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パパ活の記録 一緒に朝を迎えられなかったパパの話 

地方都市在住、平日昼間は正社員として真面目に働いていますが、
訳あって30代前半を超えてからパパ活を始めました。
好きな言葉は「事実は小説より奇なり」、
ここではパパ活で出会った印象に残っている男性のことを書き記していきます。


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2月の朝4時、朝というにはまだ早いし、夜というには遅い時間、
私は家路に向かって歩いていた。
なぜこんな時間に出歩いているのかというと、
それは昨日の夜、つまり数時間前の話になる。

夜22時過ぎからある男性と会う約束をしていた。
彼と会うのは今回が3回目。
会う度にホテルで時間を過ごして、代わりにお小遣いをもらう関係だ。
彼はとある分野の芸術家で、私より少し年上だが
まだ若いながらに安定を築いている。
すでに家庭もあり、家族が実家に帰省するタイミングを見計らい、
この日も片道2時間かけて会いに来てくれた。

いつも通り、私の家の近くの大通りまで車で迎えに来てくれて、
そのままホテルへと向かった。
夜も遅い時間帯ということもあり、今日はそのままホテルに泊まるつもりでいた。
慣れた動作でホテルの部屋を選んで中に入り、行為が始まった。

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行為が一段落した頃、
私はコンタクトレンズを外してメイクを落とし
睡眠を取る準備に入った。
すでに1時半、
先にベッドに入っていた彼の隣に潜ってから、
まるで羊の数を数えるかのようにぽつりぽつりと二人で
雑談を交わし続けた。

すると彼がいきなり、
「やっぱり少し話さない?」と切り出した。
その声に何か意志のようなもの感じた私は
「じゃあ明かりを点けるね」と言って応えた。

「やっぱり俺、こういう活動は合わないわ。
風俗とか、俺にはそっちの方が向いてる」
「うん」
彼の言葉に対して優しく頷く。
私は与えてもらう立場だから彼の意志を否定することはできない。

「俺、ちゃんちちゃんに会うことに浮足立ってしまっている。
このまま続けるのはよくないんじゃなかいと、
いつかこの報いを受けるんじゃないかと不安になってきた。
ちょうど仕事が大きくなるタイミングで責任が増えて、
だから余計に慎重になってきた」

彼の言うことはもっともだ。
「そうなんだね。
私は、誰に何と言われようと自分がそれでいいと思えば続けるべきだと思うけれど、少しでも不安に感じることがあるならそれは続けるべきじゃないと思うよ」
そうだ、彼はいつも大事なことはちゃんと言葉にしてくれる。
そういうところが好きだった。
それにこうやって冷静な、まっとうな判断をする彼を
選んだ自分の目は正しかったんだとも思う。

「先にさ、焼きそば食べていい。食べるでしょ?」
そう言いながら彼は、来る途中のコンビニで買ってきたカップ焼きそばにお湯を入れ始めた。
行為をした後って、こういうジャンキーな食べ物が無性に食べたくなる。
二人で一つのカップ焼きそばを食べる。
そして食べながらこれからのことを話をした。
「もしかしたらまた会いたくなるかもしれない」と彼は言った。
「私はまた会えたらそれはそれで嬉しいけれど、もう会わなかったとしてもそれはそれで正しいんじゃないかとも思う。○○さんがどちらを選んでも正解だと思うよ」

「私、将来結婚したいんだよね」
「そうなんだ。さっぱりした性格しているからそういうのは興味ないんだと思ってた」
「興味あるよ。子どもが欲しんだよね。そうなると年齢のタイムリミットもあるしなあ」

いろんな話をして焼きそばを食べ終わると、どちらからともなく服を着てホテルを出る準備をする。
泊まる予定だったから鞄の中には替えの下着とメガネが入っているけれど、なんだか今はそれが虚しい。

そこから車に乗り、来る時と同じように
家の近くの大通りまで送ってもらった。
彼とのドライブが好きだったけれど、これが最後のドライブ。
私は彼に問いかけた。
「結婚して生き方が変わったりとかした?」
「変わったよ。ある売れる作品があるんだけど、俺作家だからさ、今まではそれを量産するのはあまり乗り気じゃなかったんだ。でも子どもができてから、その作品を作ったら売れるとわかっているから量産するようになった」
「とてもリアルだね」
「うん、リアルでしょ」

車を大通りに停車してくれ降りようとした時に彼が言った。
「結婚したいって言ってたけれど、もし結婚できなかったらどうするの?」
「まだ考えてなかったや。そうしたら一人で生きていく覚悟を決めるのかな」
「俺これまでもずっと考えていて、”こうなりたい”という目標が叶わなかった時にどうするのかって大事じゃないかなって」

最後の最後に、これははなむけの言葉なのだろうか。

私は「そうだね、叶うか叶わないか、どっちかだもんね。
自分なりに納得できるように答えを見つけて生きていきたいな」と答えた。
「納得するか。うん、そうだね。納得する答え」
何かに言い聞かせるように、彼は私の答えを反芻した。
そして彼の大きな手が私に向かって差し出され、
私はそれを強く握り返した。
「○○さんも仕事頑張ってね。応援してるよ」
いつも別れ際にはキスをしていたけれど、さすがに今日はしない。
お互いにそれぐらいの常識はある。

ついに車を降りて別れを告げた。
車が走り去るのを見送ってから、家までの夜道を一人歩く。
途中、街の建物の間から見えた満月がとても綺麗だった。
これが朝4時の出来事。

そういえば、この前見たドラマ「カルテット」の第二話で、
別府くんと九條さんが情事の後に明け方の空の下でサッポロ一番を食べているシーンがあった。
カップ焼きそばを二人で食べたところがなんだか似ている。
まるで短編ドラマのような、でも本当にあった夜のお話。

「もし結婚できなかったらどうするのか」
彼からの問いかけのメッセージが、
数日経ってからも深く心に響いていた。




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