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『ヒーロー成長物語』の代償

このnoteは、前半『未満警察を見たオタクの感想』、後半『脚本に関する感想と意見』という形で構成されている。

どちらかというと、後半を読んで欲しい。

後半は、同クールに放送されたMIU404との比較なども交えながら、未満警察に感じた違和感をいくつか項目を挙げて書いている。

オタクじゃない方は、前半飛ばして後半からどうぞ!

〈目次〉【前半】未満警察を見たオタクの感想 
    【後半】脚本に対する感想と意見
     ①のぞき
                 ②ジロとカイの半裸シーン
                 ③ 家出少女の行方
                 ④野原のその後
                 ⑤妊婦の売人
                 ⑥スコップ男事件のあれこれ
                 ⑦謝って済むのか
                 ⑧暴力シーン
                 ⑨突然投入されるラブストーリー要素
【未満警察の感想】
【最後に】

【前半】

世界一大好き推しの髙橋海人くんが所属する、King & Princeのメンバー平野紫耀くんがダブル主演を務めるということで、第1話から最終話まで駆け抜けた『未満警察 ミッドナイトランナー』。

SexyZoneの中島健人くんと、我らがエース平野紫耀くんのバディは、ただ並んで立っているだけで眼福。

そんな2人が、笑って泣いて、街中駆け巡って大切な人たちを守ろうと必死になる姿。毎週、様々な困難にぶつかりながら成長し、どんどんたくましくなる表情に、「やばい、うちのエースもう無敵じゃん…!!」と1人で頭を抱えた。

紫耀くんは『花のち晴れ』の時と随分と演技が違ったなと思った。ジロちゃんは、大切な人への想いと事実への葛藤を表すシーンが何度かあった。(第5話 幼なじみの凛々花が覚醒剤の売人と知り、警察学校の生徒という自分の立場と凛々花を思う気持ちの間で揺れる。最終話 片野坂教官とカイくんの2人の間でどちらに着くかの決断を迫られるなど。)

私はグループで活動している時のふわっとした、でも王の品格漂う紫耀くんを多く見てきた。だから、上記したシーンで紫耀くんの新しい表情が見られたことに「紫耀くん、こんな顔するんだ…」と、初めて垣間見る俳優:平野紫耀の葛藤の表情にどきどきした。

ジロちゃんの明るくて天真爛漫な性格とは裏腹に、厳しい試練が降りかかりまくる話だったので、ジロちゃん励ましに行きたい🥺などと思った。(虚妄)

以上、雑めなオタクの未満警察の感想おわり。



【後半】

ここからが本題。

本当に、書きたい事が沢山ある。物語の随所に、違和感を抱いていたから。まずは1つずつ違和感を感じた項目を書き出していこうと思う。

①のぞき

まず、世間でも少し話題になっていた第1話の『人妻のぞき』。私は絶対に許してはいけない脚本だと思っている。

『ドラマだから』といって片付けられる範囲を、あの脚本は超えている。あれはれっきとした犯罪行為で許されるべきではない。

『のぞき』は遊び半分で描いて良いものではない、人のプライバシーを侵害し、心身ともに追い込まれるとても危険な行為だ。

今回のドラマの脚本は、のぞきを軽く扱いすぎている。今回、主人公2人が何の処罰もされず警察官を目指す設定は、本当にありえない。

SNSではBPOへ意見を送ったというものも目にしたが、私はこれは正しい判断だと思う。

現実世界でも許されない犯罪行為は、例えドラマの仮想世界でも許されることではない。SNSが広がる現代でも、テレビ放送の影響力は未だ根強いものがある。そこをしっかりと考え、犯罪は犯罪だときちんと示さねばならないと思う。

②ジロとカイの半裸シーン

こちらも第1話、ジロとカイがトラックに乗せられているシーン。CM明け、脈絡もなく2人がパンツのみを着用した姿で登場した。

このシーンで、2人を半裸の状態にする意味があったのか?

