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#38 生徒指導と心理的安全性
38回目となりました、天治郎です。今回のテーマは、「生徒指導と心理的安全性」です。
(1)はじめに
相互フォロワーさんが、
「教室では秩序を維持するために叱ったり、誰かを傷つける発言や行いがあった時に指導したり、ちょっと頑張らせたりする場面があるかと思います。それを続けていけばいくほど、心理的安全性は下がっていく場合もあると思うのですが、心理的安全性の高いクラスをつくっている先生は、上記のようなときの対応がうまいのだろうと思います。心理的安全性×生徒指導のような本があったら、ぜひとも読んでみたいものだ。」
というポストをされていました。(ポストの引用は承諾済み)
そこで、今回は「生徒指導と心理的安全性」について考えてみたいと思います。今回の結論は、
発達支持的生徒指導を基本としつつも、「人の心や体を傷つける言動は許されない」と考え指導することは、少なからずある。ただし、指導の在り方には一考する必要がある。
というものです。
(1)発達支持的生徒指導
2022年8月に、生徒指導提要が改訂されました。「生徒指導提要」とは、小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等について、時代の変化に即して網羅的にまとめ、生徒指導の実践に際し教職員間や学校間で共通理解を図り、組織的・体系的な取組を進めることができるよう、生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書として作成したものです。(文部科学省より)
文部科学省(2022)は、生徒指導について、
生徒指導とは、児童生徒が、社会の中で自分らしく生きることができる存在へと、自発的・主体的に成長や発達する過程を支える教育活動のことである。なお、生徒指導上の課題に対応するために、必要に応じて指導や援助を行う。
と示しています。さらに、生徒指導の目的として、
生徒指導は、児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支えると同時に、自己の幸福追求と社会に受け入れられる自己実現を支えることを目的とする。
と示しています。
ご存じの方も多いかと思いますが、今回の生徒指導提要改訂版で、度々出てくる図が「生徒指導の重層的支援構造」です。2軸3類4層構造となっています。
![](https://assets.st-note.com/img/1709970413834-m7GFjaHuwK.png?width=800)
ざっくり言えば、「広く全体に⇒せまく局所的に」と「予防×治療」といったところでしょうか?昔は、「積極的生徒指導」と「消極的生徒指導」と言われていたものが、さらに細分化されました。ただよく読んでみると、日々取り組んでいることではあります。
今回の改訂で大切にされていることが、「発達支持的生徒指導」です。文部科学省(2022)は、発達支持的生徒指導について、
発達支持的生徒指導は、特定の課題を意識することなく、全ての児童生徒を対象に、学校の教育目標の実現に向けて、教育課程内外の全ての教育活動において進められる生徒指導の基盤となるものです。
と、示しています。さらに、
発達支持的というのは、児童生徒に向き合う際の基本的な立ち位置を示しています。すなわち、あくまでも児童生徒が自発的・主体的に自らを発達させ ていくことが尊重され、その発達の過程を学校や教職員がいかに支えていくかという視点に立っています。すなわち、教職員は、児童生徒の「個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支える」ように働きかけます。
とも示しています。そして、発達支持的生徒指導で大切なこととして、
日々の教職員の児童生徒への挨拶、声かけ、励まし、賞賛、 対話、及び、授業や行事等を通した個と集団への働きかけ
を挙げています。
生徒指導の基本は、すべての子供の発達を支える基本といえます。
(2)心理的安全性
近年、学校教育の中でも「心理的安全性」が謳われるようになりました。御存知の方も多いことでしょう。
心理的安全性は、ハーバード大学の組織行動学者であるエイミー・エドモンドソン教授がチームに応用し、
対人関係のリスクをとっても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念のこと
と定義しています。さらに、Google社が「プロジェクト・アリストテレス」の中で再発見し、チームにとって「圧倒的に重要」と結論付け、注目を集めたとされています。
