人的な好みを挙げると、大好きだったのは「グレゴリー・ケズナジャットさん『開墾地』」でした。なので、受賞予想は上記2作だと予想するのですが、大穴として『開墾地』を挙げます!ケズナジャットさんの文章、めちゃめちゃ波長が私に合って、短い作品ではあったけど読むの気持ちよかったな~。

以上です!でもほんとほんと、どれがとってもおかしくないですよね。どれがとっても嬉しいし、ぜんぶ好きだからどれも受賞してほしい!(無理)

発表がめちゃめちゃ楽しみです♡
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?