お金がない、という恐怖

お金に困った経験を持つ人はどれくらいいるだろうか。住む家があって電気ガス水道が通っている時点で、お金がないなんて言えない、と思う人もいることだと思う。それに関しては、そうだと思う。家がないとかそういう思いをしたことはないのだから。

私が人生で一番お金に困ったのは、夫婦で脱サラをしてラーメン屋をしていたときだ。

開業にかかった資金を返しながら、また子どもを二人育てながらだったこともあってバイトさんに来てもらいながら、固定の、少なくない家賃を支払い、と何も特筆すべきことはないか、普通の、飲食店の営業。

月末の、麺・お肉・野菜・お米・その他仕入先の支払いに遅れたことはない。
でも、請求書を見ると支払えるのだろうかとドキドキしたし、頭を抱えることはしょっちゅうだった。

毎日来てくれるお客さんも複数いたし、雑誌やテレビにも時々出ていた。夫は人生でこのときが一番ストレスがない仕事だったと話す。

確かに、楽しかった。お客さんともバイトさんたちとも良好な関係で、二人で協力しながら、楽しく充実した時間を過ごした。でも、資金繰りは厳しかった。お金がないというあのザラザラした感じは、二度と味わいたくないと思う。

むなしい、とでもいうかな。

売上を入力するとき、情けない気持ちになった。原価率を出したり損益分岐点とか見ると、頭を抱えた。確定申告も、恥ずかしかった。

ギリギリの生活。洋服も化粧品も、ほとんど買う余裕はなかった。映画もきっと、この期間、一本も見ていない。子育てに必死だったこともあり、それなりになんとかなっていた。
勤めていたときに貯めていたお金は、全部なくなった。
もちろん、すごく良い月もあった。でも、悪い月もあった。波があるということの怖さを知った。

野菜もお肉もお米も卵もお店のものがあり、家での食費にお金がほとんどかからなかった。そこは、本当に幸いだった。子どもも小さかった。習い事もなく、保育園と公園だけの生活。

子どものその先を考えたり、夫のその先を考えたり、私のその先を考えてくれたりして、お店は閉じた。

もしもあのまま続けていて、いまの状況が起きたら?と思うと、とても恐ろしい。

いずれにしても店はすぐに畳んだだろうけれど、夫の再就職先だとか、子ども達にかかる費用だとか、想像するだけで、息ができなくなりそうだ。完全に無理だった。早めに辞めてよかった。

もちろん、飲食店でも、このような状況下であっても、たくましくきちんと売上を出しているお店もたくさんある。

が、しかし。家業(たまご屋)を手伝う日は、そんなに多くないのに、3月、どれくらいのお店から3月末で辞めるという連絡を受けたことか。続けている飲食店も、本当に厳しく、大変な時期だと思う。

非常事態宣言を受けて、GW明けまで閉館が決まった施設などに入っている飲食店の打撃は凄まじいものがある。
(もちろん、補償もあるものもあるけれど)

あっという間に全部、卵の納品もキャンセルになった。
その数たるや。

商売の残酷さ、だけでなく、逞しさも垣間見える。
これほどの危機にあっても、食品の流通は止まらない、ということ。

食べることは、生きること、なんだと。

夫の、毎月のお給料が変わらずに入ってくることのありがたさをここまで思えているのは、定額のお給料がない、あのラーメン屋の時代があったから。ラーメン屋を開く前は二人とも勤めていたけれど、そんなことは思ったこともなかった。会社が、社会保険だなんだと、どれ程の負担をしてくれているか。

いまのありがたさを、二人ともひしひしと感じている。

お金がないことの苦しさ、をたくさん味わった時間だった。
お金がなくて喧嘩することの、絶望的な感じを知った。

お金がないということに周りの方は気付いていたかというと、わからない。話すことはなかったし、私は変わらずに元気で明るかったことだろう。楽しく生きていたから。周囲を羨んだりしたことも、ほとんどないと思う。自分で決めて進んで夫婦で協力して始めたことに、悔いなどなかった。

でも、辞めることを早々に決めて(6年半)よかった。
 
しかも、このお金がない時期、それでも幸せな時期に、活動を開始したんだもの。忙しくて身を削って大変そうな人をなんとかしたいという、活動。

ちょっと、笑ってしまう。見ようによっては、助けてもらいたいのはどっちだって話!?だよね。(笑)

どんなことをしていても、自分を犠牲にして家族を犠牲にして命を救おうとする医療者に、私はどうしても心を持って行かれてしまう。医療を行う人が幸せであってほしい。ひとを救う人に、幸せでいてほしい。それを願って活動を開始して、今ほどまたそれを願っていることも、またない。

あれ、あれれ、お金の話から活動の話になってしまったよ。

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