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会いたくない奴と会った、夏の夜


* 当記事は、グロテスクな表現を多分に含みます。
苦手な方は当記事をご覧にならない方がいいと思われます。
それでも構わないという方だけ、続きをご覧ください。

 


 

夜、ネットを見つつトイレに行こうと思い、廊下の手前のドアを開けた瞬間、暗闇の中に動く影が見えた。

 

Gだ。

 

敢えて名称は伏せる。そう、Gだ。去年の夏以来。前に遭遇した時もこんな茹だるような暑さの夜だったような気がする。

 

俺は無益な殺生などしたくない。小さな蜘蛛などは見つけてもそのままやり過ごす。だが、奴は違う。俺とGは対等だと思ってる。ヤらなきゃ、この家は奴に支配されてしまう。

 

逃げられて見えなくなってしまったら、安心して用を足すことも出来なくなる。地獄だ。廊下、風呂、トイレの照明全てを着けて、奴の動きを追う。奴は咄嗟に、トイレに逃げこんだ。

俺はスリッパを片手に持ち、玄関に向かう。そこにG用のエアゾールスプレー缶があるからだ。俺は普段の生活では滅多に見せないような俊敏な動きでスプレー缶を手に取り、すぐさまトイレへと戻った。

 

トイレの床を這う奴に向かい、スプレーを噴射。思いの外長い時間、噴射し続けた。奴は取り乱したり羽ばたこうとする事もなく、壁を登ろうとして、落ちた。

トイレットペーパーを手に取ろうと目線を外した俺。その一瞬で、奴は俺の視界から消えた。パニックだ。奴もパニックだろうが、俺もパニックだ。

 

奴からしたら、何も悪い事はしていない。ただ普段通り生きていただけ。たまたま俺の視界に入ってしまったため、狩りの対象になってしまった。

だが、先ほど書いた通り、奴と俺は対等。むしろ奴が何匹も束で襲ってきたら俺に勝ち目はない。屈してしまえば、俺がGの住処に間借りしてる状況となる。だから、俺は奴を始末しないといけないのだ。

 

焦る。奴の潜んでいそうな隙間を覗く。俺は虫が嫌いだ。見たくないし触りたくもない。出来れば関わりたくない。突然動き出す連中が本当に怖いのだ。情けない。

大の大人がG如きになんて情けないことを言ってるのか。そう思われるだろう。でも、生理的に受け付けないものはどうしようもない。

そうこうするうちに、奴は何年も放置されたままの除湿剤の裏から力無く這い出てきた。俺は渾身の力でスリッパを振り下ろす。スリッパは床との間で、乾いた破裂音を立てた。

 

 

吹き出す汗が止まらない。拭う事も忘れていた。あとは、動かなくなった奴をどうするか。先ほども書いた通り、俺は虫を触るのも見るのも嫌だ。だから自ら赴いての駆除は最終手段。基本はGホイ任せだ。

 

・・・Gホイ? そういえばしばらく見ていない。慌てて玄関のGホイを確認。この中身を見る事すら嫌だ。それでも、この家に人間は俺しかいない。俺がやらなきゃ他にこの家を守る人間はいないのだ。

すると案の定、Gホイの中にも動かなくなった奴の仲間がいた。絶望的な気分になる。まだ夏の盛り。おそらくこれから、奴らの存在に怯える日々がしばらく続く事になるだろう。

 

先ほど始末したGをトイレットペーパーで摘み、捕獲済みのGホイと共にゴミ袋に入れ、硬く封をした。こんな夜中に集積所に行く訳にいかない。そして
おそらく深夜のゴミ集積所では別のGと対面する事になるだろう。もうたくさんだ。

廊下と風呂の灯りを着けたまま、トイレの戸も開けたまま用を済ます。戸を閉めた状態で奴の仲間に「敵討ちだ!」と襲われたら生きて帰れる自信がなかったから。

 

今俺は部屋に戻り、汗が引くのを待っている。心を落ち着かせるために、さっきあった事を全て克明に書き記そう。そう思い今PCの前に座り、テキストエディタを開いているところだ。

 

明日からどうしよう。対策の取り方が全然分からん。ネットで見たら「穴空いてそうなとこ全部に目張りしろ」って書いてあったけど、平日だと買い物行けんし。amazonはなぜかログイン出来んし。学校ないし家庭もないし、ヒマじゃないしカーテンもないし。

結局対処療法しか出来ないんだよな。どっから入ってきてるか見当もつかないから。困ったもんだ。冬になるまで戦い続ける事になるだろうか。

 

 

消えないもやが掛かったような、陰鬱な気分。
汗はしばらく、引きそうにない。

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