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甘く浮く醸造への道①

第1回 「何故ビール造りを志したのか」

あなたはどんな人間ですか?
僕はどちらかといえば自分に無いものに目が行きがちで、時に自分に無いものの数を数えるタイプの人間でありましたので

『今、自分の手のひらにあるもので最大限に夢を叶えたい』

そんな見出しで綴られていたとあるWEBマガジンの石見麦酒さんの記事には目を奪われました。濃度の高い慰めを摂取したら人は意外にも行動的になるらしく、島根にビール醸造を学びに行きたいと妻に告げるまでに大した時間はかかりませんでした。


島根県は江津市にある石見麦酒さんの特徴は、地元の農作物をビール作りに使っていること、醸造方法を広くオープンにしていること、そして、面積9坪の(小さな醸造所)でクラフトビール作りを実現しているところなど挙げたらキリがないのですが、なんと言っても一番の特徴は『石見式醸造』と言われるアイディアに富んだユニークな醸造方でしょう。
従来の発酵タンクではなく、家庭用の冷凍ストッカーのサーモスタットを改造し、その中に特注のビニール袋を当てがって麦汁を発酵させるため、一般的な小規模醸造所開設費1,000万円に対して、石見式醸造は200万円で済むそうです。

自分にも出来るかもしれない。
タチの悪い勘違いは、その後自身の生き甲斐を通り越して使命になるのでした。


ところでそもそも何故ビールが作りたいのか?

実を言うと最初に作りたかったのはワインでした。勿論、僕達が大好きな、ナチュラルワイン。
飲食の経験なんてほとんどないのに、好きが高じてワインバーを始めてしまうくらいの自分ですから、年月が経つにつれて募る造り手になりたいという願望は言わば必然でした。

しかし、調べれば調べるほどそのハードルは上がるばかりでした。


例えば
●ワイン造りは農業そのものなので、参入コストがとてつもなくかかる(黒磯でお家が2つ建つお金が最低必要)


●近年多発している異常気象により、ぶどうの収穫がままならない地域が沢山あるので不安が絶えない(温暖化を見据えてブルゴーニュでシラーを植えた生産者がいるそうです)


●湿気大国の関東ではぶどうの病気のリスクが高まるため、無農薬栽培にそもそも向かない

などなど、自分に無いもの、解決出来そうにないものと目が合い、数える日々が続きました。
そんな中唯一得た事は、自分は生まれ育ったこの那須という土地でナチュラルワインが造りたいという事で、言い換えればナチュラルワインを造るために適した他の場所に移住する考えなどは全くなく、この那須でワインを造らなければ意味がないという事でした。この郷土愛は自分でもびっくりする発見でした。

時を同じくして、ビール好きの奥さんと結婚した事で世界の様々なビールを飲むようにもなりました。中でもベルギーのブリュッセルで作られているランビックというビールとの出会いは特別でした。
空気中に浮遊している野生の酵母や様々な菌の営みで醸し出されたその酸っぱいビールは、ナチュラルワインに通ずる旨みや香り、飲み心地がありました。

ベルギーは国土が狭いため、広大な土地を必要とするぶどう畑が少なく、それ故に多彩なビール文化が育まれたそうです。

そんな中見つけた石見麦酒さんの記事。

『今、自分の手のひらにあるもので最大限に夢を叶えたい』

そうだ。
ぶどうがなくてもこの地には麦も米もある。りんごや梨や様々なベリーもある。
他の野菜だって使えるかもしれない。

この土地の農作物と菌で、この土地の四季や風土を表現するようなビールを作ろう。
地域を丸々醸してビールを作ろう。

僕はこの時生まれて初めて決意が固まる時の音を耳にしました。胸のあたりから聞こえてきました。

そんなこんなで2018年9月、島根県の石見麦酒さんへ醸造研修へ出向くのでした✈️
(つづく)

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