原田(2022)は、心理的安全性が高いチームとは、
仲が「悪すぎる」でも「良すぎる」でもなく、目指すゴールや成果のために「健全的な意見の衝突(ヘルシーコンフリクト)」が起こせるチームです。
と述べています。学級に置き換えても、理想的でしょう。「仲がよければいい」というものではないわけです。
一方、心理的安全性をおびやかす4つの恐れとして挙げられていることが、
①無知だと思われる恐れ
②無能だと思われる恐れ
③邪魔者だと思われる恐れ
④批判的だと思われる恐れ
です。学校現場でも、こういう恐れを抱いている子どもや教職員もいることでしょう。こういった恐れを抱いていると、そもそも自分の力を十分に発揮したり、よりよい学級を創っていく気持ちをもったりすることは難しいです。
他方、株式会社ZENTechは、日本の組織文化・働き方・職場環境に合わせた「日本版・心理的安全性」づくりに取り組まれてきました。その中で、心理的安全性を高めるために重要な因子(要素)を見出しました。その4つの因子が、
①話しやすさ
②助け合い
③挑戦
④新奇歓迎
です。学校現場の視点で見てみれば、昔から学校教育で大切にされてきたことばかりです。
私自身、様々な個性をもった子どもたちへの関わりについて日々悩んでいます。しかしながら、これからの未来を切り拓く子どもたちのために、誠心誠意努力したいという想いも強いです。だからこそ、どのようなマインドで、どのような手立てで子どもたちに働きかければよいのか、日々考えるわけです。そのキーワードが、「心理的安全性」です。
(3)生徒指導と心理的安全性
(1)で取り上げた生徒指導提要では、「生徒指導の実践上の視点」として、以下の4つの視点を示しています。
①自己存在感の感受
②共感的な人間関係の育成
③自己決定の場の提供
④安心・安全な風土の醸成(pp.14-15)
(2)で見たきた通り、特に②と④と心理的安全性の関係は密接ではないでしょうか?
ここで、相互フォロワーさんの問いにもどります。
チームに心理的安全性をつくる際には、まず「リーダー」の存在が大きいです。学級で言えば、初期段階ではほぼ必ず教師がリーダーとなるでしょう。
エイミー・C・エドモンソン(2021)は、心理的安全性をつくるリーダーについて、
心理的安全性は、相互に関連する3つの行動によって生み出される。その行動とは、土台をつくる、参加を求める、生産的に対応する、の3つである。
と、述べています。また、
心理的安全性を生み出し強固にすることは、組織のあらゆるレベルのリーダーの責務である。
とも述べています。
これらの考えをもとに、リーダーのツールキットを提案しています。(画像参照)
![](https://assets.st-note.com/img/1709971707634-I57Z3XezSF.png?width=800)
例えば、「土台をつくる」では仕事のフレーミングを、「参加を求める」ではシステムと仕組みを、「生産的に対応する」では感謝を表すことを示しています。
ここで、「3 生産的に対応する」の「明確な違反について処罰する」に着目してみます。
処罰するという言葉は、小学校教育の文脈では重いと思います。これを「指導」に置き換えて考えます。
先述した通り、生徒指導の基本は、「発達支持的生徒指導」です。しかしながら、生徒指導の課題性に鑑みれば、「課題予防的生徒指導」はもちろん、「困難課題対応的生徒指導」を行う場面もあります。
いじめを例に挙げます。
ぽかぽか言葉(話しやすさや助け合いの因子を軸とした心理的安全性を高める言葉)やわくわく言葉(挑戦や新奇歓迎の因子を軸とした心理的安全性を高める言葉)等、人を傷つけない言語表現を学んだり、デジタル・シティズンシップ教育を推進したりするといった発達支持的生徒指導(常態的)は、いじめ防止効果をもつことが期待されるでしょう。
さらに、いじめが起きないように積極的にいじめに関する課題未然防止教育(先行的)を、児童会と連携して学校規模で展開することも大切です。例えば、筆者が勤務している自治体で行われている策の一つである、「いじめ防止スローガンの作成」がそれにあたります。
一方で、課題早期発見対応として課題予防的生徒指導(即応的)を行うことも欠かせません。深刻ないじめ問題に発展しないように、初期の段階で諸課題を発見し、対応するわけです。例えば、いじめアンケートのような質問しに基づくスクリーニングテストや普段の教師による観察・把握などによって、気になる児童を早期に見いだして、指導・援助につなげていきます。