テレビ側は視聴率を狙って、人気アイドル2人を脱がせたのかもしれない。だが、私はこのようなやり方には反対だ。

芸能人、一般人関係なく誰しも自分の身体をどうするか、その権利は本人にあると考えている。ただ、芸能界という特殊な世界では、物語を表現するため服を脱ぐという選択を迫られることがあるというのは事実としてある。ここら辺について詳しく書くとnote 1つ分になるので割愛するが、今回の2人の半裸姿はあまりにもぞんざいな扱いだと感じた。

話の流れ的にも必要性を感じられない、ただただ2人を脱がせたいがためのシーンに、嫌気が差した。

なにより物語を紡ぐ俳優へのリスペクトが、微塵も感じられなかった。

③家出少女の行方

第2,3話では家出少女が人身売買に巻き込まれ、ジロとカイが助け出す話だった。

私が疑問を感じたのは、ジロとカイが亜未の行方を探すため亜未の家を訪れたシーンだ。ジロとカイはそこで、亜未と共に暮らしていた2人の家出少女と出会う。ジロとカイは家出少女の話を聞き、家出少女達に同居している男から逃れるため、取り敢えず亜未が用意していた家に逃げるよう指示して立ち去る。

亜未を助けるため時間との戦いと言うけれど、目の前の保護が必要な人達をそのままに平然と立ち去る決断をする2人に、疑問を抱いた。

明らかに未成年の被保護者、いつ同居男性が帰ってくるかわからず危険な状況。この時点で家出少女を社会福祉の窓口に繋げることだってできたろうし、そこまで難しくても身の安全が保証されていないのなら1番身近な『警察』に保護してもらうという考えもある。

頭脳明晰なカイと、あんなに人情味溢れるジロというキャラクターを描いておきながら、キャラクター設定と行動の乖離が激しいな、と思った。

④野原のその後

第4話、同級生の野原が『死にたい』とSNSに呟き、その呟きが発端となって連続殺人事件に巻き込まれる。第4話ラストでは、野原は救出され警察学校を去り、カウンセラーを目指す。

現実社会で問題視されている鬱や若年層の自殺問題について取り入れられた脚本なのかと思っていたら、着地点があまりにも雑だと感じた。

問題を起こした野原は警察学校を去るが、その前に彼女を追い詰めた原因に対して、何のアプローチもなく終わっている。誰も今回の事件の発端となった彼女の死にたい原因に対して、なんの対処もしない。これでは野原はただ精神的に追い詰められ、警察学校をドロップアウトしただけで、何も解決していない。

また、野原はカウンセラーを目指す事になっているが、彼女に必要なのは”新たな目標・夢”ではない。明らかに何らかの『ケア』だ。死にたいと思うまで追い詰められた彼女自身の問題を無視して、次に進むという設定に違和感を感じた。

結局、第4話はカイを野原を救ったヒーローとして描くための物語で、そのほかのキャラクターが無下に扱われた印象を受けた。

⑤妊婦の売人

第5話、ジロの兄の元婚約者が兄の子を妊娠しながら、覚醒剤の売人をしており、ジロとカイが潜入操作を任される話。

元婚約者の女性が兄の子を妊娠しており、子供を産み育てるための資金を作るため覚醒剤の売人をしている。その事実を知りジロは葛藤するが、彼女を守ることに決め、密売を手伝うという判断をした。

③でキャラクター設定と行動の乖離を指摘したが、ここでもそれを感じた。彼女に必要なのは、危険な闇組織から手を引くきっかけ、母子ともに安全に生活できる資金と環境だ。なのにジロは、密売を助けるという真逆の方向に舵を取った。あれほどに人を思うジロが、なぜ大切な人を危険な目に合わせる決断をしたのか、甚だ疑問だ。

