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【読書記録】2024年5月


小説

『星へ落ちる』金原ひとみ

登場人物の数だけその恋愛の真実があり、当人たちにしかわからないこと、また当人たちにだけわからないことがある。遠くからみるとどれも等しく光って見える「星」のなかで自ら光っているものはない上、近づいてみてみると岩肌がごつごつとしていたり、ツルツルとしていたりと個体差がある。異性やその人との関係を俯瞰することの不可能性について思いを馳せた。

ビジネス

『プロジェクトのトラブル解決大全』木部智之

システム開発に閉じず普遍的なプロジェクトのトラブルに対応できるよう書かれていた。システム開発のPM等業務の具体的なTipsを求めて読むと少し物足りないかもしれない。一方、プロジェクトマネジメントを初めて学ぶ際には、解像度を高めるのに役立ちそう。

『構造化思考トレーニング』中島将貴

イシューツリーから取り出された論点に対し、仮説を立てるメリットが①アウトプット&作業イメージが具体化できる、②論点構造の抜け漏れを検討できる、と整理されていたのが面白かった。コンサルティング業界外の新社会人向けっぽい内容で具体的且つ平易に書かれていたので、ジョブ対策とかに良いのかもしれない。

文学フリマで買った本

『昂る季節の若造どもよ』泉谷くみ

同じブースで出展した友人の本。あまりにも身内すぎて改めて感想を書くのがなんか気恥ずかしいまである。新作のえっちな掌編(短編?)小説が2本収録されて500円なので、シンプルにお得感がある。タイトルが「ピンク」と「ブルー」なのがおしゃれだった。意味は感覚的にしかわからなかったけど、感覚的にわかる、って感覚が大切だと思うので良し。「女は肉の塊 私で思い知って欲しい」っていう、大森靖子の『アルティメットらぶ全部』の歌詞の意味がちょっとわかったような。くみちゃんの書く小説は人間の矮小さを露呈させた上で全肯定していて、とても優しい。私とはまったく違う世界が見えているんだと思う。そこに惹かれるのだろうか……。

『API入門 鉄道移動の費用対効果検証を例に』仏印フラスコ

この方は以前の文フリでもお会いしてて、確か次に観る映画のリストを作成するコードをPythonで書いた技術本を出してた。テクノロジーも文学も大好きなので、こういうニッチな本が買えるのが即売会の魅力だと思っている。いつもブースに伺うとき本人にお会いできないのと、メールアドレスをいただいたにも関わらず1年以上連絡していないことを申し訳なく思っている。

『9cue vol.0』

「私が人間としているというよりは身体としてあるといいんじゃないかなって思って、そう表現しました」というダンサーの方(池上楓子さん)のインタビューでの発言が良かった。あと、後半のインタビューでの脱ぐことと着ることについての話も面白かった。ダンサーの方が4人で集まって作った、花と人がテーマの写真集。芸術の畑の人の中にはときどき(論証を学んだのではなく、恐らく経験的に体得した結果として)アナロジーやアブダクションに長けた人がいて、そういう人たちが集まると「文学」が生まれる。私は新しい情報、あるいはその言語体系内に加える付加価値が「文学」だと思うので、これは紛れもなく「文学」だ、と思った。

『百合俳句アンソロジー ひめごと vol.2』

「白鷺やふたりの元号をきめる」
この俳句が好きだった。中高生の頃、仲良しグループに後から思い返すとちょっと恥ずかしい名前を付けたことが誰しもあるのではないか。懐かしさと共感性羞恥で心が忙しなくなる。そんなモヤモヤをあざ笑うように風が強く吹いて、コンビニで2円で買ったビニール袋がアスファルトをコロコロと転がっていく。必死で追いかける内に、さっき買ったばかりのはずのアイスが夏の強い日差しに照らされて溶けだしていく……。そういう制服の夏休みの情景が想起された。

『性愛短歌アンソロジー Utopia for U』

最近、真実と身体性について考えているので、というのは後付けで、表紙がかわいいので買ってしまった……。表紙、大切……。13名が寄稿する形式の短歌アンソロジーで、読みごたえがあった。仲間内で本を作っているというより、様々なバックグラウンドの方が集まって作っているようだった。リズム感が異なる短歌が多くて楽しかった。

『ロリィタ・オーバーレイ』新宿ちゃん

ブースの前を通り過ぎようとしたら、やけに波動の悪い、悪いものを寄せ付けやすいオーラの方がいて、何言か会話し、うっかり買ってしまった。たぶん8~10年くらい前のTwitterアカウントでFFだった方だと思う……。こういう人間のレシピみたいな文章が好き。彼女はどうしてこんなに割り切りが出来て行動力があるのか。不幸話をやたら相対化して、他人事みたいに書くので悲壮感がなく、不思議と読みやすい。読みやすいどころか、声を出して笑ってしまうほど面白い箇所すらある。すごい……。また何か書いて欲しい。


今月の読書記録は以上です。
来月はもっといろいろ読める予感。

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