ここで、気を付けたいことは、「指導の在り方」です。私自身、「自分や他者の心や体を傷つける言動は絶対に許さない」という強い思いをもって、子供たちと関わっています。もちろん子供たちにも周知しています。
しかしながら、こういったことが起こった場合、怒鳴るなどの強すぎる指導が必要かといえば、私は基本的にはそうではないと考えます。怒鳴るなどの強い指導は避け、生徒の健全な発達と安全を考慮したアプローチを取ることが重要です。冷静な対応をとらなければ、子供との信頼関係を損ない、学級の心理的安全性が低下することも考えられるからです。
工藤勇一氏と青砥瑞人氏の「最新の脳研究でわかった!自律する子の育て方(SB新書)」によれば、
人は誰かからきつく怒鳴られたり叱られたりすると、言われたことはほとんど覚えてない一方で、怒られた事実とそのとき感じたショック、恐怖心、怒り、不安感、恥ずかしさといった情報は強烈に記憶されます。これは一種の人間の防衛反応であり、自分にとって有害な人物、危険な人物、敵対する人物は鮮明な記憶として残りやすいのです。
大人が叱る手段をとってしまうと、子どもの頭はパニック状態になり、「この状態から早く逃れたい」という思考しかできません。これではまた同じことを繰り返すだけでしょう。そうではなく、できる限り子どもを心理的危険状態に追い込まず、思考の余地を残してあげることが重要です。
学校や家庭を子どもが安心できる場所に変えていくときにまず大人が意識したいことは、「大人たるもの毅然とした態度で叱るべきだ」という思いこみを捨てることです。叱ることは子どもの意識の矛先や考え方を変えていくうえでのひとつの手段にすぎないのに、叱ることが目的化している大人は少なくありません。
とあります。脳神経科学の視点からも、怒鳴るなどの強すぎる指導は効果的ではありません。
だから私は、前述した本を参考に、
①「どうしたの?」(「何か困ったことはあるの?」)
②「君はどうしたいの?」(「これからどうしようと考えているの?」)
③「何を支援してほしいの?」(「先生に何か支援できることはある?」)
の「3つの言葉」を意識して指導にあたります。
さらに、指導後のフォローが大切です。私は、以下のようなフォローを心がけています。
①定期的な対話
②行動のモニタリング
③望ましい変容への称賛
④家庭との連携
生徒指導の目的に基づき、児童が自己改善を続けられるよう援助するわけです。
もちろん例外的な事例はあるかもしれませんが、みなさんはどうですか?
(4)最後に
最後までお読みいただき、ありがとうございました。結論は、
発達支持的生徒指導を基本としつつも、「人の心や体を傷つける言動は許されない」と考え指導することは、少なからずある。ただし、指導の在り方には一考する必要がある。
です。ご意見等いただけると大変ありがたいです。
(5)noteのおまけ
(1)で取り上げた「生徒指導提要改訂版」ですが、わたしは特に第4章「いじめ」について1番読みました。その内容を下手ではありますが、4枚にまとめてみました。
![](https://assets.st-note.com/img/1709970159187-RVNkQcAsY7.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1709970159111-ejsOGZNsOy.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1709970159217-MyiwOtOtI7.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1709970159247-kgfPH2sUsT.jpg?width=800)
参考になっていれば幸いです。
【引用・参考文献】
石井(2020).心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える.日本能率協会マネジメントセンター.
エイミー.C.エドモンソン.野津智子(翻訳).(2014).チームが機能するとはどういうことか.英治出版.
エイミー・C・エドモンソン.野津智子(訳).(2021).恐れのない組織-「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす.英治出版.
工藤勇一・青砥瑞人(2021).最新の脳研究でわかった!自律する子の育て方.SB新書.
原田将嗣(2022).最高のチームはみんな使っている 心理的安全性をつくる言葉55.飛鳥新社.
文部科学省(2022).生徒指導提要(改訂版).
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