ここで社会福祉に繋ぎ、警察に保護を求め…という先ほども書いた流れに持っていった方が確実に彼女の助けになる。子供の命を救える。兄の死を経験し、助けが必要な人を決して見捨てない人一倍命に敏感なジロにこんな決断をさせたのは、もはや脚本家がジロのヒーロー物語を成立させる為の無理やり感が半端なかった。また、兄の死をきっかけに警察官を目指すジロのアイデンティティに関わる部分に触れるのかと思ったが全くそんな事もなく終わった。

ジロにここまでの決断をさせるなら、きちんとした裏付けのストーリーがあってもいいのではないかと思った。

⑥スコップ男事件のあれこれ

スコップ男事件では、警察の腐敗した内部構造が明らかになった訳だが、2人はそれでも警察官を目指す…。なぜ?こんなに酷いもの見せられても、警察官を目指す理由、ここが薄くないか?そこまでしてなりたいという強い信念の裏づけは何?

カイは就職先でうまくいかずかつての憧れを持って、ジロは兄の意志を継ぎ、警察官になろうとしている。それだけの思いで、今まで見たあれこれを経ても警察官になりたい理由が分からなかった。

そして、第1話の法を犯したのぞきから数々の不祥事を起こしたにも関わらず、あの2人が警察学校に残れる事が不思議だ。警察ってそういうところなのか?あまりにも警察内部の描き方が酷い。

⑦謝って済むのか

物語の終盤にかけて、ジロ、片野坂教官、柳田警部補が謝るシーンが所々であった。

間違ったことをしたら謝る、それはもちろん大事だが、謝るだけでことを治めようとするストーリー展開が飲み込めなかった。

謝ってその場収めて次に行く、何とも現実味のないやり方だ。殴られてボロボロになるまで戦ったり、父親を死刑囚にされたり、人生狂わされているのに、「すまなかった」の一言くらいで簡単に次に進めない。

それに正直言って、謝って済むなら貴方たちが目指す警察はいらない。

⑧暴力シーン

初回から必要以上に暴力シーンが多いと感じた。ジロとカイは毎回傷だらけ。その中でも特になぜ?と思ったのは、スコップ男事件の捜査の終盤、証拠をめぐってジロとカイが殴り合うシーン。

お互いの意見が相容れず、思い高ぶり殴り合う。またまた③で指摘したキャラクター設定と行動の剥離問題が顔を出す。

最終話まで回を重ねる中で、カイの追い込まれてもなお冷静で鋭い洞察力と分析力、ジロのやんちゃだけど真っ直ぐで相手に真摯に向き合う姿勢が描かれてきた。なのに、大して議論もせず感情の高ぶりにより、バディと殴り合いを始めるか?と思った。

拳で語る、という言葉があるがそれは一昔前のものだ。言論社会になった今、男同士であれ相容れないと分かった瞬間、喧嘩に持ち込むのは時代遅れだと思った。

ただ、喧嘩のシーンでジロとカイのあのグータッチが出たときに『あ、これをやらせたかったのか』と思った。それだけの為に殴り合い、させたのかと。

⑨突然投入されるラブストーリー要素

第3話の亜未がジロとカイに抱きつくシーン、第4話の野原救出の際に野原が泣きながらカイへハグ、そんな野原を思う田畑。所々にラブストーリー仕立ての要素があった。が、どれも中途半端に終わる。

え?今の何?まぼろしーーーー??!!(IKKO)という感じの脚本の薄さだった。この流れから視聴者に脚本家は何を伝えたかったのだろうか。

とういか、個人的に第4話の田畑の扱いがあまりにも不憫だった。イケメンヒーローとぽっちゃりでも心優しい思い人、結局後者が身を引いてイケメンヒーローがいいとこもってく構造。これも一昔前によくある話だ。

今は容姿とかそういうもので全てを判断する世界じゃない。脚本家は野原の思いに応える為にカイが前に出る事にしたのかもしれないけど、その場合でも、その後の田畑の心情など、何かしら彼に少しでも物語を紡いでも良かったと思う。本当、カイをヒーローにするための捨て駒にしか見えなかった。


【未満警察の印象】

ここまでドラマを見ていて私が違和感を感じた部分を書き連ねてきた。私がこのドラマで違和感を感じた部分をまとめると

【社会的弱者に対してあまりにも救いがない、 ヒーロー成長物語】

とでも表せるのかなと思った。

警察に助けを求めても救ってもらえなかった過去を持つ犯罪者、人身売買される家出少女、シングルマザーで妊婦の覚醒剤密売人、『死にたい』と訴える女性、真実を知りたいと望む死刑囚の家族。

これらの社会的弱者が登場するが、誰1人として本質的な意味で救われていない。というか、脚本からはこれらの人を救おうとする気配さえ感じられない。

例えば、スコップ男事件の真相を明らかにしたかった姉弟の扱い。

死刑囚の父が浮気をしていたことで事件のアリバイを成立させていた。今まで登場していない第三者の投入でなんだかその場しのぎな展開だった。母親は事件を目撃して殺され、しかも犯人は近所の警察官。父が死刑の判決を受けてから長年苦しんできたのに、最後の最後にここまで救いのない結末を用意。そして、姉弟には何も語らせない。逮捕された後は何も触れずフェードアウト。

その一方でジロとカイは成長し、警察官への道を歩んでいく。

弱者を切り捨てヒーローの成長の糧にする、  結局ヒーローのために多くが犠牲になっている話だった。


【未満警察とMIU404の描き方の違い】

警察官になろうとする2人が主役なのだから、そこまでモブキャラに意味持たせようとするなとか、考えすぎだとかいう人もいると思うが、モブキャラにきちんと配慮しても物語を紡ぐことは可能である。それを証明してくれたのがTBS金曜日10時に放送されていた『MIU404』だった。同じ警察バディものでも、明らかに違った。

未満警察とMIU404のどちらの話にも出てくる、家出少女について例をあげて話す。

未満警察の方では③で表したように同居男性が帰る前に逃げるよう指示を出し、コンテナから他の家出少女を救出した。そして、亜未がジロとカイにハグしてめでたしめでたしと幕を閉じた。

一方、MIUでは事件の目撃者として登場した家出少女だったが事件解決後、少女達に救いの手が差し伸べられている。

事件の目撃者として関わっていた弁護士が、警察、弁護士、電話のホットラインの案内をするシーンがあった。親の元へ帰ることを諭すのではなく、『福祉や行政機関が助けになる』ことを示し、家出少女達をセーフティネットに繋げていた。

約1分ほどのシーンではあったが、このシーンがあるのとないのでは雲泥の差がある。      家出少女達を物語を進めるための捨て駒にせず、彼女達を消費する存在がいる一方で、手を差し伸べる存在がいることを知らせ、未来を与えた。


同じ家出少女の描き方でも、私は圧倒的にMIU404の方を支持する。          ドラマというのはフィクションであり、私たちが現実世界から一時離れて楽しむ娯楽である。  だがそこに意味を持たせ、埋れた声を救い上げ社会に発信する手立てとなる側面を持つのも、ドラマなのだ。

MIU404は現代社会において、エンタメが担う役割まで考えて作られている印象を受けた。



【最後に】

話を未満警察に戻す。新型ウイルスの影響を受け、脚本の変更や撮影が思うように進まないなど多くの困難が立ちはだかる中、視聴者にエンタメを届けようと努力し続けてくれたドラマに関わる全ての人に感謝している。特に日本テレビは、撮影のガイドラインが他局よりも厳しく定められている点で、出演者やスタッフを守ろうという意思が伝わってきた。

ただ、私たち視聴者も日々変化していることを製作側に伝えたい。社会情勢が大きく変わる中、政治やジェンダーの問題について学び、意見を持つ人が以前より増え、その声はどんどん大きくなっている。そんな中、視聴者の変化に対応していない倫理観の作品を届けられても、私たちはそれをそのまま受け取ることなんてできない。

作品を制作段階できちんと精査し、物語が社会に与える影響を考えた上で世に放つべきだ。どうか今回のような作品が今後制作されることがありませんように。


あまちゃん










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